part3
ペラッ……ペラッ……ペラッと、本を誰かがめくる音が聞こえてくる。
重い瞼を開くと目の前には、クスの木張りの天井にランプが吊るされていた。
「あっ! 目が覚めましたか?」
シュレットが片手に持っていた本にしおりを挟むと、パタンと本を閉じ言ってくる。
「ここは?」
目が覚めたすぐのレスフィンは、周りを見渡し、自分が今置かれている状況を整理する。
レスフィンは上半身裸の状態でベッドに寝かされており、傷口には簡易的な治療が施されていた。時は昼時くらいにはなっていた。部屋の内装は天井と同じ、クスの木張りの部屋に椅子とテーブルがワンセットずつ置かれていた、森での記憶は、出血が多過ぎて意識を失ったところで途切れていた。
必死でどうなったのかを考えるも、全く状況の理解ができない。
「状況の説明なら、私がしましょうか?」
首を右に傾け、左に傾けしてると、木製の簡素なイスに腰掛けているシュレットはどうやらレスフィンが何を考えていたのか察したらしくい。
「お願いします」
「まず、場所の説明からですけど、ここは、セウェルの街です。わかります?」
「あ〜、俺、地理学は苦手なんですよね」
「そうですか、でもまぁ、とりあえず説明しますよ?」
「お願いします」
「昨晩、あなたが薪を拾いに行ったあと、森でレッドウルフの遠吠えが聞こえましてね、その声の主の元に行ったところ、その声の主は血をまき散らして死んでいましてね、その近くにあなたが倒れてたんですよ」
「で、その後は気を失った俺を馬車に乗せて、レッドウルフが仲間を呼ぶ前に、近場のこの街を目指して夜通し馬を走らせた。 というとこでしょうか?」
「まぁ、そんなとこですね。あなたのお父上とお母上は、隣の部屋でナルハと一緒に休んでいます」
「ありがとうございます。それじゃあ俺は、少し散歩に行ってきますね?」
レスフィンは、ベッドにかけてあった上着を着ながらそういった
。
セウェルの街は始めて来た。せっかくだし、街を見て回らなくては損だ!
「その前に、ひとつ聞きたいことがあるんですが」
「なんでしょう?」
ドアを開きかけたところで質問が来たので足を止める。
「森でレッドウルフに襲われたとき、どうやってレッドウルフを倒しました? レッドウルフの腹には、とても人間業じゃないような傷跡がありました。ちょっとその点について、説明が欲しいところなのですが?」
「つまり、俺が人間じゃないと?」
「…フフッ…そうゆうわけじゃありませんよ」
レスフィンが少しからかうような口調で言うと、シュレットは予想外の回答に、一瞬ぽかんとして笑をこぼす。
「それじゃあそろそろ行きますね」
「ちょっと待ってください。もう単刀直入に聞きますよ? あなたは、魔法が使えるのですか?」
うわ! マジでかよ! この質問だけが、今もっとも聞きたくないことなのに。
なぜなら、そもそも魔法とは、誰もが偶発的に使えるようになる訳ではなく、魔法が使えるようになる訓練を積む必要がある。
その訓練の内容は、基本的に集中力を高めるために瞑想をただひたすら続なければならない。
そして魔法陣を編むための光が、自由に灯せるようになり、やっと魔法の発動の練習となる。
レスフィンまだ、複雑な魔法陣を編むことはできない。レッドウルフを倒した時に使ったフォースも、魔法の中で最も単純な構造なのだ。
というよりも、自由に光を灯せるようになるまでさえ、一年の修行が必要とされる。
使えるようになっても、そこには色々な責任や義務などというものが生じる。
レスフィンはげんなりしつつ、避けて通れぬ質問に答える。
ハァ~、めんどいことにならなければいいが。
「結果から言いますと、俺は魔法が使えます。最も、魔法陣が単純なフォースくらいですが」
「やはりそうですか。いいですか? くれぐれも、魔法は勝手に使わないで下さい。魔法を使えるものには、義務や責任などが発生します。それを破ると、法律に触るので、家に戻ったら、魔法講習というものがあるので、それも一度受けてください」
「えっ!?」
あまりのことに、声を漏らさずにはおられない。
マジかよ、めんどっ!
