『第三章 決別』
あの後、ジブリールとルーナは姿を消した。残されたストレアとシェスカはいったん魔界へ戻ることにした。
「ルーナ、どうして・・・」
ストレアはさきほどの出来事が理解出来ずにいた。
「・・・」
一方で、シェスカはまるでなにかを悟ったような顔をしていた。
一週間後、彼女達は突然現れた。
「アヴァロンに住むもの全員に告げる。我が名はジブリール」
突然の出来事にアヴァロンの住民は困惑していた。ただ一人を除いて。
「やはり来たか・・・」
ジブリールの演説が続いている。
「今やアヴァロンは破滅へと向かっている。それは、現支配者オリジンおよびバアルによる政治によるものである。」
聖界。
「いったいなにを言ってるんだかあの娘は」
魔界。
「ふん、小娘の分際でなにをほざくか」
ジブリールの演説は続く。
「この地を統べるべきはオリジンでもなければバアルでもない。新たなる神“ルナリア・ディオネ”である!」
「ルナリア・ディオネです。私は今のアヴァロンをかつてのように天使と悪魔が共存できる世界へ変えようと考えています。そのためにまず、私達に協力していただける方々を募っています。強制はしません、ですが私達の考えに賛同出来ない方々は“排除させていただきます”」
そこで演説は終了した。この演説を聴いていた人々は憤っていた。
「ふざけるな!」
「“排除します”ってなんだよ!それじゃあ選択肢なんてないじゃんか!」
「死ぬなんて嫌よ!」
「あんなやつに従うくらいなら死んだ方がましだ!」
人々は混乱していた。
演説が終わってすぐに聖界の首都ヴァルハラの城では会議が開かれていた。
「まさかジブリール様がまさかあのようなことをするとは」
「そもそもあの人物がジブリール様である保証はない」
「ジブリール様の正体を知っているのはプロフェッサー・オルフェとロシェット姉妹だけだ。しかもプロフェッサー・オルフェは向こうについている」
「ロシェット姉妹はどうしている」
「半年前から行方不明だ」
「確かめる術はなしか」
魔界の首都ニブルへイム。ここでも会議が開かれていた。
「なぜエグゼリカが天使どもといる」
「そんなことよりやつらの目的はなんだ」
「やつらのせいでどれだけの被害を被ったことか」
ざわざわ・・・。その場にいるほとんどの者が混乱していた。
「皆、静まれい!」
「ば、バアル様」
「今はうろたえている場合ではなく、なにが最善なのかを考えろ」
「し、失礼しました」
バアルの言った言葉でその場にいた全員が冷静さを取り戻した。
アヴァロンの外、天空島の一つ高天原。
「お二人とも大変でしたね」
「妾はそうでもないが、こやつは大変だっただろうな」
「・・・こんなときにヴァルハラを離れてよかったんでしょうか」
「しかたあるまい。もし、やつの弟ということがばれればなにをされるか分からぬ」
「それはそうですが・・・」
「いずれ動かねばならないときが来ます。そのときまで待ちましょう」
「はい・・・」
アヴァロン聖界と魔界の狭間“ユグドラ”。そこでは反対勢力の弾圧が行われていた。
「た、助けてくれええええ!」
「う、うわぁぁあああああ!」
「嫌ぁぁああああ!」
ルナリアの武器“アル・マヒク”は手に持たずとも自動で標的を追跡、次々とその場にいるものを殺していく。さらにルナリアはその手にスピア状の武器“ミステルティン”を出現させ、アル・マヒクが逃したものをそれで殺していった。
「いいわぁ。たまらなぁい」
「・・・」
その光景を遠くで眺めていたジブリールとエグゼリカ。しかしその反応は明らかに違っていた。
「どうしたの?エグゼリカ」
「なんでもないわ」
「ふーん」
弾圧は未だ続いていた。弾圧を始めてから数時間でユグドラは血の海とかし、至る所に死体の山ができていた。
「ごめんね」
ルナリアは自然とそんな言葉を口にしていた。そして、その目に涙を浮かべていた。
聖界と魔界の狭間に存在する別の場所、“ガンドール”。ここに天使と悪魔が集結していた。
