プロローグ
桜も散りかけのころ部活勧誘も終盤を迎えあらゆる部活が新入生獲得のために学園内を走り回っていた。
この春この学園に入学してきた僕、絢瀬安司。男にしては『絢瀬』という苗字は珍しいとよく言われるがTVのタレントや漫画のキャラクターの「あやせ」さんのお父さんの苗字は「あやせ」なのだ。インターネットの画数診断で自分の名前を打つと半凶という反応に困る運勢が出たりする名前だが別段嫌いなわけでもない。むしろ画数診断の『天運』は大吉だからだ。柔軟性、金運、成功、僥倖、多幸、天恵、躍動……正直天運という要素があれば他の運勢なんて小粒に見えてしまう。昔の偉人達も天運に導かれて偉業を成し遂げた人物も多いはず。そう思えばなにかと好きにはなれる名前だ。
そういうわけでこの凸盤坂学園に入学した1年生である僕は様々な部活から声をかけられ飽きるくらい勧誘されていた。
「一緒に世界を目指さないか!君ならできるよ!いやきみしかできない!」
と、決まり文句のように言ってくるラグビー部や
『君の一手が世界を救う』
というわけのわからないプラカードを掲げて無言で詰め寄ってくる将棋部などのよくある部活から、厨弐病研究協会、カバディ同好会、エクストリームアイロニング部、春夏秋冬大好き研究会、JH研究会、ミシシッピ愛好会etc……など普通の学校ではありえないような部活動が複数見られた。正直わけのわからない部活が大半だと僕は思う。
そんなこんなで今は色々勧誘されつつ校内やグラウンドの部活を見て回り部活を物色しているところだ。
回っていない部活を確認するため学園のパンフレットを見た。正直全部の部活を見て回る必要は無いのだが全く聞いたことも見たこともないような部活が恐ろしく存在しているので興味本位で見て回っているのだ。
どうやら回っていない部活はJH研究会と日本演技派俳優研究会というところだけらしい。地図で場所を確認してみるとJH研究会の方がここからは近かった。というわけでさっそくJH研究会とやらに向かってみることにした。
目の前にある教室名の書かれた掲示カードに『JH研究会』と達筆な字で書かれた1枚のカードが掛かっていた。教室名を見るとどうやら社会科資料室のようだ。
さっそく入室を試みるべくノックをしようと手の甲をドアに向けた時、
突然ドアが開け放たれ、そこに立っていた人物に腕をつかまれ中に引きづりこまれた。
引っ張られた勢いのせいか床にゴテンと頭を打ってしまい頭が痛かった。突然の出来事で頭が混乱していたが徐々に冷静になってくると部屋の中で誰かが話している事に気づいた。
「いや、さすがにこれはまずいでしょ!?拉致ですよ拉致!?清秀先生に知られたらどうするんですか!?」
「まあまあ落ち着け。拉致といっても部室の前に立っていた人間を部屋の中に案内しただけだ。これは拉致とは言わない」
どうやら僕の事に関して話しているようだが視界がぼんやりしているのでよくわからない。だが、あの引きづりは案内だったという事は聞き取れた。
「中川先生なら大丈夫なはずです。あの人は教員免許を持ってるのか怪しいくらい適当なので」
「園先輩不安すぎます!とにかく、これはまずいですよ…」
「まあ、落ち着け2人とも。まだあわてる時間じゃあない」
「私は慌ててない」
どうやらこの部室には僕のほかに3人の人間がいるようだ。そして声色から察するに全員女子だ。
「私たちの処遇は私たちが決めることじゃない。だから、ここは本人に聞くのが一番だ」
すると誰かがこちらに近づいてきた。ようやく視界も明瞭になりつつあり寝そべった体制から起き上がりつつ歩いてきた方に目を向けた。
「君は新入生だね。初めまして。さっそくで悪いんだが君はJH研究会に入会することになった。これからよろしく」
突然の宣告に戸惑う暇もなく、僕は握手を求めるように差し出された手を握り返していた。