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『地下神殿』

 階段を下りてすぐ、俺は意外な事に気付いた。

 地下だけに暗い空間をイメージしていたが、予想を裏切り生活に支障のないレベルで明るかったのだ。

 勿論、調査隊が入っていたので電気設備はある。でも、それを使っている形跡はない。

 どう見ても天井や壁に吊されたライトは消えたままだ。


 じゃあ、光源は?


「私が来た時には、こんな壁が光る現象はなかったはずだ……」


 そう、博士の言う通り神殿内の石壁や階段、通路に至るまで黄緑色の光が暗闇を照らしていたのだ。


 温かみのある蛍光グリーンの光は一瞬、天然記念物の光苔をイメージしたけど、壁を見て考えを改めた。

 地下だから湿っぽい感じもするし苔も所々石にこびり付いてはいるが、苔から光っている訳ではなかったからだ。


 なんと言うか、神殿に使われている石自体から光っている感じだった。


「ふふふ、これも博士が遺跡を発見してくれたお陰よ。ここにある石を大量生産する事が出来れば、間違いなくバチカンは潤うわね」


 そりゃそうだろ……。 博士の話しでは以前の神殿内はこんな光を放ってなかったみたいだし、この石の発光原理は分からない。

 でも、もし光を電気みたいにオンオフ出来るなら新しいエネルギー資源として研究されるだろう。

 もっとも宇宙や光の届かない海底などでは、かなり有効視されるはずだ。


「バチカンの目的はこれだったわけ?」


 亜美教授が神殿内に声を響かせた。


 バチカンが光る石で一儲けしようと企んでいるんじゃないかって当然みんな思うもんね。


「この石はただの副産物でしかないわ。我々の目的は、また別よ」


「……それなら何が目的なの」


 ミレアさんも疑問に満ちた声を響かせる。


「まあ、こんな所で歩きながらも何だし、博士や貴方達にもこれから協力してもらう予定だから、儀式の間に着いたら教えて上げるわ」


 悪びれもなくアザミは俺達にそう言った。


 流れだったので全く関係のない事だが、ふと思った疑問を俺は尋ねてみる事にした。


「到着したらですか……じゃあ、ちょっと素朴な疑問をいいですか?」


「何よ?」


「いや、さっき扉を博士と開けましたけど、元々はアザミさんと僕だけで来る予定だったと……」


「ああ、二人いれば開けられるでしょ?」


 そりゃ、まあ、そうだけどさ。結構重かったし、モデルみたいな体型の女性が……ねぇ……。


 おどおどしていると、アザミは通路を歩きながら振り返りまた妖艶な笑みを見せる。


 迂闊にもドキっとしてしまう仕草で、ちょっと焦ってしまう。


「ふふふ、まあ言いたい事は分かるわ。扉は一人の時でも開けられるの。これもお楽しみの内だから、後でわかるかもね」


 やっぱり何か仕掛けがあるのか……。どうもこの魔女の神殿には、まだまだ隠された謎があるようだな。


 それから俺達は広めの通路を歩いては階段を下りてを繰り返す。

 ここまで来て分かった事は地下六階よりも下に向かっているという事だ。


 歩きながらミレアさんに神殿内の構造について尋ねたら、一階のフロアーごとに入り組んだ通路と大中小の部屋があり、地下に進んで行く度にフロアーは大きくなっていくのだと教えてくれた。 これは地下に進む上でそれなりに確認済みだ。