「もうこれ以上奴らの好きにさせる訳にはいかない」
「それは私も同感だ」
三代目オリジンことゾーラとバアルが会話をしているのをそれぞれの種族は黙って聴いていた。
「そこでだ、協力し合わないか」
「ふむ、私も同じことを考えていた。しかしだな、それで奴らを倒せる保証はない」
「心配はいらない。こちらには“最終兵器”がある」
「最終兵器、だと」
「まぁ、楽しみしていたまえ」
ふたりの話し合いは夜明けまで続いた。
弾圧が開始されてから二週間がすぎた頃、天使と悪魔の両軍勢がユグドラに集結していた。
「天使、悪魔両軍に告げる」
ゾーラの演説が始まった。
「我々はジブリール並びにそれに与する輩を排除するために手を取り合うことを決めた」
「さぁ、今こそ奴らに一矢報いるときだ!」
「「おおおおおおおおおおおおお!」」
「馬鹿な奴らね。あの程度の軍勢で私達とやり合おうなんて。あなたもそう思うでしょルナリア」
「・・・」
ルナリアは静かににうなずいた。
「で、どうするの?」
「もうすぐオルフェが来るはずだからそれまでこの馬鹿げた風景でも眺めながら待ちましょう」
「はいはい」
エグゼリカはあきれたようにその場に座り込んだ。
「それにしても遅いわねぇ」
「待ち人はこいつかい?」
そこにはオルフェの服の襟を掴み仁王立ちしているストレアの姿があった。
「久しぶりね」
「なっ、あんたどうしてここにいるのよ!」
「こいつから場所を聞き出した」
そう言うとストレアはオルフェをジブリールの方へ投げた。
「そうじゃなくて、なにしに来たのかってことよ!」
「もちろん、ルーナを取り戻すためだ」
「ふーん。まぁ、いいわ役者はそろったわけだしそろそろ始めましょう。頼んだわよ、ルナリア」
「・・・」
ルナリアはうなずくとアル・マヒクを出現させた。
「残虐なる呪いを持ちし古の剣よ、その真の姿を我に現したまえ、その真の力で我に仇なす者を滅ぼしたまえ」
ルナリアが呪文を唱えるとアル・マヒクが輝き始めた。そして唱え終える頃には以前にも増して巨大となり、凶悪な姿へと変貌していた。
「いきなさい」
ルナリアが命令するとアル・マヒクは天使、悪魔の全勢力の中に飛び込んだ。ほどなくして悲鳴が聞こえてきた。
「うぁぁあああああ!」
「な、なんだ、これは!」
「きゃぁあああああ!」
「あはははははははは!最高よ!もっと!もっとよ!もっと悲鳴を聞かせてぇ!もっと、もっとぉ」
「な、なんだよこれ」
「狂ってるわね」
そこへゾーラとバアルが現れた。
「ここにいたのかジブリール!」
「よくも仲間を殺ってくれたな!」
ふたりの後ろには十数名の天使と悪魔がいた。
「あら、生きてたの。以外としぶといのね」
「ふざけるな!」
「貴様だけはゆるさん!」
ゾーラとバアル、そして生き残った天使と悪魔がジブリールに攻撃を仕掛けた。
「ふふ、ふふふふふふ」
ジブリールは歪んだ笑みを浮かべていた。
「ぶぁーか!」
いつのまにかジブリールの周りには無数のスピアが出現していた。
「死ね、ゴミども!」
スピアがバアル達に襲いかかる。そこへ上空から無数の銃弾が降り注いだ。
「そこまでにしておけ、ジブリールよ」
「まぁたそうやって私の邪魔をするのね。ふざけんじゃないわよ!ゼブル!」
「師匠!」
「ストレアよ、はやくルーナのもとへ」
「させないわ!」
スピアがストレアに向かって飛んでいく。
「させぬ!」
ゼブルがスピアを撃ち落とす。
「ルーナ!」
「・・・」
ルナリアは無言でミステルティンを構え、ストレアに攻撃を仕掛けた。
「どうしてなのルーナ。あたしが分からないの」
「あなたなんて知らない」
「っ!そ、んな。ルーナ・・・」
ルナリアは休むことなく攻撃を繰り出してくる。ストレアは防戦一方だった。
「ルーナ、目を覚ましてよ!」
「私はルーナじゃない。私の名前はルナリア」
「違う!あんたはあたしの親友ルーナだ!」
「だから、違うの」
ルナリアはミステルティンをもう一本出現させた。
「さようなら」