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Episode 3

 ミーナはそのままベッドの上で寝ていたらしく,気がついたら太陽が沈んでいた。

「うぅ・・・・・・。寝ちゃってたの?時間無駄にしたー。」

 ミーナがベッドの上で首を回すと,ユウネと目があった。ユウネもつられて横になっていたのだ。

「まぁ,魔力は休まないと復活しないから,丁度良かったんじゃないの??」

「ん。そうね。」

 ミーナは言いながら体を勢いよく起こした。

「ご飯の前に全部まとめないとっ!」

 ミーナは箪笥の奥底に眠っていたミーナが持っている中で一番大きい旅行鞄を引っ張り出した。大き

さは,小さな女の子がぎりぎり入るか,入らないか位だった。

「ユウネもちゃんと荷物,用意してよ?」

「分かってるよ。」

 ユウネもベッドから離れて,ミーナの部屋の中にあるユウネのエリアと呼ばれる部屋に入っていった。ミーナはユウネのエリアに入ったことがなく,入ろうとすると,ものすごい勢いで怒られるのだ。そのたびにミーナは「私の部屋には入っているのに・・・・・・」と思うが,それを口にすると,今度は魔法を使われそうなので我慢している。

「ん~?こんくらいでいいのかな?」

 必要だと思われる物を床に並べてみる。すると,以外と少ない量なのだ。

「服もそんなに無いし。ってかあっちでは,あっちの学校の制服があるんでしょ?そんなにいらないもんね。」

 ミーナがこういうと,ユウネがユウネのエリアから顔を出した。

「あっちの学校に通うのか・・・・・・。大丈夫か?ミーナ。そんな学力で。」

  ミーナはその言葉に何も言い返さずに,ユウネの頭を叩いた。

「痛い!!・・・・・・だから,そういうのが学力ないっていうことなの。」

 これにもミーナは反応せずに,近くにあった本の角をユウネに見せた。

 本の角は流石にユウネも嫌だったらしく,全身に生えている毛をゾワッと立たせ,急いでユウネのエリアに顔を引っ込めた。

 これを見たミーナは鼻を鳴らしてにやついた。

「さぁ,ユウネなんてほっといて,鞄に詰めちゃおっと。」

 服を綺麗に畳んで鞄に隙間無く詰めていく。

 次にミーナが手を伸ばしたのは勉強道具だった。

 どんなにあちらで学校に通うから,といってもこちらの魔法の勉強も疎かにしてはならない。ミーナは既に,魔法使い,という分類の人間に入っているが,全ての魔法について分かっているわけでは無い。魔法を使うのにも毎日の学習が大切なのだ。かといって,ミーナが勉強道具を持って行ったから,彼女が自ら勉強を始める,とは考えられないので,勉強については,ユウネがしっかり見ないといけなかった。

 勉強道具もきっちりと鞄にしまうと,財布に手を伸ばした。

 中に入っているのは,今回の任務でミーナが休息や娯楽に使ってもいいと許可されたお金だった。あちらではこちらのお金とは違うのものなので,役所の方であちらで使えるお金を用意してくれたのだ。それに加えて,家賃や食費などは定期的に送られてくるのだそうだ。

