『儀式の間』
「ここが……儀式の間」
相変わらず蛍光グリーンの光が周囲から発光し、独特な空間を作り出している。
だが、それだけではない。
ミレアさんの言ってた通りの巨大な石像が正面にドーンと離れた場所から俺達を見下ろしていたのだ。
加えて俺の立つ階段入口と石像の中間には、円形に突き立つ柱状の大きく細長い石が立ち並んでいる。
俗にいうサークルストーンという奴だろうか?
一つ一つの石には見た事もない文字が刻まれていて、もっと近付かないと分からないが、サークルストーンの中央には円形の魔法陣のような幾何学模様が床一面に刻まれているようだった。
そして、さらに驚いた事がある。
明らかに怪しげな人達が魔法陣の周囲を囲むように点々と並んで立っていたのだ。
ざっと見た限り、二十人程だろうか……。
全員が黒っぽいフード付きのローブを頭から被り、顔はここからでは確認出来ない。
……怪しすぎる。
「何をしてるの? 四人共こちらに来なさい」
アザミは既に石像の真下にある祭壇まで移動して俺達を呼んでいた。
俺はぎこちなく頷き、先陣切ってアザミのいる場所へと足を踏み出す。
続くように教授、博士、ミレアさんも歩き始めた。
「……凄い」
サークルストーンに近付くにつれ、やはり巨大な石柱だと改めて感じる。
自分の背丈の三、四倍はあるのだ。
これを遥かに越える巨大な石像は一体どれくらいあるのだろうか……。
あえて比較して言えば、奈良の大仏よりも大きな感じを受けるので、かなりの大きさなんだと思う。
とにかく、デカイ。
またデカイだけでなく、凶悪な不気味さも醸し出していた。
周りから照らすグリーンの光のせいもあるだろうが、石像の姿形はミレアさんの説明に出て来た通りだった。
見た目は獰猛な獣を模した人間のような感じで、鋭い牙や爪、複数の角が頭に生えている。
そして、背中にあるコウモリのような翼や蛇のような尻尾も凶悪な不気味さを演出していた。
この魔女の神殿を造った文明人にとって神のような存在だったと予想は出来るけど、邪悪な神といった印象しか伝わって来ない。
つまり――。
「……こわっ」
怖い感じなんだよね。今にも動き出しそうな雰囲気だから、夜中に一人でこれを見たら……ちびるよ、絶対。
身震いしながらローブを着た人の横を通り過ぎる。
深々とフードを被っているため顔は確認出来ないから怪しい感じしか伝わって来ない。
そして柱のような石を通過し魔法陣と思われる場所へ足を踏み入れた。 間近で見ると石柱と同じように見た事もない文字が刻まれている。それと一緒に幾何学模様も円形に刻まれていた。
「……なんて、滑らかな曲線なんだ。本当にここは、紀元前に出来た古代遺跡なのか?」
思わず口走ってしまったが、これでも考古学を目指す者としては色々と調べてみたいと思ってしまう。
なにせ、この遺跡を調査するのが当初の目的だったわけで……。
「こんな事にならなければ、隼人くんと一緒に調査が出来たはずなんだけどね」
振り向けば教授が落胆した表情で俺の後に続いていた。
「……亜美、本当にごめんね」
ミレアさんが泣いてしまった。それを宥めるように博士は……。
「ミレア、君が悪い訳ではない。全ては私のいたらなさだ。二人共、本当に、すまない」
ミレアさんだって、博士だって、悪い訳じゃないんだ。
全ては博士の純粋な探求心を利用した――あいつらのせいなんだ!!
「あらあら、恐い目をする坊やだこと。でもね、睨まれても何も変わらなくてよ」
「もう、いいだろ! あんたらの目的はいったい何なんだ!」
もう腹は決まった。
アザミに敬語をつかう必要もない。
色々と考えてたら、だんだん腹が立ってきたぞっ!
「へぇ……さっきまでの弱腰坊やとは見違える気迫ね。まあ、そのくらい元気がないと万が一って事もあるからね。とりあえず全員揃ったし、お楽しみタイムにしましょう。――――例の物を!!」
突如アザミは片腕を振り上げ、神殿内に声をこだまさせる。
それに反応したローブの男が祭壇に続く階段を上っていく。
上り切るとローブの男はアザミに近寄り、厳重に鎖で封印された古めかしい一冊の本を持って渡した。
「……こちらでございます」
棒読みだ。役者なら駄目出しをされる以前の問題だが、なんと無く不気味さを演出している。
――しかし。
「か、加藤くんか? 君は、言語学者の加藤くんじゃないのか……?」
博士がローブの男の声に反応した。
どうやら同じ調査団の一人のようだけど……。




