第五話
部屋も粗方片付いて持ち込んだ私物の場所をそれぞれ決めた後は、することもなく暇になったのでただウロウロ歩き回ったり、意味もなくソファーに座ってみたりした。
今まで使っていた家具とは違って、段違いにふかふかしていて体が沈みそうな程だ。なんだか場違いな場所にいるみたいで居心地が悪い。
ドアの外からノックの音がした。
なんだろ?
侍女(と言う人が私に付くらしい)が薄くドアを開けて、外の護衛(見張りじゃなくて護衛らしい)とやり取りをして告げる。
「陛下がいらっしゃいます」
部屋に控えていた侍女の、振り返り際の一言で慌てた。
「へっ陛下!?って皇帝陛下!?ちょ、ちょっと待って!!」
心の準備が整わないまま皇帝陛下が通された。
「っお初にお目に掛かります。陛下に於かれましてはご機嫌麗しく……」
急いでガバッと頭を下げ、挨拶をしようとすると。
「今更改まられてもな。面を上げよ」
覚えのある声が降ってきたかと思うと、先程牢獄から出してくれたばかりの人物が目の前に佇んでいた。
そういえば、空中牢獄を開けることができるのは皇族の血筋の者だけだと聞いたばかりだ。
しかし、あんなに頻繁に牢獄に訪れていた人物がまさか皇帝陛下だとは思わないだろう。何と言ってよいか分からず、ポカンと口を開けたまま皇帝の顔を見つめる。
そう言えば前に本で見た、初めて大陸を統一したという初代皇帝の顔に似ている気がする。今では独立したりして初代皇帝の頃とは領土も変わっているはずだが、それでも大陸一の広さを誇ることは変わっていなかったはずだ。
どうして今まで気付かなかったのか。
いや、気付く訳がない。確か初代皇帝の顔を見たのは、頼んだ本の中に何故か紛れていた国の歴史書(それも相当古い、茶けた紙の角がボロボロのやつ)でササッとラフに描いたイラストのような肖像画が初めてで、その後には見かけた覚えもないのだから。 ただ、簡単に描かれた単純な線の肖像画とも言えないような肖像画でも、どこか遠くを見ているような寂しげだけど理知的な目と、スッとした顎から耳にかけてのライン、整った鼻筋など特徴のある美形だったのだ。目の前の皇帝には、その初代皇帝の面影があった。
それで何故牢に居る時に気付かなかったかと言えば、採光用の窓がなく何か作業をする時につける蝋燭などの光源と天井から照らす部屋の規模に合わない小さな灯りの周辺以外はうっすらと暗い部屋だったのに加え、今のような威厳のある格好をしていなかったから。
と、言い訳させて貰おう。