「はぁ・・・・・・。これでやり繰りしないと行けないのか。」

 ミーナは財布の中を見て,ため息をついた。

「無駄遣いするんじゃないよ!」

 ユウネのエリアから声がする。が,ミーナはこれには無視をした。

 後は,家族に見られたくない物や,大切にしている物を綺麗にしまうと,最後に一息を付いて,ある本に手を伸ばした。

「一番,必要な物。」

 ミーナはそう,呟いたが,別にミーナにとって,一番必要な物ではない。優先順位的に,親や,先生から,今回に限っては王子からも念を押されて言われた物だった。

 『魔導士辞典』

 そこには全てが記されているという。

 いつもは学校で調べ物をするときに使う位なので,本当の使い方はミーナには分からない。が,とてもとても大事な物,らしい。

「・・・・・・やっぱり,これだけなのか。」

 再び鞄にしまってから荷物の量を見ると,とても少なかった。

 これはどういう事なのだろうか。また,此所に帰ってこれる,という気持ちからなのか。それともその逆なのか。

「そういえば。」

 自分の荷物を持って,ユウネが出てきた。

「アンデには連絡しなくていいの?」

 ユウネが荷物を適当に床にばらまいた。

「ちょっと!ユウネ!!」

 呆れながらも,ミーナはユウネのよく分からない荷物を鞄に一緒にしまった。

 しまいながら,しんみりと悲しそうにミーナは言った。

「・・・・・・そうね。アンデにもね。言っとかないとねー。」

 アンデというのはミーナの腹心の友だった。小さい頃からの友達で,他の誰とも代えられない,ただ一人の友達だ。そんな彼女とも,あちらに行ったら当分会えなくなる。あちらに発つ前に連絡をしといたほうがいい。彼女は一見のんきに見れるが,根はしっかり者だ。いざとなったら,必ず助けをくれる人だ。協力を求める際にも,この件のことを一通り説明していた方が都合もいい。

「ユウネ,アンデの使い魔と通信出来る??」

「OK!喜んで通信させて貰うよ。イチトと会話が出来るんだから。」

 イチトはアンデの使い魔で,偶然にもユウネの恋人だった。

「じゃ,よろしく。通信接続コードは知ってるでしょ?」

 ミーナがそう言うと,ユウネは頭の上に光の輪を作った。その輪は使い魔同士が離れたところから通信をするときに,通信接続コード(電話番号みたいなもの)を打ち込むものだ。だが光の輪を作り出すのはとても難しく,訓練しないとできないのだ。ユウネやイチトのように,実際に魔法使いに仕えている使い魔は皆,その訓練を受けている・・・・・・んだそだ。ミーナはこのことはユウネに自慢のように聞かされていた。

