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『執念で活路を!』

 魔法陣の中心に両足を着地させた瞬間に白い輝きが噴き上がる。

 だが、すぐに魔法陣全体の輝きは白から赤へと変化した。

 同時に身体の自由は取れるようになったが、足の裏が吸い付くように固定されてしまったので、もうここからの脱出は無理かも知れない。


 足元の魔法陣からは、風ではなくエネルギーの波動のような赤い輝きが噴き荒れ、髪を逆立てる勢いで着ている服をばたつかせている。


「ちょ、待って!? 俺どうなっちゃうんだ!?」


「人間達よ。天草隼人が魔人となる瞬間を……その目に焼き付けるがよい」


 レドルーツが言葉を終えると、俺同様に身動きの取れなかったはずの教授達が石像に向けていた身体を俺のいる魔法陣へと向けた。

 恐らく身動きが取れ無くなったのは脳をコントロールする奴の魔法のせいだったんだと思う。

 きっと今のも奴の力で動きをコントロールされたんだ。

 もうここまでめちゃくちゃな現象を体験したら魔法の存在を肯定するしかない。


 でも普通、魔法って、詠唱とか必要なんじゃないのか?


 ――って、考えてる暇はないや!

 どうしたらこの魔法陣を止められるんだ!?


「世界を救済する魔人となる事を誇りに思うがよい。さあ、時は満ちた。思い残す事がなければ、このまま魔人となれ……ないな? では世界の秩序と平和のために! 目覚めよ! ジャラーク!!」


「ちょ、ちょっとぉぉおおおおおお!? 今、聞く気なかったでしょぉぉおおおおおっ!! あるから、あります、未練たらたらだってえええぇぇ―――――――――――っ!?」


 叫びも虚しく。レドルーツの言葉と共に、持っていた古めかしい一冊の本が頭上まで飛翔してくる。


「隼人くん――――!?」


 教授の呼び声が神殿内に響き渡る。

 その声が俺の心を、きつく、きつく、締め付けた。

 こんな事なら、黒Tシャツの背中に刻まれた俺の熱い想いを全てぶつけて玉砕していればよかった……。


 何だか頭上の本から真っ黒な光が膨らみ、巻き付いてた鎖が取れたと思ったら……真っ黒な光が俺に降り注ぎ始めたし。


 このままだとアザミみたいに自分が自分でなくなって、平和とか言いつつ人様を洗脳したり「お前は裏切り者だ!」とか言って、家族ごと皆殺しするような嫌な奴になっちゃうのかな……。

 そんな事したら正気に戻ったとしても、教授にお付き合いしてもらえないよな……。


 ――って、そんなの絶対に嫌だっ!! 嫌だ、嫌だ、嫌だっ!!


「絶対に、嫌だあああああああああああああ!!」


 悲痛の雄叫びも虚しく。頭上高くに停滞する真っ黒な本から、漆黒の闇が降り注ぎ続ける。


 最初降り注ぐ闇が身体に触れても何も感じる事はなかった。

 しかし時間が経つに連れ――徐々に身体を蝕む痛みが伴い始める。


「うっ!? いっ、痛っ、いてっ、うっ、いいいぃぃぃったたたたたたたたたたたたたた――――――――――」


 身体中に駆け巡る痛みが泡立つように弾け続けた。

 同時に心と言うか、魂と言えばいいのか……。俺の中に何か得体の知れない異物が――浸蝕を始めたのだ。


「隼人くん!? レドルーツ! 今すぐに止めなさいっ!!」


「……もはや、不可能。誰も止める事は出来ない。禁忌の魔法人の復活が成功すれば、我が魔法により制御をする。さすれば……人類の選別が始まるのだ。大人しく見届けるがよい」


