part2
家を出て、軽く自己紹介をして、かなり時間がたったころだった。
日は傾き始め、カラスの群れは巣に帰り、周りが夕闇をおびてきた頃、レスフィン達は、木々が、鬱蒼と生い茂る森の中にいた。
「そろそろ、ここいらでテントを張りましょう」
父さんが、口を開いた。
「そうですね、この辺は狼が多いですから。そろそろ火をたいておかないと、野生の狼に襲われるかもしれない」
シュレットが答える。
確かに、この辺の狼は夜行性が多く、10匹にもなる群れを作る種類もいる。
だから、この辺では野宿をする人はほとんどいない。
もし野宿をするとすれば、早めに火はたいていたほうがいい。
「レス、薪を集めてきてくれないか?」
父さんが言ってくる。
「はいはーい」
レスフィンは、軽く返事をして 薪を集めるために、馬車からひょいと飛び降りた。
動いている馬車から飛び降りたので、着地したとき、「おっと」と声をあげてバランスを崩し、危うく倒れかける。
「薪なら私が集めてきましょうか?」
「そうですよ、レスフィンくんは休んでてください」
シュレットが口を開き、ナルハがそれに続く。
「いや大丈夫ですよ。まだそんなに暗くないから、野生の狼の心配はそんなにしなくていいし、それにここは、死獣の発生区画外ですから一番危険なやつの心配もないですし」
「でもー」
「大丈夫ですよ。それにレスは、ずっと馬車に揺らされ続けて、動き回りたくてウズウズしてるんですよ」
反論しようとするナルハを父さんが制する。
「そうですか、それじゃあ気をつけてください」
ナルハは、仕方なくため息混じりに言ってくる。
どうでもいいことだか、ナルハは、見た目の割には、ちゃっかり心配症のようだ。
「行ってくるよ」
そう言って、レスフィンは、手を振って薪を探しに行ってきた。
薪を拾い初めてそろそろ10分ほどたつ。
もう両手には、たくさんの薪が抱えられていた。
「よし! これだけ集まればいいかな? 今日のご飯は何かなー。外で食べるご飯もまた、格別なんだよなぁー」
そんな楽しいことを考えながら、戻ろうとしていたときだった。
クチャッ、キチャッ、グチュッ。
変な音が聞こえてくる。
「なんだ、この音は」
レスフィンは、突然聞こえてきた、いや、もしかしたらもっと前から聞こえていたかもしれない、変な音に疑問を持った。
「音の聞こえ方からして、そんなに遠くはないな。 どうするか……よしっ! ちょっと見てこようかな」
レスフィンは、そんな自問自答を、適当に済ませ、たくさんの薪を抱えたまま、音の方向に向けて、歩を進める。
クチャッ、キチャッ、グチュッ
音が大きくなってきた。
「結構近づいてー」
結構近づいてきたな、レスフィンがそう言おうとするも、言葉を言い切る前に、その目の前に広がる光景に気付き、近くにあった木の陰に身を隠した。
赤い体毛の狼が、野生の鹿をハントして、食事をしている。それが、レスフィンの眼前に広がる光景だった。
レスフィンの記憶によると、その、鹿をハントした、赤い体毛の狼の存在が危険だった。
レッドウルフ。大きさは、狼の中では、中の下くらいだが、狼の枠組みで、いや、野生動物の枠組みの中で、もっとも危険な動物だった。
レッドウルフの最も恐れられるところは、群れの大きさだった。
狼は普通、六匹から十匹位の群れで行動する。だが、このレッドウルフのみが例外で、何十匹もの群れで行動する。
(マズイな、とりあえず、戻ってシュレットさんたちに報告よう)
ここからさろう。そう思い、動いたその時だった。
コンッ
すんだ音がひとつ。
それは、レスフィンが持つ薪が腕からひとつこぼれ落ちた、最悪の音色だった。
