『おーぷにんぐ』
魔法という概念は妄想の産物でしかない。
――そう思っていた。
現代社会でもし「魔法を使うぞっ!」なんて周りに話しでもしたら、頭がイカレてる奴だと思われるだろう。
仮にだが、今いる場所が中世のヨーロッパであるならば「何だと!?」と言われて、魔女だとか悪魔だとか本気で討伐の対象になっていたかも知れない。
しかし今俺のいる時代は、中世よりも遥かに科学の進歩した時代である。
高校を卒業して考古学を専門とする職業に憧れた俺は、大学に入学をするとそれを専攻した。
古代文明や発掘されるオーパーツ等、未だ解明出来ずに謎を残す歴史の不思議は、俺の中で躍動するロマンを刺激するには充分な代物であったからだ。
そして大学に入るとすぐに憧れの一つであった遺跡調査に同行するチャンスが到来したんだ。
はっきり言って運が良かったと思う。
教授に何故か気に入られたのもそうだが、若くして考古学界で注目されている冴木亜美<サエキ・アミ>教授の元に、未発見の文明かも知れないという驚きの便りがあったのだ。
その便りを送りつけて来た人物こそ考古学界の重鎮、冴木雅治<サエキ・マサハル>博士である。
名前から察する通り、この先俺の恩師となる冴木亜美教授の父親である。
この時ヨーロッパの辺境の土地で魔女についての調査をしていた雅治博士は、辺境の村に伝わる口伝を基に、森の奥深くで埋もれた遺跡を発見したという。
だが――
★★★
大学に入学して初の夏休み。俺は亜美教授と共にヨーロッパへ訪れた。
訪れたのはいいのだが、亜美教授と二人で海外というのは些か……。というか、激しく周りの学生から反感を買っていた。
反感を買った理由はというと、亜美教授は学生の中でかなり人気のある存在であるからだ。
見た目が美しく抜群のスタイルを持ち合わせているのだから当然なのかも知れない。
ただでさえ女性に免疫のない俺からすれば、高嶺の花といった感じである。
髪はロングで艶やかな黒。フェロモンといえば良いのか。
東洋女性特有の独特で魅力ある雰囲気を纏い教壇に立つ姿等は、見ているだけで絵になる程だ。
しかも、校内ですれ違う時に鼻から吸い込まれる薫りは――絶大な刺激を脳に送り込む。
何を隠そう、俺も悩殺された信者の一人だ。
教授には秘密にしているのだが『亜美ちゃんラブきゅんサークル』なるものに所属している。
また特に刺激的な仕草があって、時折誘惑するような流し目を我ら学生に向けるのだから堪りませぬ。
しかし残念な事に、本人いわく癖だとかで意識していないという。
とは言え、これだけ男心をくすぐる存在が教壇に立つわけだ。埃臭い考古学に全く興味のない男どもが、教授とお近づきになりたいが為に教室を埋めるのも頷ける話であった。
それにしても……嗚呼、何と言う幸運。二人で海外旅行だなんて。
日本に戻ったら同志達に自慢話をしてやるか。
まあ、共に海外に行ったというだけで撲殺される可能はあるのだが……。
「隼人くん……? 天草隼人くん?」
おっと!? こんな事を考えている場合ではなかった!
今は列車を乗り継ぎ、憧れの遺跡調査をお手伝いする現場に向かっているところだ。
初めて乗る蒸気機関車に揺られ、地図で虫眼鏡を使いやっと発見出来るような辺境の村に着々と進んでいる。
俺の名前を呼んでいるのは勿論、亜美教授である。声を聞くだけで、心揺さぶる大人の色気を感じてしまう。
「亜美教授。何かごようでございますか?」
キリッと精一杯カッコをつけてみた。
なんというか、隣りにいるだけでドキドキしてしまうせいか。少しでも気に入られようと背伸びをしてしまう……。きっと、美女を前にした男なら誰もがなる心理であろう。
「フフ、そのセリフ似合ってないわよ。それよりもうすぐ駅へ到着するけど、着いたらダディの助手が村まで案内してくれる予定だから、荷物を車まで運んでちょうだいね」
ぬをっ!? この俺、天草隼人<アマクサ・ハヤト>、渾身のキメ顔とセリフが!
やはりまだまだお子様の俺では、なんてカッコイイの! お姉さん抱きしめちゃう! ぎゅっ、という展開にはならないか……。無駄に恥ずかしい想いをしてしまった。
今度、同志達に最高のセリフを相談してみよう。
「あはは……はい。全てこの僕にお任せ下さい!」
ごまかすように、隣りにすわる教授に向けて元気いっぱいに応える。亜美教授も笑顔で頷いてくれた。
ふと、窓際に座る教授越しに、流れる外の景色が映り込む。
広大な草原と、遠くに広がる森林のパノラマが幻想的に思えてしまう。
もうすぐ憧れの遺跡調査を……。
まして、未発見の文明かも知れないという調査に携わる事が出来るのだと思うと、教授を見る時のドキドキとは違うものが、胸を熱くした。




