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酔いどれ兎シリーズ

酔いどれ兎は秋を侮れない

「ぐびぐび」


「ごくごく」


「ぷはっ」


「ふー」


『うまい』


「いやー、しみるぜー」


「はー、染み渡ります」


「たまには違う酒も悪かねえな」


「私も普段飲みませんが、これはいいですね。あまりお酒っぽくなくて」


「いやしかしラビ、ラッキーだったな」


「タイミングが良かったです。クマ吉さん、はちみつが今年は思いの外多くとれてしまったからって色んなはちみつを使った料理をしてたみたいで。それで、はちみつ酒ならトビも喜ぶだろうって」


「ありがてえな。しかし、言ってる間に冬眠だもんなあいつ」


「もう既に眠そうでしたよ」


「ちょっと早くねえか?」


「今年は早めに寝ようかなって言ってましたよ。起きててもする事ないですしって」


「暇なやつだな。冬眠どころか、前倒しで秋眠か」


「普段からやる気ないですからね、クマ吉さん」


「睡眠の秋ってか。そのうち四季まるまる眠りこけるんじゃねえか」


「それはもはや永眠ですよ」


「口が悪いぞ、ラビ」


「失礼」


「クマ吉が寝ちまう前に謝っとけよ。しっかし、秋って何なんだろうな」


「どうしました?」


「食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋とかって言うだろ?」


「言いますね」


「これ聞いてよ、何も思わねえか?」


「何もとは?」


「いやだからよ」


「はい」


「これ全部、秋じゃなくてもいいじゃねえかって」


「ああ。まあ、そうですね」


「食欲だって、秋だって、スポーツだって、秋以外にもするだろ?」


「しますね」


「なんでそんなよ、秋! って所を強調するんだよ。秋だからこそ今がやり時ですよ! みたいなよ」


「何かまた難癖ですか?」


「ちげえよ。もっと疑問を持って生きろって事だ」


「何に向かって言ってるんですか?」


「生きとし生きる者達にだよ」


「何様なんですか」


「まあいいじゃねえか。しかしどう思うよ?」


「残念ながら疑問を持たずに生きている派閥だったもので、考えた事もなかったですよ」


「じゃあ今考えようぜ」


「むう」


「なんだその不服そうな声は」


「いえいえ、そういうわけでは。そうですね。まあ、あれじゃないですか」


「お、はええな。何だよ」


「チャージですよ。チャージ」


「チャージぃ?」


「冬はやっぱり寒いですからね。冬に備えるって意味合いがあるのかなと」


「備えね」


「食欲はまあ私達のような動物界の中で冬眠する者達もそうですが、厳しい寒さを乗り越える為に腹を備えるという所ですね」


「じゃあ読書とスポーツは何の備えなんだよ?」


「スポーツはほどよく寒く過ごしやすいから、こんな時期に動かないのはもったいない。どうせ冬は寒くて外で動く気になんて、なかなかならないでしょうからね。秋の内に動いて筋力、体を備える。読書は……なんでしょう。知識? ですかね」


「読書だけやっつけすぎねえか?」


「すみません。あまり納得できるような答えが出てきませんでした。というか、今話ながら思ってたんですが」


「おう、何だ?」


「ひょっとしたら、冬っていうのは皆何もしない時期だったんじゃないですかね」


「何もしない時期?」


「それこそ冬眠じゃないですけど。皆活動するのは秋までだったんじゃないですか。冬は全てにおいて備えの時期で、基本的に何もしない季節だった。だから秋になった時に、もうすぐ冬だからいろんな備えの準備は出来ていますか、っていう事なんじゃないかと思ってみたり」


「なるほどな」


「だいぶ荒いですけど、こんなもんでしょ」


「そんなもんだな」


「ほんと何様なんですか?」


「怒ってんのか?」


「純粋な感情です。で」


「で?」


「いやいや、トビの答えを知りたいんですよ」


「ああ」


「秋の秘密を知りたい所ですね」


「俺は結構、もっとシンプルかと思ったんだけどな」


「ほう、と言いますと」


「宣伝だよ」


「宣伝?」


「多分よ、人気なかったんだぜ。秋って」


「そんな、まさか。素敵な季節の一つじゃないですか」


「今でこそな」


「じゃあ、秋の人気の為にって事ですか?」


「頭で連想してみろよ。春、夏、秋、冬」


「はあ」


「秋って、なんかパンチ弱くねえか?」


「えーそうですか?」


「春は桜、宴。新たなスタート。夏は暑い太陽。開放的な海や祭り。冬は雪、そしてクリスマス、バレンタインデー、恋を深める季節」


「恋を深める季節だなんて、またキザな事を」


「秋ってよ、何が出てくる?」


「やっぱり、紅葉ですかね。葉が色づいて素晴らしい景色じゃないですか」


「他には?」


「えーっと……秋刀魚、とか」


「いきなりスケール小さくねえか」


「秋刀魚に失礼ですよ」


「それは後で謝っておく」


「そうして下さい。後は、松茸とか……あれ、意外と出て来ないですね、秋」


「意外と出て来ねえだろ?」


「食欲、読書、スポーツ。後は、芸術の秋なんて言ったりもしますけどね」


「秋って言われたら出てくるのはそういうフレーズものだろ? でもこれ! って言うやつって案外ねえんだよ」


「じゃあ、そんな秋を想ってこんな様々な読書やら何やらの秋を付加価値として付けたと?」


「想うが故のメッセージなんじゃねえか」


「あまり素直には頷けませんけどね。秋に人気がないなんて、思えないですよ」


「想像でしかねえからな。でも今となってはそんな秋のおかげでだ。どの季節にでも出来そうな文化ってやつの促進になってるじゃねえか」


「確かに」


「秋のおかげで、本を読まねえ奴らが本に触れる機会が出来たかもしれねえ。芸術に興味がない奴らが、秋だしちょっと触れてみようかなって思う奴がいるかもしれねえ。スポーツはあんまりって奴らが、スポーツの秋だし、ちょっと何かやってみるか、なんてどこかの誰かが思ったりしてるかもしれねえ」


「そう考えたら、秋ってなんだか素敵ですね」


「不思議な季節だよ。秋にパンチ力がねえなんて言ったけどよ。目立たねえから不必要ってわけじゃねえんだよな。縁の下の力持ち、ってのはちょいと違うかもしれねえが、こういう控えめながらほっとけねえし、そこにいてくれると安心するような存在ってのは大事なもんだよ」


「結論、トビは秋が好きなんですね」


「押しの強いより雌より、控えめでも目を引く雌の方が魅力的って事だ」


「そんな話でしたっけ?」


「そんな話だよ」


「違うような気もしますが、まあいいです」


「そんな季節にもう寝ちまうなんて、クマ吉ももったいねえよ。ある種、色んなものへの出会いの季節だってのに」


「彼にとって睡眠がトビの言うような魅力的で安心できる存在なのかもしれませんよ」


「そうなのかねえ」


「まあでも、このクマ吉さんからもらったはちみつ酒との出会いも、秋が呼び寄せてくれたものだったのかもしれません」


「ちょっと強引じゃねえか?」


「秋がある意味最強かもしれませんよ。何でも、なになにの秋にしてしまいますからね」


「秋め。侮れねえな」


「さ、もう一杯飲みましょうか。にんじん酒じゃなくていいですか?」


「ああ。甘ったるいが、この味も悪くねえ」


「いい出会いになりましたね」


「秋のおかげって事にしておこう」



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