「こちら使い魔ユウネ。・・・・・・使い魔イチト。僕と僕の主人は,君と君の主人と声帯交換がしたい。」

『こちら使い魔イチト。・・・・・・使い魔ユウネ。声帯交換を了承する。』

 通信して,会話(声帯交換)をするには毎回,この堅苦しい儀式(?)をしなければならなかった。

「それでは開始する。」

 ユウネの言葉と同時にイチト側の音が光の輪辺りから聞こえてくる。

『えっ?!今ミーナと繋がってんの????ちょっと早く言ってよー!!』

 ミーナはアンデの慌てっぷりに顔を和らげた。

「ちょっと。アンデ。大丈夫???」

『ああああぁぁっぁぁぁ!!!ごめん!!!ミーナ!!』

「なにそんなに慌ててんのよ。」

 ミーナはクスクス,と笑った。

『ごめんごめん!急に通信始めるからびっくりしたのよ。てか,今トイレの中なの。』

「あぁ!ごめん。やっぱりあとでまた,連絡するわ。」

『いいよ。今で。もう用もたしたし!。・・・・・・だって,急にイチトがトイレのドア開けるんだよー!』

「そりゃ慌てるわ!」

『・・・・・・んで?今日はどうしたの?休みの日に』

「あ,うん,へへ。ちょっとね。」

『なんか,あったの?』

 ミーナは一つ,肩をおろしていった。

「私。明日から,あっちに行くことになったの。」

『?あっちって???』

 アンデは理解が追いつかなかったのか,少しの時間口を塞いでしまった。

『え?無能力界?』

 まるで,口に出してはいけない言葉の様に,丁寧に喉を震わせた。

「うん。」

『な,なん,なあ・・・・・・なんで??!!!』

 先ほどにも負けない慌てっぷりを見せた。

「アンデも知ってるでしょ?王子の未来の予言。」 

『んで?なんで?ミーナになにか関わりがあるの???』

「王子の結婚相手。その人を守りに行くの。」

『どうして?なんでミーナが!!!』

「私もよく分からない。でも,なんか,私が一番条件に合ってるんだってさ。意味わかんないよね~。」

『そ・・・・・・そんな。なんで。だって,あっちって危ないんでしょ?』

「んなことないよ。だって,私,あっちの学校に通うんだよ?しかも,王子がそんな危ないところに国民送る分けないジャン!」

『う・・・・・・うん。それもそうだね。・・・・・・じゃぁ,頑張ってきてね・・・・・・?』 

 アンデは明るいように振る舞っていたが声はすごい震えていた。

「それでさ,頼みなんだけど。」

『うん。なに?なんでも言って。』

「もしもの時はよろしくね」 

 沈黙が訪れた。

 また,少ししてミーナが言った。

「私の学校に置いてある物とか,すぐ燃やしてね。」

 ミーナは冗談のように言った。が,アンデはまるで別人のようになってしまった。

『もしもなんてないから!!!!!!』

 それは,今までのことを打ち切るかのような言い方だった。

 そんな事,まるで嘘かのように言ったのだ。

「しょうがないでしょ?」

『なんで?!なんでよ?!!なんでミーナが行かなきゃならないの?』

「だから,条件に合ってるんだってば」

『条件って何よ?!ミーナ,あんたわかってんの?!!』

「なにがよ!」

『結婚相手守るってことは,あんたが死んじゃう可能性があるってことなんだよ!!!』

 ミーナだって分かってた。でも,そのことには目を伏せていたのだ。

 王子の結婚相手を何故守らなくてはならないのか。

 それは,王子の結婚相手を狙う悪魔共が出てきたからだ。

 結婚相手を殺すか,人質に取ることによって,この国を混乱させることができる。

 王子は予言に出てきた相手と結婚することを既に決めている。しかも予言では,その相手と王子が結婚すれば,国はその後も安泰だ,と出ている。逆に王子がその人と結婚しなければ国は悪い方向へと向かっていくことになるのだ。

 だから,なんとしてでも,ミーナは結婚相手を守らなくてはならない―――たとえ,自分が犠牲になったとしても。

「国を守るためなの。」

 ミーナは幾らかでも冷静にいようと努めていた。

「名誉あることだと思わない??王子直々なんだよ?」

『こんなの酷いよ。だって,ミーナ王子の事,好きだったじゃないの!!!!』

 ミーナはアンデに全て見透かされたと感じた。彼女に嘘はつけなかった。

「そ,そんなの,ただの憧れよ。アイドルだったの。王子は。」

 言うと,アンデは声を出して泣き出した。

「もう,しょうがないことなの。」

『分かってるよーーーー!しょうがないことはーーーー!!』

 アンデは急に子供のように泣きじゃくった。

 もしかしたら,ミーナがあっちに行くことを許した,いや,行くのを止めることを諦めたのかもしれない。

 ミーナがあまりにも真剣だったから。

『もーーーー!!ミーナ!!!頑張ってきてよぉぉぉ!!!』

「分かってるわよ。」

『王子の結婚相手,守れなかったら,私がミーナのお嫁さんになっちゃうんだからぁああああああ!!』

「・・・・・・あんた,言ってる意味。わかんないわよ。」

『わあぁぁああああああああんん!!!』

 ミーナはこんなすてきな友達を持って本当に良かったと改めて感じた。

「ミーナ。そろそろ,僕も魔力の限界だ。切るよ。」

 ユウネのその言葉でミーナは自分を検めた。

「うん。ありがとう。」

『ミーーーーーナァァ!!バイバイーーーーーーーーー!!』

「うん。バイバイ。またね!」

 

 ―――プツンッ―――


 接続の切れた音といっしょに,切っても切れない二人を引き離したような気がした。

 そして,また,それが,アンデからの応援のようにも感じられた。


 

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