『古代遺跡の入口』
アザミに連れられ俺達は要塞を出る事となった。
向かった先は、やはり魔女の神殿のある森の方角である。
とりあえず連れて来られた人達が全員無事らしいと知れてよかった。
俺も何かされてしまうのかも知れないけど、先発の人達が無事なら少しは気が楽になる。
手放しでは喜べないが生きていられるなら先発の人達も纏めて解放出来るかも知れない。
それにしても驚いたよな。調査のお手伝いのつもりが、まさかこんな事態に巻き込まれるなんて。
教授を救うために博士が決断をして俺を呼び寄せてくれたこと自体は、正直よかったと思っている。
だって、亜美教授が謎の事故とかでいなくなるなんて考えられないし、何も知らないまま悲しみに暮れるのも嫌だったから。
ともあれ、事情を知った今としては複雑な気持ちでいるのは間違いない。
「ふぅ……隼人くん、こんな事になってごめんね。何とか切り抜ける方法を考えるから」
先頭を歩くアザミから少し離れて進む俺に教授は小声でそう言ってくれた。
教授も俺と同じで複雑なんだと思う。
当然と言えば当然なんだけど、父親が自分を救うために生徒である俺を巻き込んだんだもんな。
でも――。
「教授、気にしないでください。死ぬ訳じゃないみたいですし……。それに、考古学を目指す者としては遺跡で何が起こるのか興味もありますから」
「……隼人くん」
いや、少し嘘をつきました。
アザミに何をされるか分からないから怖いのはやっぱり怖いです!
でもそんなウルウルな瞳で見つめないでくださいよ……。擬似彼氏的な気持ちが芽生えてしまいそうなくらい胸がキュンキュン点灯してしまいますから。
とはいえ……嗚呼、潤んだ瞳で俺を見つめる教授。こんな瞳で見つめられたら理性が崩壊してしまいそうだ。
俺のこの両腕でがっつりと抱きしめてしまいたい。力強く、ぎゅうっと…………ん?
「いや、本当にすまん。そんなに私を締め付ける程憎いのも分かる。だからいくらでも締め付けてくれ。しかし、私も何とか打開策を考えるつもりだ!」
「ぬをっ!? 博士!」
夢想している内にホントに抱きしめていたようだ。
いつの間にか近付いていた博士をきつく抱きしめていた。
「あ、いえ、これは、これは、違うんですうぅーーっっ!」
「……男同士でなにしてんの?」
アザミだ。先頭を歩いていたアザミは振り返り足を止める。怪訝な視線を送られているが誤解なんです。その趣味は断じてございません!!
ん? 博士。何故、顔をほのかに赤らめておいでで……。
「まあ、いいわ。ここからは森に入るけど、逃げようとしても無駄だから。とは言っても、逃げられて森を捜すのも面倒だから念のためにおまじないをして置くわね?」
と、怪しげな雰囲気で微笑むアザミ。
しかしおまじない? 手錠とかロープで俺達を引き連れるって意味か?
いや、アザミを見る限りそんな物を持っている感じはしない。
だって手ぶらだし……。
じゃあ、また脅しの類いで逃げないようにするって意味なのか?
そんな事を色々と考えている内に――急に視界が闇に染まっていた。
そして――――。
「はい! 皆さんお疲れ様。神殿に到着よ」
「――えぇっ!?」
森の入口にいたはずだった俺達は、驚きを隠せなかった。
突然目の前が暗くなったかと思ったら、地面に埋め込まれた扉の手前に立ちすくんでいるのだから当たり前なんだけど。
だけども、一瞬でここに移動するなんて有り得ないだろ!?
薬品とかで気絶させて連れて来るにしても、アザミ一人では無理だろうし。
まさか!? 知らぬ間に発掘調査隊の人が近くにいたとか!?
考えに至った俺は周りを見回す。
森に囲まれた空間で割りと広い円形の場所だ。近くには調査隊のキャンプが見える。
だが人影は見当たらなかった。
同じように驚いていた教授や博士やミレアさんも動揺するように視線を周囲に向けている。
俺は視線をアザミに戻すと、それを面白がるように妖艶に口元を緩めていた。
「あらあら、何をキョロキョロしているのかしら? 貴方達はちゃんと自分の足でここまで来たのよ?」
「馬鹿なっ!? 一体どんなカラクリで……」
「さあね? 冴木博士、これから神殿で起こる現象を見れば分かるかも知れないわよ?」
アザミに言われた通りどこと無く身体に疲労感は残っていた。
要塞でアザミと出会った時もそうだったけど、いきなり部屋の中にいた事や俺の記憶が急に蘇ってアザミと大学前で会話してたのを思い出したり、不思議な事が多過ぎる。
「ダディ、ミレア、隼人くん、今は考えても仕方ないから素直に着いて行きましょう。答えは神殿の中に在りそうだし」
と、アザミをジロリと睨む教授。
「そうね、亜美の言う通りだわ……。博士参りましょう」
「うむ……」
「さすが博士の娘だけあるわね。聞き分けがよくて嬉しいわ。中で儀式の準備が出来ているはずだから早く先に進むわよ」
皮肉とも取れる言葉を教授に浴びせ、アザミは俺と博士に扉を開くように言って来た。
土に埋まる三メートル四方の巨大な扉。
これを博士と二人で両サイドの鉄のわっかに繋がれたロープを使い、別方向に向けて同時に力いっぱい引っ張る。
かなり重みのある木製の扉であったが何とか開く事が出来た。
途中まで開くと重力に任せ、扉はドゴンと地面に土煙りを立たせて動きを止める。
視界が落ち着くとそこには――地下に延びる階段が現れたのであった。
「行くわよ」
と言い放ち、先にアザミは石の階段を下りていった。
こうして諸々の疑問や不安を抱えつつも俺達はアザミの後を追って続いたのである。




