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『第十二章 鍛錬・後』

 ルーナとストレアは再び“カイル・アリアンロッド”で修行を始めた。

「ふたりとも、魔力のコントロールが全然できてないわ」

「すみません」

「でもこれ、かなりきつい・・・」

「ぐだぐだ言ってないでこの程度の課題さっさとクリアしなさい」

 ジブリールがふたりに課した課題は“糸通し”だった。ただし、針に通すのは自身の魔力で紡いだ糸。しかも通す針は百本以上もあった。

「いったい“これ”と魔力のコントロールと何の関係があるのさ」

「ちゃんと説明したじゃない。“魔力の糸”を紡ぐには精密なコントロールが必要なのよ」

「でも、針に通す意味はないじゃん」

「それは、集中力の向上と魔力の質を高めるためよ」

「全然、わからん!」

「あなたって本当、頭悪いわね」

「なっ!そんなはっきり言わなくてもいいだろ!」

「なによ、事実を述べているだけじゃない」

「ぐっ」

 ストレアは二の句がつげなかった。自分でも頭の悪さは理解していた。

「ま、まぁそのことは今は置いておいて。とにかく修行がんばろう?ね」

「うん」

 ルーナに促され、ストレアは渋々修行を再開した。


「まったく・・・」

「どうじゃ?ふたりの様子は」

「全然だめね。ふたりとも魔力が高すぎて制御がうまくいかないみたい」

「ふむ。あれは妾も予想外じゃった」

「正直、ここじゃなかったらこんなゆっくりとなんてできないわ」

「ここはふたりを信じるしかないの」

「そうね」

 ふたりはただ見守るしかないことにもどかしさを感じていた。


 ルーナとストレアを見守る影が四つ。“ボドブ”の三人とアリアンロッドはふたりが心配で様子を見に来ていた。

「なかなかうまくいってないみたいですね」

「やはりここは私達も手助けを」

「魔力のコントロールぐらいなら私達でもできるし」

「でもジブリールさんの方がコントロールは上手だし・・・」

「でも、教え方は下手だよね」

「ちょっ!聞こえたらどうするの?」

「大丈夫。かなり距離あるし」

「いや、こっち来るけど」

「え?」

 確かにジブリールは四人の方に向かって歩いていた。

「これはまずいですね」

「ど、どうしよう・・・」

「・・・・逃げよう」

「それしかないか」

「無駄よ」

「「「っ?!」」」

 いつの間にか四人の後ろにジブリールがいた。

「この三人はともかく、なんであんたもこんなことしてんのよ」

「ふふ。つい楽しくなってしまいまして」

「それでさっきの話だけど」

「い、いやあれはその・・・」

「じょ、冗談ですよぉ」

「もう言いませんからその拳を仕舞ってください」

「ほら、この子たちも反省していることですし、許してあげてください」

「わかったわ。そのかわり、あのふたりに魔力のコントロールを教えてあげて」

「それはもちろんです。ね?」

「「「は、はい」」」

「じゃあ、よろしくね」

 そう言ってジブリールはその場から消えた。

「では行きましょうか」

「「「はい!」」」


 ルーナとストレアは悪戦苦闘していた。

「くそう!全然入らん!」

「なかなか太さの調節が難しいね」

「そんなあなたちに朗報です」

「「っ?!」」

「お久しぶりです」

「アリアンロッド様?!」

「どうしてここに?」

「「「私たちもいるよ!」」」

 アリアンロッドの後ろから“ボドヴ”の三人が現れた。

「ここからは私たちがあなたたちの修行を見ることになりました」

「改めてよろしくね」

「ジブリールはどこに行ったのじゃ?」

「あの人は帰りました」

「なっ!たく、あやつは・・・」

「じゃあ、さっそく始めようか。時間ないし」

「始めるっていても・・・」

「なにをするんですか?」

