『第十四章 対面』
そこは以前ナイアが見せた世界に似ていた。
「ここはどこ?」
「見たことあるような・・・・」
「まさかここに出るとはね」
ナイアはいつの間にか人の姿になっていた。
「よりにもよって“オリュンポス”か」
「「え?」」
「でもどうしてここに?」
「ぎりぎり間に合ったわ」
「「ヨグさん!」」
「なんでお前がここに?」
「ふたりを取り戻すためよ」
「まさかここに飛ばしたのは」
「私よ」
「ちっ」
「とにかく、元の世界に戻るとしますか」
「戻れるんですか?」
「もちろんよ」
そう言うとヨグ・ソトースは扉を出現させた。
「さぁ、帰りましょう」
「お前たち、そこでなにをしている!」
ひとりの兵士が四人に近づく。
「ここは急いだほうがよさそうね」
「逃がしません!」
「え?」
上空から複数の天使が舞い降りた。
「あなたたちを拘束します」
一方、天界。
残された五人は一度アヴァロンに帰還していた。
「大丈夫かのう」
「ヨグがいるから大丈夫ですよ」
「どこへ行ったのか分かれば追えるんだけど」
「本当か?」
「ええ。“アドラスティア”の整備がもうすぐ終わるわ」
「“アドラスティア”というのは次元航行が可能なのですか?」
トナティウがジブリールに疑問をぶつける。
「ええ。ただ“アドラスティア”の次元航行機能は使い物にならないから、“ノア”のを移植しているんだけど、うまく作動するかは分からないわ」
「望みがあるのならばなんでもかまわぬ」
「そう、分かったわ。問題はどこに行ったかね」
「うむ」
「まっ、なんとかしてみるわ」
「頼む」
ジブリールはさっそく作業にかかった。
別世界。
ルーナたちは地下牢に閉じ込められていた。
「いったいどうしたら・・・」
「君ならなんとかできるんじゃないのかい?」
「今回ばかりは無理ね。どこにも扉を開けないわ」
「使えないな」
「だったらあんたがなんとしてみなさいよ!」
「うるさいぞお前ら!」
「すみません」
「早く戻らないといけないのに」
「大丈夫よ。いつかチャンスは来るわ」
「はい」
ルーナたちが話していると遠くから足音が聞こえてきた。
足音が止むと話し声が聞こえてきた。
「ここにあの子がいるのですね?」
「はい。ですが本当にお会いになるのですか?」
「はい」
「分かりました。どうぞこちらへ」
扉が開き兵士と共に金髪の女性が現れた。
「ありがとう。あなた持ち場に戻ってください」
「しかし・・・・」
「お願いします」
「分かりました」
兵士は金髪の女性に敬礼をして扉から出て行った。
金髪の女性は兵士が出て行ったのを確認し、ルーナたちの方を向いた。
「久しぶりですね“ルナ”」
「あの・・・・」
「私のこと覚えてるわけありませんよね」
「あなたがその・・・・・・私のお母さん、ですか?」
「私に母親を名乗る資格はありません」
「そんなことよりさぁ、ここから出してよ“アフロディーテ”」
「空気読みなさいよ」
「残念ながら私には権限ありませんので無理です」
「では、私はこれで失礼します」
アフロディーテが踵を返す。
「あっ・・・・・」
ルーナは声をかけようとしたが、その前にアフロディーテは扉の奥へ消えてしまった。
「あの人が私の・・・・・・」
「ルナ・・・・」
「アフロディーテ!」
アフロディーテが廊下を歩いていると向こうからアルテミスが走ってきた。
「どうだった?」
「とても可愛らしかったですよ」
「そうじゃなくて」
「もう、いいんです。これ以上私があの娘に関わることは許されないんです」
「そんなことないわ」
「いいえ。あの娘のためにももう・・・・」
「あなたはそれでいいの?」
「・・・・・・」
「もう一度会ってみたら?」
「そうですね。ですが今日はもう無理です」