「じゃ~、お願いしますね。ちゃんと行ってくださいよ?」
「はっ…はい。それじゃ、行ってきます」
レスフィンはやつれた顔つきで逃げるように部屋を出た。
この街は、とても活気があった。近くにはとても大きなコルシ湖という湖あり、主に漁業が盛んな町だ。気候も文句なしなくらいに住むのに適した気候だ。
始めてきたんだし、せっかくだからゆっくりしたいところだけど、時間もないからコルシ湖を見に行って帰ろうかな。
そう思ったレスフィンは今、どことはわからぬ橋の上にいた。
「最悪だ。どこだ、ここは」
声を出しても、ここがどこだか答えてくれる人がいるわけではない。だが、声を出さずにはいられない。ここがコルシ湖ということはわかってる。だが、それ以外はわからない。ここがコルシ湖のどこに位置するのか、それがわからない。
とりあえず、来た道を戻ろう。こっちであってるよな?
レスフィンは、虚ろな記憶をたぐり寄せながら、重たい足どりで歩くことにした。
「ちょ…そ…た…けて…」
途切れ途切れの少女の声が、何処からともなく聞こえてきた。
回りを見渡しても人はいない。
気のせいだろ? そう思い、歩き始める。
「助けて」
今度ははっきりと聞こえた。
レスフィンは声を主を探し、周りを見渡す。
見つけた!
そこには、遠くだからよくは見えないが、恐らくレスフィンと同じ位であろう年の少女が、溺れていた。
この橋には落ないように柵もつけてある。右も左もわからない子供ならまだわかるが、レスフィンと同じくらいの年だから、すくなくとも右左はわかるはずだ。
もしかしてタチの悪い自殺志願者が、怖くなって助けでも呼んでんのか?
「ど〜したんですか〜〜」
「助けて! あたし、泳げないんです! もう限界ですぅぅ……」
どうやら力尽きたらしい。ブクブクという泡立つ音をを遺言に御臨終になられている。
ヤバっ! これやばいやつじゃん!
「後少し頑張って下さい!」
レスフィンは周りを見渡し、救命具などがぶら下がってないかさがす。
クソっ! どこにも見当たんねぇッ! 仕方ないッ、腹を括れ…俺ッ!
レスフィンは特別泳げるわけでわないが、そんなことは言っていられないので、上着を脱ぎ捨てると勢い良く、湖に飛び込んだ。
「いやぁ〜、助かりました。あれはちょっと、やばかったですね」
さっきまで、海の藻屑……いや、湖の藻屑となりかけていた少女を見据える。
栗色の髪が腰までのび、パッチリした目が特徴的な自分と同じ位の歳の少女を見る。
結構可愛い上に、水に濡れて下着が透けているので、目のやりどころに困るのだが、全くそれを気にする様子もないようだ。
助けたんだから、これくらいいいかな? いや、いいに決まってる。そうだ、助けたからいいだろう。
レスフィンはそんな自問自答を繰り返しながら、結局は、ガン見する度胸もないので、見ないようにする。まぁ、チラ見はしてしまうが、特に気にする様子もないのでいいだろう。
「おーい、聞いてますかぁ?」
「あっ、ごめんごめん。 ところで、なんであんなところで溺れてたんですか?」
「それが、聞いてくださいよ!」
「あっ、は…はい」
急に彼女が声のトーンを上げるので、後ろから誰かから押されたりしたんだろうか? などと思考を巡らせ、少し真面目に耳を傾ける。
「実は」
「実は?」
彼女が真に迫った顔をして近づいてくるので、つい、ゴクリとつばを飲み込む。
「釣りをしてたら大物がかかりましてねぇ、竿ごと持ってかれちゃいましたぁ♪」
「……」
「あれぇ、どうしました?」
真面目にきいた俺が馬鹿だった。
とりあえず、街の方までの道を聞いて、早く帰ろう。
「それじゃとりあえず、道に迷っちゃたので、市街地まで案内お願いしてもらってもよろしいでしょうか?」
「かまいませんよぉ」
例の出来事より、約30分後、少女と別れたレスフィンは、宿に戻ってセウェルの街を後にした。
祖父の住む領地は夜頃には届くだろう。
レスフィンは、夕日を眺めながら、そんなことを考え、ボケーと暇な時間を楽しんでいた。
あっ! そう言えば、あの子の名前、聞いてなかったな。
レスフィンはそんなことを思いながら、祖父のすむ領地へと進む馬車に揺られながら、寝ることにした。