第一話
生まれて此の方、私の知る世界は四角い部屋一つ分が全てだ。
この部屋が人ひとりにあてがわれるのに通常の広さなのかは知らない。ただ、そんな私でも、この部屋が一生この部屋を出ることの無い人間にあてがわれるには狭いものだとは知っている。
端から端まで歩いて10歩。それだけが私に与えられたスペースだ。
その中に机、ベッド、本棚等があり、有り余る暇に任せて読み漁った本が本棚から溢れ、床に積まれる様になると、もう生活スペースは微々たるものとなってしまう。
部屋には窓がなく、お陰で日が差さないのでここが何階なのか、塔の上か、地下なのか、はたまた昼か夜か、一向に分からない。頭上の明かりだけが部屋を照らす唯一の灯りだ。
昨日借り出した本は読み終えてしまったので、部屋の壁の内一面だけにある檻の金属をカンカンと叩く。
そうすると、のっそりと見張り番がやって来て無言のまま視線だけで用事を問われ、新しい本が読みたいのだと言って読み終えた本を渡す。
差し出された本を見やるなり、現れたときと同じ様に男は無言で本を受け取ってそのまま踵を返す。暫くするとまた男は新しい本を持ってやって来るのだろう。
そう、私の“部屋”にはドアなどという気の利いたものはない。ドアどころか、壁一面分が丸々開いていて私の行動は一部始終丸見えだ。その上金属製の檻に阻まれ出ることは叶わない。この“部屋”は言わば中の人を閉じ込めて出さないための、そして行動を制限して逐一監視する為の、正しく牢獄だった。