『明かされる陰謀』
閉じられていた両眼を……ゆっくりと開く。
すると目の前には泣き崩れている俺の女神がいた。
膝枕をされたままの顔にポタポタと涙が絶え間無く降り注ぐ――。
教授はまだ目を開けた俺に気付いていない様子で、ただただ泣いていたのだ。
自分のせいで泣かしているのに不謹慎かも知れない。だけど、生きて教授の顔を見れたという実感が急に湧き上がり目の前の女神をいつも以上に愛しく感じてしまう。
だからというわけではないが、俺はどんな事があっても教授のいるこの世界を護りたいと強く強く思ったんだ。
「アミと言ったな……。久しぶりの肉体だ。少し立ち上がるのを手伝ってくれぬか?」
「……は、や、とくん? 隼人くん!? 生きていたのね!?」
そう言って俺が生きてると知った教授はおもいっきり抱きしめてくれた。
嗚呼、本当に死ななくてよかった。
一瞬死んでただけに尚更ら思うよ。
あんな体験した事もない激痛を受けて死んでしまうというアクシデントがあったものの、これはデッドラインを乗り越えて生還した俺へのご褒美なのだろう。
柔らかくてふくよかな胸の谷間が俺を包み込んでくれているのだ。
嗚呼、なんて柔らかいんだろうか……。
それにこの薫り、心が落ち着き癒される教授の匂いだ。
見るだけじゃ無く教授に触れる事で改めて実感できる。
そう、俺はああぁ、俺はああぁぁ、俺はあああぁぁぁ!
生きて、戻って、来たんだああああああぁぁぁ――――――――――!!
「……もがぁ、もがぁ……」
と、感極まっている場合じゃなかった!?
このままでは俺もジャークさんも教授の胸で安らかに逝ってしまう!
しかし今の主導権はジャークさんだ。
五感を共有してるから勘違いしそうだが、自分では身体を動かせない。
どうしよう……。
と考えてる内に、ジャークさんは両手をフルに動かし、なんとか教授の谷間から脱出してくれた。
ふぅ、危なかったぜ。
「ぶはぁ、はぁ、はぁ、はぁ……た、闘う前に死ぬところであったぞ!」
「あ、ごめんなさい、てへっ」
うをおおおおぉぉぉ!! テヘペロッ!? めっさ、かわゆい!! めっさ、かわゆいっす!!
「ま、まあ、よい」
俺の身体はスッと立ち上がり――レドルーツを睨む。
「アミ、よいか? 少し暴れるが故、ワシから離れておれ。お主にはあとで告白の返事を聞かねばならぬからな。巻き込む訳には行かぬ」
「え……あ、はい」
ぬをっ!? 教授を呼び捨てにするとは……。
ジャークさん、ナイスッすっ!
普段の俺では絶対叶わぬ夢でしたよ!
しかも教授の頬がほのかに染まる現象が……。
「ほれ、何をしておる。そこの二人も、アミを連れて出来るだけ離れるのだ」
「き、君は、隼人くんじゃないのか……?」
博士が茫然とした様子で言うと、ジャークさんは簡潔に答える。
「ハヤトは無事だ。さあ、ここは――ワシに任せておれっ!!」
身体の奥から温かい波動が全身に広がる――。
多分これが魔力と言うものなのだろう……。
魂の中心から温かなエネルギーの波動が波紋を描くように広がっていくのを感じる。
そして気付いた時には俺の全身から煌めく紫の光が溢れ出していた。
「ジャラークよ。器が無事でなにより……。しかし、我に刃向かうのは間違いだ。我と共に神の意思をまっとうしようではないか?」
「ふん、ペテンはそのくらいにしておけ。どうやったか知らぬが、ワシを人間界に召喚出来るのは――神だけだ。どこに神がいると言うのだ? 神もいなければ、終末の時でもないではないかっ!」
レドルーツは、ジャークさんの言葉に頷きながら怪しく笑い出す。
「フハハハハ……いるではないか、目の前に」
言って指差す先には、あの巨大な石像があった。
困惑するジャークさんの感情が俺にも流れて来る。
レドルーツが指差す物が神だと言うならば、どう見ても邪悪な悪神としか思えない。
ジャークさんが困惑するのも当然だ。
「……何を言っているのだ? あれはどう見ても――ハッ!? お主、まさか!?」
「理解して貰えたようだな。我の神とはお前の言う神とは異なる。この世界に平和と秩序をもたらす神とはこの――マダーヌ神のみ! ローマ教皇も既にお前の言う神に見切りをつけたぞ!」
「愚かなことを……。異教の神に降ったか、信仰とは神の力を左右するもの。それを分かってて言っているのか! レドルーツ!!」
とんでもない事実だった……。
深い所まではまだ分からないが、バチカンは既に異教のマダーヌとかいう神を信仰するって決めたって事だろ。
恐らく、レドルーツが洗脳してそんな事態になったんだと思うけど、ジャークさんの言った通り信仰を失った神々は時代から消え去って来たんだ。
それが神の存在さえ脅かす出来事だとしたら一体今の世界はどうなるのだろうか……。
「フハハハハ! 勿論理解している。だが……我を解き放つ手助けをして頂いた神に酬いて何が悪い? お前達の神は人間を想う我を幽閉した悪神。世界に充満する不幸を救えぬ愚神である! さあ、ジャラークよ、我と共に世界を救済しようではないかっ!!」
「自分勝手な……。ハヤトの記憶で知ったが、お主の救済とは、お主の固有魔法を使った洗脳とワシの固有魔法と言うべき殲滅魔法での選別とな? よいか……例え悪の心を持つ人間が溢れようとも、ワシら魔法人はこのような形で干渉する事など許されぬ。全ては――――神のみぞ知るだ!」
おお……。最後の言葉は投げやりっぽい感じだったけど、なんか言い知れない説得力があったな。
まあ、とりあえず危ない奴なのは間違いないから……ジャークさん、ここいらで雷とか使ってドドンとやっつけて下さいよ、ドドンと。
『ん? ハヤト、すまぬな。魔法人は、持って生まれた属性とも言うべき力の応用ならば鍛練により使えるようになるが、ワシらは基本的に――個々の持つ固有の力しか使えぬのだ。特殊な方法で他の力を使えるようになる事もあるが、ワシの場合はその必要もなかったからの……』
え!? でも、魔法使いって、呪文を唱えて色々な魔法を使えるんじゃないんですか!?
