はじめに
これは、私達よりもほんの少しだけ賢い人類のお話です。
この世界では、全ての人が幸せに生きています。
私もかつてそこに住んでいたのですが、
ある事情で大半の記憶を失ってしまいました。
ですから今日は、私がその世界について覚えている
数少ないことの一つをお話ししましょう。
この世界には昔から伝わるひとつの遊びがあります。
その名は「ユートピア」。
遊び方を説明しておきましょう。
まず、話し手一人と聞き手に分かれます。
話し手は自身の想像力を駆使して、ひとつ「愚かな世界」を考えます。
次に話し手は、そこに生きる愚かな空想人類の滑稽さを聞き手に語ります。
そして、そこであまりに突飛な世界が想像され、聞き手が我慢できなくなると
その世界のナンセンスさを認めて「ユートピア!」という掛け声を送ります。
以上、とても簡単な遊びです。
そしてこの遊戯録では、私が知るユートピアの中でも
特に滑稽だったものを、思い出すままにお話しします。
きっと、幸せな世界と言われてあなたが聞きたいのは
こんな話ではないのでしょう。
しかし、あいにく憶えていないのです。
あの幸せな世界への憧れはこれほど強いのに、
なぜはっきりと思い描くことができないのか。