「そう」
三日後、ルーナたち四人は謁見の間に通された。
謁見の間には髭を蓄えた男性と豪華なドレスに身を包んだ女性が座していた。
「お前たちが異界来たものたちか」
「はい」
ルーナが代表して答えた。
「懐かしい顔もいるな」
ナイアの方を見てそう言った。
「我が名は“ゼウス”。この世界を統べる王なり。貴公らの名は?」
「ルーナ・エルフィンです」
「ストレア・フェルナンドです」
「ヨグ・ソトースよ」
「ナイア」
「ここへはなにをしに来た?」
「ナイアが次元の彼方に飛ばそうとしたから助けるために私がここに“道”をつなげたの」
「つまりなにか目的があって来た訳ではないと?」
「そう。だから、早くもとの世界に帰らせてほしいんだけど」
「それはできぬ」
「どうして?!」
「お前たちにはまだ侵略者の疑いが掛かっている」
「疑いが掛かっているのはこいつだけでしょ!」
「なんで僕を指差すんだい?」
「他にだれがいるのよ」
「とにかくお前たちにはもうしばらくここにいてもらう」
「しばらくはこの部屋をお使いください」
ルーナたちは牢屋ではなく豪華な装飾の施された部屋に通された。
「なにかありましたらこちらのベルでお呼びください」
そう言ってルーナに掌サイズのベルを渡した。
「わかりました」
「では私はこれで」
そう言って侍女は部屋から出て行った。
「さて、しばらくこっちに滞在することになったけど、どうする?」
「どうするもなにも帰るに決まってるじゃないか」
「無理よ。ここでも扉が開けない」
「本当に使えないな」
「うるさい。だいたいあんただってなにもできないじゃない」
「そんなことはないよ。ここを破壊するくらい容易いよ」
ナイアは魔法陣を展開した。
「そうだ。今ここで続きをしようか」
「はぁ?!ふざけるんじゃないわよ!」
「ふざけてるつもりはないよ。僕にとってはこの世界もあっちの世界もどうでもいいんだ」
「あんたの本当の目的はなに?」
「お前に教える訳ないだろ」
ナイアは攻撃の構えをとった。
「おしゃべりはここまでだ。死ね!」
ナイアの影から大量の触手が現れ、ルーナたちを襲う。
「うわっ!」
「ちょっ!」
「くっ!」
「あははははは」
ナイアの触手が部屋を破壊していく。
「なにごとだ!」
そこに兵士がやってきた。
「邪魔だよ」
「なにっ!」
兵士が触手に吹き飛ばされた。
「これ以上、好きにはさせないわ」
ヨグ・ソトースが応戦を始めた。
「止められるものなら止めてみろ!」
そう言ってナイアは城の外へ飛び出した。
「なっ!待ちなさい!」
「止まりなさい!」
ナイアを追いかけようとしたヨグ・ソトースの前に鎧を着た女性が現れた。
「何なのよ?あんた」
「私は“アルテミス”。悪いけど一緒に来てもらうわ」
「ちょっと!あいつはどうするの?」
「あいつは私の部下が追っているわ」
「大丈夫なの?」
「いいから、早く来て」
そう言ってアルテミスは三人を縛り上げ引きずり始めた。
「ちょっとなにするのよ!」
「あなたたちがもたもたしているから」
「分かったわよ。自分の足で歩くから一度止まってよ」
「しょうがないわね」
アルテミスが歩みを止めた。
「いたたた」
「早くしなさい」
「もう大丈夫よ」
「私もいつでも」
「あたしも」
「じゃあ、行くわよ」
アルテミスは再び歩き出した。
「それで、いったいどこに行くの?」
「ゼウス様のもとよ」
「なんで」
「事情を聞くためよ」
「何の事情よ」
「あいつが暴れだしたことよ」
「そんなの私たちが知る訳ないじゃない」
「詳しいことはゼウス様の前で聞くわ」
しばらくすると四人は城の中庭の出た。
「なんで中庭?」
「ゼウス様の希望よ」
「・・・・・・・きれい」
「見たことがない花ばっかりだ」