『うむ、ハヤトの言う魔法使いとはワシら魔法人を受け入れた魔女、魔人の事だと思うが、それこそ多様に使える者は――複数の魔法人との契約が必要なのだ』
そ、そうなんだ……。だから魔法人の力を操る人間を魔法使いって言うんですね……。
「まあ、心配は無用。奴は、ワシが倒す……」
ジャークさんが目の前の敵に聞こえるよう、言葉にしてから再び睨んだ。
しかし睨まれた本人は視線を少しずらし俺から溢れ出す紫の波動を眺めながら目を細める。
「残念だ……。だがお前が否定しようともお前や法界に住む魔法人どもを我が虜とし、人間界を統一させるだけだ。最後にもう一度だけ問う。我と共に平和を築かぬか?」
「やはり法界までも脅かすか……。狙いは見えたぞ。例え人間界を異教に染めようとも、幾度となく滅びと再生を繰り返す人間界に神は降臨出来た。その理由は法界全てで揺るぎない信仰を支えていたがため。だが、法界をも異教に染めるとなれば……」
「フハハハハ――――!! 頭が回るな、ジャラーク! そうだ! 我らの狙いは、憎き世界を統べる――神の消滅!! それが理解出来るならば抵抗せず、我に従うのだっ!!」
「神の判断は正しかったの……。お主のような危険因子は封じられて当然だ。よく聞け、レドルーツ。ワシは神のように慈悲深く封印などとぬるい事はせぬぞ。お主は、ワシが、跡形も無く――――殲滅してくれる!!」
ジャークさんの感情の高ぶりと共に身体の底から温かい波動が膨れ上がってきた。
俺の全身からジャークさんの髪の色と同じ紫の波動が一気に立ち上る。
レドルーツは、その様子を冷酷な眼差しで眺めていた。
「さすがは禁忌と呼ばれるだけある。魔力の密度が他の魔法人達と比べて実に濃密。だからこそ、我が手元に欲しい。出来れば洗脳と言う形では無く……力を充分に発揮出来るそのままの形でな」
どういう事だ? まるで個人差があるような口ぶりだな。魔力の密度って言われてもさっぱり分からん。
それにレドツールは洗脳するのがもったいないみたいな言い方だし……。
『ハヤト、ワシら魔法人はな。魔法人として生まれた瞬間に収められる魔力の容量が大方決まるのだ。まあ、人間で言う基礎体力のようなものだな。そして、その魔力を引き出すきっかけは――心の力、想いの力。つまりは感情が必要とされている。簡単な力であれば、言葉を必要とせず想い描くだけで自由に力を発現出来るのだ』
それでか……ジャークさんの感情の高ぶりでエネルギーの波動が強まったのは……。
それにアザミが詠唱なしで俺達の動きを制御したのも納得だ。
想像するだけでいいなら長ったらしい呪文は必要ないもんな。
ん? まてよ、じゃあ、洗脳されてロボットみたいにされたら魔法は使えなくなるって事かな?
『いや、レドツールは感情さえコントロール出来るはずだ。しかし、間接的なため上手く引き出せぬのだろう。むぅ――ハヤトおしゃべりは終わりだ!? くるぞっ!!』
レドルーツからまがまがしい波動が溢れ出す。
その波動を片手に集中させてから凝縮すると指先を天に向けてこちらを睨んだ。
「ジャラークよ、残念だが終わりだ。我が偉大なる目的のために! 我に、服従せよ! ――――――マリオネット・ソールッ!!」
指先を向けられた瞬間――黒い塊が放たれた!
てか、ヤバイだろこれっ!? 明らかにあの黒い塊に当たったら洗脳されちゃうんでしょ!?
逃げなきゃだめだ、逃げなきゃだめだ、逃げなきゃだめだ、逃げなきゃだめだ、逃げなきゃだめだああああああああああああぁぁっ!!




