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気軽に読める長さ

異世界だと思った? 地獄だよ!!

作者: 山彦八里

 ふと気がつくと、どことも知れぬ草原にいた。

 いや、草原と言っていいのかは微妙だ。へちゃげた枯れ草しかない。

 空はどんよりと曇り、遠くで絶え間なく雷鳴が鳴っている。

 魔王に支配された世界とか、そんな感じだろうか。


「これが異世界か。殺伐としているなあ」


 とりあえず身体チェック。だいたいトラックに轢かれる直前と変わらないと思う。

 よかった。芋虫とかそんなに転生したらどうしようかと思ったが、第一段階はクリアだ。

 全裸なのは、まあ、そのうちどうにかなるだろう。原始時代とかだったらセーフだ。


 身体チェックが終わった所で早速出発する。

 足の裏がイガイガするが我慢しよう。



 しばらく歩くと河原に辿り着いた。

 こんなに近くに水場があるとは運がいい。周囲では子供が石拾い?いや、石積みしているし飲める水ではなかろうか。


「しかし、石なんて積んで何してるんだろうか?」


 魔術的な儀式か何かだろうか。

 邪魔しないように離れて観察してみよう。

 それから体感で30分。自分も石積むふりして観察していると、どこからともなくやってきた金棒持った半裸の男たちが子供達が積んだ石の塔を叩き崩してしまった。

 頭に角が生えているし亜人というやつだろうか。

 それにしても――


「なんという横暴だ!」


 行きがけの駄賃とばかりに自分の塔も崩されて激おこだ。

 腹いせに川に石投げて遊びながら考える。

 もしや、あの子たちは奴隷というやつではないだろうか。

 だとすれば、自分は邪智暴虐に怒り、彼らを買い取って結局自分も奴隷所有者にならないといけないのだろうか。

 しかし、自分は全裸。彼らは襤褸だが一応服を着ている。文化的にはこちらが後進だ。

 ひとまずはこの石積みゲームをクリアして先に進もう。


 ひとりジェンガで鍛えたバランス感覚は伊達ではない。塔を積むだけなら余裕だ。

 問題は、あの角付き亜人どもだ。

 さらに観察を続けること二日。この辺りで腹が減っても死なないことに気付いたがそれはさておき。

 あのむくつけき亜人たちの行動パターンは大きく分けて2つ。

 約1時間ごとに回って来る定期巡回組。

 もうひとつは子供達の誰かが自分の身長高まで石塔を積み終えそうになったらそれを妨害する組だ。

 此方はどうも人数不足のようで三人くらい同時にクリアしそうになると最後のひとりはギリギリらしく金棒ぶん投げて妨害していた。


 つまり4番手を維持しつつ最後で追い込みかければ可能性はある。

 戦略が決まったらあとはこちらのものだ。

 見た目は蛮族、中身は現代人の力を見せてくれる。



 タイミングを見計らってたらさらに一週間かかった。

 結局、2メートルくらいまで積みあげた。

 自慢の石の塔をみせたら角付き亜人さんたちが「なんでこいついるの?」みたいな目で見ていたが気にせず先に進むことにする。


 相変わらず殺風景な枯れ草の草原をてくてくと歩き続ける。

 遠くの山が火事になっているがここまで延焼することはないだろう。

 歩きながら今後の身の振りを考える。

 ステータスとか上ってないのかな、と思ったがそういう機能はないようだ。ちょっと残念だ。

 第四の壁の向こうからそんな声が聞こえた気がしたのだけれど、幻聴だったのだろう。

 しかし、そうすると素の能力と現代知識だけが武器ということになるのか。ハードモードである。

 死なないのは自分だけではないので、そういう世界なのだろう。その点は色々と気楽だ。


「あ、木があった」


 第一樹木発見。うねうねしてるし洞が顔みたいだ。怖い。

 というか、人吊るされているけど死体だろうか。世界史の教科書に載ってた傭兵の処刑風景みたいだ。

 やはり中世的世界観か。冒険者ギルドとかあるといいのだけど。


 さらに歩き続けると山の麓に温泉があった。

 血の色みたいに真っ赤でグツグツ煮えているが源泉なのかな。

 でも、何人か入っているみたいだしそのままでも行けるんだろう。丁度全裸だし。


「熱ッ!?」


 熱い。フットーしちゃう。普通に源泉だ。

 あ、でも段々気持ちよくなってきた。

 前世ではこんな熱い風呂入ったら死んじゃうけど異世界なら死なないし、折角だから満喫しよう。


 きっちり100数えてから赤い温泉をあがった。

 そういえば、温泉にも角付き亜人さんはいて、刺叉みたいなの持って勝手に上がろうとする人を沈めてたけどなにがいけないんだろうか。100数えるまで出ちゃいけないとかなんだろうか。

 折角だから聞いとけばよかった。


 まあ、戻ってまで聞くことでもないだろう。

 心の洗濯もして新鮮な気持ちで冒険を再開する。


 さらに先に進むと今度は針山みたいな場所に出た。

 何人かが刺さったままもがいているが、新種のプレイだろうか。

 ただ、他に道もないのでプレイに混ざって刺さりながら先に進むことにする。

 うまく五体に体重を分散させれば刺さり過ぎることはない。不死身ってすごい。

 あとで色々試してみよう。異世界に来たら実験するのは常識だ。どの異世界の常識かは知らないけど。


 色々な所に刺さりながらも針山をクリアした。

 何か段々行く先々のアトラクションをクリアしているような気分になってきた。

 イメージしてた異世界と違うような……。


 今更気にしてもしょうがないのでさらにさらに先に進む。



 ◇



 それからどれほど歩いただろうか。

 体感で50年くらい経った気がするが、太陽もない異世界では自分感覚に過ぎない。

 まるで地獄のようなアトラクションを巡っている内に、気付けば自分は薄ら暗い法廷のような場所にいた。目に悪そうな暗さだ。


 正面に立つ一等でかい真っ黒い亜人さんが部下っぽい亜人さんを叱っている。

 何かあったのだろうか。手違いとか何とか聞こえたけど、異世界にも社畜っているのだろうか。哀れな。


「あの、お忙しいようなら帰っていいですか?」


 そう言うと、でかい亜人さん(黒)が奥の扉を指さした。

 早口でよく聞き取れなかったが、どうやら次の異世界らしい。

 特に断る理由もないので妙にノブの重い扉を苦労して開けた。


 さてはて、次はどのような所に行くのか。楽しみだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] この人、判決を受ける前に刑罰をまるでアトラクションか何かのように楽しんでしまったんですね…… 彼なら、六道のどこに転生しても平然としている気がします。
[一言] 知らなければどうということは無い 認識の違いですね
[気になる点] タイトルでネタばれしちゃってるのが残念です。 [一言] 面白かったです。 地獄では罪の種類によって刑罰が決まっているはずですが、こんな風にアトラクション的に回るという発想は素晴らしいと…
2016/03/09 00:35 退会済み
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