第28話〜文化祭前日と僕〜
実は僕……文化祭というモノを体験したことがありません。
あしからず
文化祭前日。
今日も玉葛はバイトで来ていない。
そして、加西もまた、『あっはっはっは。君達ならできる。と私は信じている。いや、確信をしている。私も勉学に勤しんでくる。君達も頑張るのだ! あっはっはっは』と微妙な激励を残し、小松先生に連行されていった。
にしても、設楽さんは凄い。
キッチンスタッフの質問に答える傍ら、ホールスタッフの接客指導をして、そして最後に一芸スタッフの芸の洗練さをチェックしていく。
しかも、発せられる一言一言が的確で迷いがない。
まさにできる女、キャリアウーマンである。
そして今、彼女が話し掛けているのは、『よっ』と小さいかけ声一つあげるだけで100kgバーベルを余裕でリフトアップする紅葉である。
「紅葉ちゃん……もう少し、重たそうな演技出来ないのですか? 正直に言いますと、バーベルの重さも常識的な数値まで下げたいのです。今の紅葉ちゃんでは逆に客が引いてしまいます。紅葉ちゃんは力自慢なバカの男性客への切り札なのですから、もっと弱々しさを出してください。当然、アームレスリングの時も負けそうな演技をしてくださいね」
「う〜ん……分かってるけど……かおりん、それって、結構難しいんだよ」
「それは分かります。ですが、目的の為にも頑張ってください。お願いします」
とりあえず、紅葉は一芸スタッフだ。担当は重量挙げとアームレスリングだ。
紅葉のパワフルガールとしての知名度は知っている人は知っているが、知らない人は全く知らないという程度で、よくて運動神経の良い小さな女の子程度でしかない。
それに、加西いわく。
『あっはっはっは。私たちがターゲットにするのは、この学校の生徒ではない。確かに1日目は学校の生徒しかいないが、2日目、3日目には大量の学校外の客がくる。我がクラスの事を何も知らない客が来るのだよ。良いカモではないか。正にネギを背負ったカモ、カモネギなのだよ。あっはっはっは。最終日はカモ鍋だ!!』
奴は悪魔なのかもしれない……。
「佳織。今戻ったぞ。……ちっ。龍の奴いないじゃないか!!」
教室に、髪の短い短気な少年がやって来た。
「満。首尾はどうなのですか?」
「ちっ。頑張って来た仲間へのいたわりの言葉は無いのかよ。まぁ一応、初めの値段より二割値下げしてきた」
奴が変人だが有能な三人の最後の一人。津田満である。
いつも眉間にシワを寄せ、難しい顔をしていて、口調態度ともに良好とは言わないが、なかなか成績もいいし、なんだかんだで優しい人物である。
「二割ですか……予定していた数値では無いものの、問題ないでしょう。龍から次の指示を預かっています。頑張ってください」
と設楽さんがメモ用紙を津田に渡しながら教室の片隅を指差した。
何やらスピーカーなんかが置いてある。
「てか五割は無理だろ、普通。っで次の仕事もむちゃくちゃなんだろ? ……やっぱり。何考えてるのだか……」
「龍の考えです。満が感化する事ではありません」
「はいはい。我が偉大なる龍様の為に、ハイルノッボルー。……はぁ…………」
満は、やけくそ気味な言葉と盛大なため息を残し、数個の機材を持って教室を出ていった。
「ところで、安森くん。さっきからボーっと立っているだけの様ですが、分かっているのですか? 無論分かっていますよね? 分かってる筈です」
設楽さんが僕の方へと向かってくる。
何か気に障ったようだ。
「……どうやら、本気で分かってない様子ですね。良いですか? 安森くん。貴方は対女性客用接客兵器なんですよ? 理解してくだい!!」
対女性客用接客兵器……命名は当然加西だ。
役割としては、主に接客担当。しかも女性客専用の。
渡された作戦メモ(加西作)によると。
1、常に無言。
2、見せるは、心からの感謝の笑顔。
3、受け答えは、筆談で。
4、一度目の客が帰る時には“またのお越しをお待ちしまし”と言うメモとまぶしい笑顔を。
5、リピーターの客が帰る時には『ありがとうございます』とそっと耳打ち。※ただし、2人以上の場合、耳打ちをするのは、どちらか片方だけ。基準はよく話し掛けて来た方
とのことだ。
僕には、無茶にしか思えない作戦だ。第一にまぶしい笑顔ってどうすればいいんだ?
源太に教えてもらっていた時なんかはクラスの女子数名が保健室に運ばれて行ったけど、あれでいいのか!?
一緒に運ばれた紅葉に感想を聞いても、『うん……知らない他の女の子に見せなきゃいけないってのが悔しいよ……かと言って、私も見たら見たで身が保たないし……あぁ!!』と何やら悩み始めてはっきりとした意見は聞けなかった。
うん、と言っていたので、たぶん、あれで良いのだろう。
とにかく明日は文化祭一日目……頑張ねば……
「あっはっはっは。皆の者、喜べ! 無事、補習補講は終了した!」
玉葛(以下玉)「きぃさぁまぁ!!! ワラワの出番はどうした!!」
えっと玉葛さん……暗黙の了解は?
玉「知らん!! 有って無いような決まり事なんて棄ててしまえ!! そんな事よりワラワの出番!!」
一応……冒頭に……
玉「名前だけな。ふざけるな」
でも……
セフィリア(以下セ)「玉葛! 貴様はまだいい方じゃぞ! 妾なぞ名前すら出ておらん。出番を用意するのじゃ!!」
んなむちゃくちゃな……
玉「次回だってワラワに出番は無し! 無いどころか、最近晴信と会話をしておらん! なめとるのか!?」
セ「そうじゃ。 妾にも出番が無いどころか、大豊だってあまり出番が無いらしいじゃないか。死にたいのかえ!?」
ヒィィィ
頑張って次回の次回には出します。
大豊だって……
てなワケで次回をよろしく!!
玉・セ「こら!! 逃げるな!!」