 そして最下層である地下七階は、フロアー全体が巨大なホールになっているらしい。

 多分そこが博士やミレアさんが言ってた儀式をしてたんじゃないかって場所らしいけど……。

 どうやら俺達はそこに向かって進んでいるようだった。


 まあ、儀式をするってアザミが言っていたからだいたい想像してたけどね。


「さぁーて、この階段を下りれば――お楽しみタイムの始まりよ!」


 なんだか嬉しそうだな。

 だが、俺は全然楽しみになんてしてないからな。

 はっきり言えば、ものすーごく、気が重いんだぞ。


 階段を一歩ずつ下りるたびに、まるでこれから死刑執行の囚人のような気分になる。

 死にはしないと言われたけど、死んじゃう可能性もあるみたいだから余計にそうなる。

 それに何をされるのか分からないのも恐怖心を煽っている。


 ついでに言えば遺跡の地下で謎の光が照らす怪しげな場所だし。

 こんな所で訳も分からず死んじゃったり、改造人間にされたり、痛い目にあって監禁されたりしたら嫌だなと、頭を巡る。


 ……ちくしょう……。カッコつけたけど、やっぱり怖いや……。

 階段を下りる自分の足がぶるぶる震えて、上手く下りられないよ。


「隼人くん……大丈夫?」


 突然、教授が俺の真横で心配そうに声をかけてくれた。

 恐怖で震える足元に向けていた視線を、教授へと向ける。


「そんな怯えた顔で……」


 教授は切ない声を出し、階段の途中で、俺を強引に――抱き寄せた。


「きょ、教授!?」


 と言ってはみたものの、すでに俺の声は二つの膨らみに挟まれ、声を上手く響かせない状態であった。


 まさか!? 人生二度目の、未体験ゾーン突ニュウ――――。


 な、なんて幸せなんだろうか……。俺はこんなに教授に愛されていたんだ。


 教授の薫りと包容力のお陰で、一気に恐怖心とか吹っ飛んだぜっ!


 それにどこからか、ベキベキと、祝福の鐘の音が鳴り響いて来た。


 ん? ベキベキだと? あれ、背骨が、きしんでない……か?


 それと、教授の魅力的な薫りを直接脳に送り込めるのも贅沢なんだが、密着し過ぎて――――こ、こきゅう、が……。


 あ、あれかな……? 訳も分からず殺されるぐらいなら、私の胸で眠りなさいって事か?


 ――いや、待て!! それは本望かも知れない。しかし、まだ生きる望みが残されているのではないのか!?


 まだまだ教授とお話ししたり、笑顔や、フェロモンを、堪能、した、い、です、し……。


「……ふがぁ、ふがぁ……」


 あ、やべっ、意識が…………なんか、お花畑に、天女が舞い降りて、来てる、よ?


「ちょ、ちょっと亜美!? 天草くん痙攣してるわよ!?」


「え? あ、本当だ!?」


「亜美は、昔から力持ちだったからな。私も随分鍛えられたものだよ。ハハハ」


 ミレアさんが気付いてくれたお陰で、教授は俺を胸から解放してくれた。ふぅ、名残惜しいが、なんとか遠くの世界に逝かずに済んだよ。


 と言うか、博士に喰らわせた強烈なラリアートを考えると、意外に腕力があったんですよね……。


「ダディは、私を怒らせるのを趣味みたいにしているのがいけないのよ!」


 ……なるほどです。


「貴方達!! じゃれてないで早く下りて来なさいよ! もう準備は整ってるわよ!」


 アザミは凄い剣幕で声を轟かせた。


 儀式か……。これから何をされるのか不安は残る。恐怖心を拭い去る事も出来ない。


 しかし――。


「教授、ありがとうございます。もう、平気ですから、行きましょう」


「隼人くん……」


「教授、そんな切なそうな顔をしないでください。僕は教授のためならば――死ねます」


 悲しそうな顔になった教授は、涙を堪えているようだった。博士やミレアさんも同じような表情を浮かべている。


 少しキザだったかも知れないけど、もうどうなっても平気だ。

 やっぱり俺にとって、教授は特別だから。


 それに、最後に亜美教授の信者として最高の言葉も言えたと思うし、満足だ。

 日本にいる同志達もエールを送ってくれてるに違いない。


 そしてどうなろうとも、必ず教授とミレアさんは護り抜いて見せます!


 ……ついでに博士も。教授が悲しみますから。


 俺は決意を新たに階段下り切った。


 すると目の前には、話通りの――広大な空間が広がっていたのである。





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