『第八章 過去』
そこは天界に似ていた。しかし、天界と違い島が三つしかなかった。
「このままではこの世界だけでなく、“外の世界”も滅ぶことになりかねん」
「しかし我々ではどうすることもできません」
「“世界の均衡”が崩れたのならもとに戻せばいいじゃないですか」
黒髪の少女がそう言った。
「それはできんのだ“ナイア”」
ナイアと呼ばれた少女はそれでも笑顔のままこう告げた。
「簡単なことですよ。この宇宙の容量を超えないようにすればいいのですから」
「いったいどうするというのだ?」
「つまり、この世界もしくは外の世界の住人を“この宇宙から消せばいい”んです」
「きさま!それができぬと言っておるのだ」
「なぜです?“ゲート”はとっくに開いているというのに」
「なに?どういうことだ、それは」
「それは“アフロディーテ”さんが知っていますよ」
「っ!」
「どういうことだ?アフロディーテ」
「そ、それは」
「待って!彼女はただ自分の娘を助けたかっただけなの」
「・・・“アルテミス”」
「でも、結局救うことはできなかった。というわけだ」
いつの間にか白髪の若い女性がそこにいた。
「“ナイア”!」
「どうして怒るのさ?アルテミス」
「あなた、少しは他人の気持ちも考えなさいよ」
「そうは言ってもね。事実だろう?どちらの世界にいたって、結局はこうなるんだ。それが分かっていてあの娘を―」
「ナイア!いい加減に―」
「静まれぃ!」
ふたりが口論しているのをゼウスが遮った。
「今は言い争っている場合ではないであろう」
「申し訳ありません」
「はぁ。それで名案は浮かんだのかい?」
「今からそれを話し合うのだ」
「今からじゃ遅いと思うけど」
「かといって、なにもしない訳にはいかぬ」
「だからさぁ。どちらかの世界の住人をけせばいいんだって」
「それはできぬ」
「なら、向こうの住人にやらせればいいよ」
次の瞬間、ナイアは姿を消した。
(ま、僕にまかせてよ)
その場に声だけが響いた。
アヴァロン。
「いったいどうしたらいいのかしら」
彼女は産まれて間もない赤子を抱いてその場に座り込んでいた。
「ジブリール様」
「あなたは確か、デニスの・・・」
「ヴェルといいます」
「ちょうどいいわ!この子を預かってもらえない」
「この子は?」
「事情は説明できないけど、デニスには私の子だと伝えておいて」
「あの・・・」
「ごめんなさいね。でも、他に頼れそうな人がいなくて」
「・・・わかりました。引き受けます」
「ありがとう」
ここで全てが闇に包まれた。
六人が目を開けるとそこはルルイエだった。
「どうだった」
いつの間にか少年の姿はなく変わりに黒髪の青年がそこにいた。
「今のは・・・?」
「今のが“真実”だよ」
「しん、じつ?」
「さぁ、昔話はこれでおしまいだよ」