『第五章 再会』
勝敗は決した。戦はジブリール達の勝利で幕を閉じた。敗北したゾーラとバアルはジブリールに拘束され、残ったものたちも全員降伏した。
それから一年の月日が流れた。アヴァロンは天使と悪魔の共存を実現させていた。
天界六島のひとつ高天原。
「んっ」
「気がついたか、ストレアよ」
「師、匠」
あの後、ストレアとゼブルは高天原の頭首“天照”によって保護されていた。ゼブルはその旨をストレアに説明した。
「そうですか・・・」
「今、アヴァロンはジブリールが支配しておる。天使と悪魔が平等に暮らせる社会は確かに実現されているようじゃ」
「・・・」
ストレアは“ルーナ”のことが気になってしかたがなかった。
ストレアが物思いに耽っているとひとりの女性が現れた。
「お体の具合はいかがですか?」
「あなたは?」
「申し遅れました。私、”天照”と申します」
天照と名乗った女性はストレアのそばまで来て腰を下ろした。
「どうですか、どこか痛むところなどはありますか?」
「いえ」
「そうですか。では、ほしいものなどはありますか?」
「えっと、それではお水を」
「わかりました。今お持ちしますね」
そう言うと天照は部屋を出て行った。
「なにをそんなに惚けるておる」
「えっ!いやっ、その・・・」
ストレアは彼女の丁寧な言葉使いと柔らかい物腰についつい見取れていた。
「お待たせしました」
天照が水を乗せたお盆を持って入って来た。
「わざわざおぬしが持ってこんでもよいであろうに」
「今動けるものが少ないので」
「なにかあったのか?」
「アヴァロンへ出していた偵察部隊が消息を断ちました。今、その捜索部隊を送っておりまして」
「ふん、そんなもの、送るだけ無駄であろう」
「ですが見捨てることもできません」
ふたりは険悪なムードとなった。
「あの・・・」
「どうしました?」
「その、アヴァロンへ戻りたいのですが」
「無理じゃ」
ストレアの問いをゼブルはすぐさま否定した。
「なぜです」
「その身体ではアヴァロンにたどり着くことなどできん」
「そんなことっ!」
しかしストレアが立ち上がろうとした瞬間、身体中に激痛が走った。
「うっ!」
「ほれ見ろ、立ち上がることすらできんではないか」
「うぅ・・・」
ストレアは泣いていた。自分の不甲斐なさに。
アヴァロン、新都市“ミッドガルド”。
「ついにここまできたわ。やっと、この世界を手に入れることができた。それもあなたのおかげよ、ルナリア」
「・・・」
しかし、ルナリアはこころここにあらすという状態だった。
「どうしたの、ルナリア」
「あの悪魔、ストレアだったかな?彼女のことが気になって」
「そう。でも、あの娘はあなたが殺したのでしょう」
「彼女はまだ死んでない。そんな気がする」
「会いたいの?」
「分からない」
「そう」
ルナリアは自室へと戻った。
「まさか、記憶が?」
―ルナリア自室。
(なんなのこの記憶は)
ルナリアは知らない記憶に戸惑っていた。
「確かめたい」
ルナリアはこの記憶がなんなのか確かめることを決めた。
天界六島のひとつ“テノチティトラン”。ここに六島の神が集結していた。
「なんでよりにもよってここなのよ」
「仕方あるまい。ここが一番アヴァロンから離れておるのだから」
「そうだけど。ここ獣臭いんだもん」
「我慢してくださいヨグ」
「天照がそう言うなら」
「相変わらずじゃの、ヨグは」
「ところでゼブル、その娘はなんだ」
「こやつはアヴァロンの住人で今アヴァロンを総ているルナリアの親友じゃ」
「初めましてストレアといいます」
「それでなぜここに連れてきた?」
「こやつを鍛えてほしいと思っての」
「誰にだ」
「ここにいる全員に、じゃ」
その瞬間、四人の神は驚愕した。
「なんで俺がそんなことを」
「頼む、このとおりじゃ」
ゼブルは深々と頭を下げた。
「理由をちゃんと説明してください」
「こやつをアヴァロンに連れていきたいのじゃ」
「親友に会わせるために、ですか」
ゼブルはうなずいた。
「分かりました。僕は協力します」
最初に賛同したのは“トナティウ”だった。
「本気か?」
「だっていい話じゃないですか、親友を助けたいなんて」
「いや、だが」
「ま、私も暇だしいいわよ」
次に“ヨグ・ソトース”が賛同した。
「異論はないです」
“イシス”も賛同した。
「はぁ、これは断れないパターンだな」
渋々という感じで“ダグダ”が賛同した。
「ありがとう」
「さて、そういうわけだ。よろしくなお嬢さん」
「はい!」
こうしてストレアの修行が始まった。
ルナリアはストレアを探してアヴァロンを飛び回っていた。
「どこにいるの」
ルナリアはひたすらストレアの気配を探していた。しかし、その日はストレアを見つけることができなかった。
四日目、この日も探し続けていたが結局見つけることができなかった。
「どこなの」
「ルーナ!」
突然声が聞こえた。
「あなたは」
角の形状や服装は違うが確かに彼女だった。
「ストレア、あなたに会いたかった」
「えっ」
「お願い、教えて。私は誰なの」
ストレアは、ルナリアに今までのことをありのまま話した。
「確かに私の記憶にあるのと一緒だけど」
「まだ、信用できない?」
「ううん、あなたを信じるわ」
「ルーナ」
ふたりはしばらくの間話してから分かれた。
その後もふたりはたびたび会うようになった。