第六話
「陛下?って……皇帝陛下?貴方が?」
つい言ってしまった言葉だったが、そばに控えた侍女は顔をしかめただけで答えてはくれない。
「いかにも。私が皇帝だ。まぁ、正式には明日からだがな」
と思ったら、本人が返事を返してくれた。
「明日から?」
「そうだ。思いの外害虫退治に手間取ってな。こんな時期までズレ込んだが、明日即位の予定だ。先々代皇帝である祖父の自称・弟殿から強制的に譲位してな」
「何故自称なのかも気になりますが……強制的に譲位する理由をお聞きしても?」
「祖父の弟とは言っても、曾祖母である前太皇太后の子ではなく、第三側妃の子でな。それだけならともかく、曾祖父の子ではないというのが公然の秘密だったのだ。何しろ、三代前の皇帝だった曾祖父がお年を召した後で更に病の床についてからの子どもでな。皇帝の生前に身ごもったとはいえ、血筋が怪しいというのは誰もが知る話だったのだ」
「はぁ」
何やら一気にきな臭い話になってきた。どんな厄介事に巻き込まれるやら。
「その上、私の父は実に在位期間が短かった。その期間がなんと一週間とはな。しかも暗殺疑惑付きとくる」
「はぁ。なるほど」
「よって、その後釜に座った自称祖父の弟殿が怪しいと睨んで、大人しいフリをしつつ証拠集めに奔走していた訳だ。まぁ、王家の財産の横領疑惑もあったのだが」
「はぁ。それは大変でしたね」
「大変だったとも!」
次期皇帝陛下は腕を組みつつ、実感を伴う頷きで返事を返す。
「と、いう訳で。証拠集めに始まり身柄確保に横領された王家の財産の押収など、様々な過程を経てようやく明日の即位に漕ぎ着けた訳だ」
「それはおめでとうございます…?」
それは大変だっただろうとは思うが、私が部屋を移動させられたのと今の話がどう関係してくるのだろうか。
「有難う。いや、実に大変だった。そして、お前は明日から皇后だ」
「…………はぁっ!?」