「さぁ、こっちよ」
アルテミスは中庭の中央に設けられた小さな小屋へと歩き始めた。
「ちょっと、引っ張らないでよ」
アルテミスが小屋の戸を開けると外見とは裏腹に広い部屋が広がり、そこにゼウスを含め十一人の男女が座っていた。
「これはなに?」
「説明するから、そこの席に座りなさい」
そう言ってアルテミスは空いている席を指差した。
「大丈夫なの?」
「いいから座りなさい」
「分かったわよ」
ヨグ・ソトースがまず、三つ並んだ椅子の右端に座り、次にルーナが中央に、ストレアが左端に座った。
三人が座ったのを確認し、アルテミスが席に着き、それと入れ替わるようにゼウスが立った。
「おぬしたちをここに呼んだのは“ナイアーラトテップ”のことについてだ」
「その前にこの状況について説明してほしいんだけど」
「そうだったな。ここにいるのは“オリンポス十二神”と呼ばれる十二人の神たちだ。彼らがここにいるのは今起こっている状況について話し合うためだ」
「そう。分かったわ。私から言えることはあんたたちはみんな馬鹿ってことね」
「なに?!」
「貴様」
「落ち着け」
「しかし!」
「理由を聞かせてもらえるかな?」
「こんなとこで集会開いてる暇あったらさっさとナイアのやつをどうにかしなさいってこと」
「しかし、我々はやつへの対処法を知らない。それにやつの中には“ロキ”がいる」
「“ロキ”?」
「ロキはかつて“冥界”を統べていた“ハデス”を倒し、冥界を支配した神だ」
「そいつがあいつの中にいるの?」
「そうだ」
「それはありえないわ」
その言葉に若い男が立ち上がった。
「なに?!」
「やつの中にそんなやつの気配なんて感じなかったわ」
「ふざけるな!俺たちは確かにロキがあいつに飲み込まれるのを見たんだ」
「そんなこと言われても」
—————ガシャーン
突然窓ガラスが割れ、一組の男女が現れた。
「「「「ロキ!」」」」
「「「ナイア!」」」
現れたのはナイアとロキだった。
ナイアはあの後、アルテミスからの追っ手からひたすら逃げていた。
「しつこいのは嫌いだよ」
触手で攻撃するも盾で防ぐあるいは避けるなどして、常にナイア視界に入るように動いていた。
「くそ!」
「お困りかな?」
「君は!」
いつの間にか横にロキがいた。
「助けてあげようか?」
「手助けなんていらない」
「そう言わずにさ。君にはここで捕まってもらうわけにはいかないんだ」
「どういうことだい?」
「逃げ切れたら教えるよ」
「・・・・・・」
「そんな怖い顔しないで。俺はただ、助けてもらった恩返しがしたいだけなんだ」
「ふん。僕は君は助けた覚えはないけど、まぁいいさ君がなにを考えているのか興味があるし、ここはひとつ君の親切に甘えるとするよ」
「ありがとう」
そう言ってロキは追っ手たちの方を向き、手を突き出した。
「さようなら」
次の瞬間追っ手たちが凍りついた。
「さぁ行こうか」
「うん」
「悪いけど僕には時間がないんだ。詳しい説明は省かせてもらうよ」
そう言ってロキはゼウスに襲いかかった。
「死ねぇ!ゼウスぅ!」
「甘いわ!」
ロキの爪による斬激を素手で受け止めた。
「甘いのは貴様だ」
「なに?」
次の瞬間、ゼウスの手から二の腕までが凍りついた。
「なにをした?」
「これが僕の力だ」
「皆の者!ゼウス様をお守りするのです」
「言われなくても」
“ヘラ”の命令でオリンポスの神々が動いた。
「行くよ姉さん」
「ええ」
アルテミスとアポロンは弓を構えた。
「そうはさせぬ」
アルテミスとアポロンに一匹のオオカミが襲いかかる。
「くそ!」
「邪魔をしないで」
オオカミだけでなく大蛇や女性が現れそれぞれ神を相手に一歩も引かず、むしろ押していた。
一方、ルーナたちは三人掛かりでもナイアを相手に苦戦していた。