「成功しなければどうなるって言うのよ!!」


「……死、あるのみ。新しき器を捜すだけである」


「そんな」


 意識がぶっ飛びそうだ。一秒が、何十分にも何時間にも感じてしまう。


 アザミが死ぬかも知れないって臭わせてたけど、意識を手放したら本当に死ぬかも知れない。


 それに映画とかで拷問されている人の気持ちが分かってきた。こんなに苦しみが続くなら、いっそ死んだ方が楽だって思えてきたから。


 でも、この痛みは肉体的と言うよりも精神的な物に近い。

 どう説明すればいいのか分らないが、さっきから浸蝕している何かが蝕む事で――魂が喰われているような。そんな痛みが駆け巡っている。挫折とか、骨折とか、そんな痛みじゃないんだ。経験した事のない新しい痛みだった。


「――がぁっ、がああああああああああぁぁぁぁぁぁ…………………」


 激痛が更に加速する。もうここまで来ると痛みと言う感覚さえ忘れてしまいそうだ。


 ……教授、もう俺は駄目みたいです。

 痛みのせいか死ぬのが怖いって感覚もなく、今なら楽に旅立てる事が出来そうだ。


 意識が薄れて来た。いよいよ、終わりなのかな。


 目も霞んで来たし、さっきから俺の名前を呼ぶ教授達の声も遠退いてきたよ……。


「隼人くん!! 一緒に遺跡調査するんでしょ!? 私のところに戻って来なさい! 私とずっと一緒に居なさい! あの子みたいに、私を一人にさせないでぇーーーーーーっっ!!」


 ――閉じかけた両眼を、カッと見開く。


 『あの子』って誰だ!? いや、それよりも教授が一人にするなと叫んでいるっ!


 そうだ!! 俺は、まだまだ教授とおしゃべりしたり、近くでフェロモン吸引したり、お手て繋いでお出掛けしたり、隠れて素敵写真撮って眺めたり、また抱きしめてもらって、未体験ゾーンに、突ニュウしたいんだあああああああ―――――――――っっ!!


「うをおおおおおおっぱあああああああああああああああぁぁぁぁいぃぃぃ………………っっ!!」


 魔法陣が激しく閃光を放つ。教授への愛のパワーも加わり気合いを入れるっ!!


 ここが正念場だっ!

 教授と愛を育むこの地球を! 絶対に護り抜いて見せます!!


「……きょ、教授。み、見ていてください。これが、俺の、本気、です!!」


「は、隼人くん!?」


 激痛に堪えながらも、ばたついているグレーのシャツを脱ぎ捨てる。


「あ、天草隼人よ。何をしようと言うのだ!」


 吸い寄せられて、動きを封じられている両足を、力いっぱい両手を使い無理矢理移動させる。


 筋肉が軋む。両足がちぎれそうに痛む。更に浸蝕する闇に抵抗しているため身体中がバラバラになりそうだ……。


 しかぁーしっ。俺の動きは止まらぬ! いや、止めさせない!


「うをおおおおおおぉぉぉーーーーーーーっっ!!」


「ば、馬鹿なっ!? 動かぬ両足を両手で無理矢理移動させているだと!? 召喚の儀式中でそんな事をすれば! 儀式に影響が!!」


「うをおおおおおおぉぉぉーーーーーーーっっ!!」


 よし、な、なんとか、教授達に背中を向ける事が出来たぞ。


 に、しても、身体が裂けるように痛む。だが、あとはこの熱い想いを教授に――――。


「……今こそ、我は、唱える!!」


 入学以来、内に秘めたこの想い!


 例え禁忌の魔法に蝕まれたとしても!


 必ず、跳ね退けて見せます!


 届けっ!! 灼熱のラブビート!! マイ、アルティメット、ボイスッッ!!


「亜美ちゃんラブラブ、愛して、マッスルウウウウウウウウウゥゥゥ―――――――――――――――――――――ッッ!!」


 マッスルポーズで顔だけ振り向き、教授へアピール。

 背中の文字を叫んだ効果で、文字からピンクの輝きが放たれたような気がした。


「き、決まったぜ……」


 その瞬間、頭上から降り注いでいた漆黒の闇は…………一気に、降り注いだのだった。





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