恐る恐る振り返ると、レッドウルフがこちらを凝視していた。
気のせいか、一瞬レッドウルフの顔に笑が浮かんだようなきがした。
早く逃げよう。早く逃げよう。何度も心の中で、連呼しながら、全力で走る。
レッドウルフもレスフィンを全力で追いかける。
人と狼、もちろん人が狼より速く走れるはずもなくすぐにレスフィンは追いつかれる。
「グルォォォォォ!」
距離が、1メートルもないくらいに近づいた時、レッドウルフが飛びかかってきた。
「うあっ!」
レッドウルフに右足の肉を喰いちぎられ、ズサァァと滑りながら倒れる、突き刺すような痛みが、傷口を襲ってくる。
「うあぁあぁぁああ」
あまりの痛みに声が出る。
馬車までは距離があるから、こちらの声もおそらくは届かないだろう。狙ったのか、足も肉を大きく喰いちぎられ重傷だ。
ー絶体絶命ー
一言で表すなら、それ以外にないだろう。
「やるしかー」
やるしかない、そう言おうとしたそのとき、レッドウルフが次なる攻撃を与えてくる。
「あぁぁぁぁ!」
レッドウルフが、倒れ込んでいるレスフィンの左腕に噛み付いてきた。次は、肉だけでなく、骨ごと喰いちぎろうとしているのか、深く、牙がくい込んでいた。
「あぁぁぁぁ! く…やって……やってやるッ!」
レスフィンはそう決心を固めると、自由な右手の人差し指を立てる。
(まさか、趣味で練習していた魔法が命を救うことになるとはね)
レスフィンは、そう思うと、右手の人差し指に意識を集中させる。すると右手の人差し指に、蒼く、強い光を放つ粒子が集まる。
「あぁぁぁあぁ!」
レスフィンが、魔法を使おうとすると、レッドウルフは顎にさらに力を加る。
集中力が緩み、光が弱々しくなる。
もう骨に届いてるのか、激痛と共に、ミシリと。恐らくは骨が砕けているであろう音も聞こえてくる。
(負けるか!)
そう思い、さらに意識を集中させる。すると、レスフィンの人差し指に、最初よりも強く光る粒子があつまる。
ー準備完了ー
レスフィンは、次に、レスフィンは空中に光を灯している人差し指で、十字架を描く。そしてその人差し指の軌跡を蒼く、淡い光の残光が描き、レスフィンは、唱える。
ーフォースー
レスフィンがそう唱えると、シャーンと、鈴のような音がなり、レスフィンが創った十字架が蒼く、強く光る粒子となり、砕けちる。
(肉体強化魔法、フォースは成功した)
レスフィンは、最後に強化させた右腕を振りかぶり、まだ自分の左腕を骨ごと喰いちぎろうとするレッドウルフを見据える。
「かっとべぇぇぇぇ!」
レスフィンは叫びながら、光る右腕でレッドウルフのあばらめがけて力を込めた一撃をぶち込む。
ヒュギャッと音と共に放たれた、光の如き一撃は、見事にレッドウルフのあばらを捉え、バキョッというあばらの砕ける音とともに、20メートルほど吹っ飛んでいき、残った残光がレスフィンの拳打の軌跡を描く。
(終わった)
短い時間に起きた出来事に対して、そう思いながら、吹っ飛んでいったレッドウルフを見据える。
だが次の瞬間、驚くべきことに、レッドウルフは、弱々しくも震えながら起き上がった。
「ウォォォォォォォン」
最後に、そう遠吠えをして、パタンと倒れこんだ。
(ヤバイ、恐らく仲間を呼んだ。早く戻らないと)
そう思い、レスフィンは馬車に戻ろうと歩こうとするが、出血のあまり、倒れる。
(く……そ。あ…と……す…こ…)
そこで、レスフィンの意識は、闇の中へと、深く。深く。沈んでいった。
お久しぶりです。一週間遅れた投稿です。やっと簡単なバトル描写です。結構いい感じだと思うので、ぜひ読んでください。魔法も使いまいたが、詳しい説明もちゃんとします。楽しみにしててください。それでは、