「なんでこんなに強くなってんのよ」
「ここに来るまでに何人か吸収して来たからね」
「いい加減にしなさいよ」
「無理だね」
「こんの」
「ヨグさん!離れてください!」
「っ!」
ヨグ・ソトースが右へ飛ぶとその横をなにかが通過した。
「なに!」
それはナイアの頭に刺さって止まった。
「やってくれるじゃないか」
ナイアはそれを掴み握りつぶした。
「僕にだって命に限りはあるのに」
言いながら傷口が徐々に塞がっていく。
「だったら死ぬまで殺す!」
ストレアはヤグルシとアイムールを手にナイアに襲いかかる。
「君には無理だよ」
ナイアの触手がヤグルシとアイムールに絡み付き、破壊した。
「なに?!」
ナイアの触手がストレアを捕らえ、壁に叩き付けた。
「がっ」
「ストレア!」
「君は弱いんだからそこで大人しくしてなよ」
「ぐっ。ふざけるな」
「ふざけてるのは君だろう?」
床から触手が現れストレアを拘束した。
「神々の戦いに悪魔の君が入れる余地なんてないんだよ」
「くそっ」
「ストレア!」
「させないよ」
ストレアのもとへ向かうルーナをナイアの触手が阻む。
「邪魔しないで」
ルーナは触手を切るがすぐに再生し、再びルーナ行く手を阻んだ。
そうしている間にも触手はストレアをじわじわと締め付ける。
「くっ。このっ」
ストレアは触手から抜け出せずにいた。
「なんで」
「神でない君はここに居ちゃいけないんだ」
「っ!」
「そんなことない!」
「ルーナ・・・・」
「神じゃないからってここに居てはいけない理由にはならないわ」
ヨグ・ソトースはナイアとストレア、ふたりに向かって言った。
「ヨグさん・・・・」
「仕方ない、言い直すよ。“弱者”は失せろ」
「っ!」
「あんたねぇ!」
「ストレア弱くなんてない!」
「うるさいなぁ」
ナイアはストレアを見つめた。
ニィ——————。ナイアが不適に笑う。
「“いただだきます”」
瞬間、触手のひとつがストレアを飲み込んだ。
「うそ」
「なんてこと」
「ふん。なかなかおいしいじゃないか」
「———————せ」
「ん。なんだい?」
「ストレアを返せぇぇぇぇぇ!」
ルーナがナイアに切り掛かる
「ちっ」
「このぉぉぉぉおおおおおお!」
「くそっ!僕が押されている?」
ルーナは切り掛かるだけでなく無数のチャクラムや光の球をナイアに向かって放った。
「くっ。怒り狂ってる割に戦略性のある動きをするじゃないか」
「あああああああああ!」
「ルーナ落ち着きなさい」
ヨグ・ソトースがルーナを取り押さえる。
「話してください!」
「あいつを殺したらストレアは二度と戻って来ないの」
「えっ?」
「詳しい説明は後でするわ。とにかくここは私に任せて。あなたは援護をお願い」
「分かりました」
「行くわよ」
「はい」
ルーナとヨグ・ソトースはナイアに向かって飛んだ。
「ストレアを返してもらうわよ」
「前みたいにはいかないよ」
ナイアの触手がふたりを襲う。
「無駄な抵抗はやめなさい」
ヨグ・ソトースは触手を避け、ナイアとの距離を一気に縮めた。
「もらった」
「なにっ!」
ヨグ・ソトースの手がナイアの胸に触れる。
「なんてね」
「えっ?」
ヨグ・ソトースにはなにが起こったのか分からなかった。
ヨグ・ソトースがナイアに触れた瞬間、ナイアの身体が触手に変りヨグ・ソトースに襲いかかる。
「ヨグさん!」
ルーナが駆けつけるが間に合わなかった。ルーナの目の前でヨグ・ソトースが触手に飲み込まれる。
「あはははははははっ!ついにこの力を手に入れた!」
「そんな・・・・ヨグさんまで」
「これでもう僕を邪魔出来るやつはいない」
「まだ、私がいるわ」
「例え君でも今の僕には勝てないよ」
「勝つ。勝ってふたりを助ける」