「今まで通り針に糸を通せばいい」

「私たちはそのコツを教える」

「本当に?!」

「もっちろん!」

「私たち、嘘はつかないよ」

「それで、いったいどうすればいいんですか?」

「まず、君たちはどうやって糸を作ろうとしてるんだい?」

「どうって・・・」

「魔力を細くして糸状にしてるんですけど」

「それじゃあだめだよ」

「え?」

「確かにそれでも糸はできるけどね。でも、脆い糸しかできないよ」

「じゃあ、どうすればいいんですか?」

「糸というのは何本もの束でできてるんだ。だからこうやって何本も束ねて」

 説明しながら実際に糸を紡ぐバズゥ。ルーナとストレアもそれに習い糸を紡いでいく。

「次は束ねた糸を細くする方法ね」

 次はマッハがふたりに指南する。

「これは魔力を水飴と考えると分かり易いわ。水飴は延ばすと細くなるでしょ?」

「なるほど」

「水飴ってなに?」

「「「「「「え?!」」」」」」

 その場が一瞬凍りついた。

「ストレア本気で言ってるの?」

「う、うん」

「子供の頃に食べたりしなかった?」

「うん」

「えっと・・・。じゃあ例えを変えるわ。そうね、パン生地なら分かるでしょ?」

「それなら分かるよ」

「パン生地は延ばすと細くなるわ。だからさっき束ねた魔力も延ばすと・・・・、ほら」

 まるで本物のパン生地のようにマッハの持つ魔力の塊が延びる。

「おお!」

「驚いてないでやりなさいよ」

「いや、つい見取れちゃって」

「はぁ、時間がないって言ってるでしょ」

「分かってるよ」

 ストレアは自身が作り出した魔力の塊を延ばす。

「あれ?」

 しかし、延ばした魔力はすぐに切れてしまった。

「魔力はひとりひとり性質が異なるの」

「そうなんだ」

「では、ストレアさんは私が」

「お願いするわ」

 ストレアはモリガンが教えることになった。

「ストレアさんの魔力は延びにくいのですね。この場合は糸ではなく別の方法がいいですね」

 そう言うとモリガンは魔力の塊を捏ね始めた。

「このように糸ではなく板を作ってみてください」

「わ、分かった」

 ストレアは自身の魔力を薄く延ばし始めた。

「そうです。なかなかお上手ですね」

「これ、どこまで薄くすればいいの?」

「そうですね。では、あなたが着ている服の薄さまでお願いします」

「分かった」

 ストレアは言われた通り布と同じ薄さになるまで延ばす。

「次はそれを鉄の硬さにします」

 ストレアの修行は順調に進んだ。


 一方ルーナ。

「この延ばして糸状にした魔力をさらに細く、頑丈にするわ」

「魔力の圧縮ですね」

「そう。魔力の圧縮は魔法の強化に繋がるの」

「それなら大丈夫です」

 そう言うとルーナは自身の糸をさらに細くしてみせた。

「どうですか?」

「な、なかなかやるじゃない。これなら次は魔法の訓練に移れるわね」

「はい」

「あなたの魔法は主に遠距離からの攻撃と敵の魔法を反射することに長けているから、私よりもアリアンロッド様かゼブル様に教わった方がいいわね」

「はい。分かりました」

「その前にこれを渡しておくわ」

 ジブリールがルーナに向かって歩いて来る。

「私が昔使っていた物よ」

 ジブリールは手に持っていた槍状の武器をルーナに手渡す。

「大事にしなさい」

「お母さん」

「私はあなたの母親じゃないわ。生みの親でもなければ育て親でもない。あなたに“お母さん”なんて呼ばれる資格はないわ」

「でも、私を守ろうとしてくれた。私に大切なものを守る術を教えてくれた」

「そんなことで母親なんて」

「私とっては“お母さん”と呼ぶには十分な理由なの。だから、“お母さん”は私の“お母さん”これからもそれは変らない」

「ルーナ・・・・・ありがとう」

「お母さん、私に魔法の使い方もっと教えて」

「ええ、もちろん教えてあげるわ」

「ありがとう」



 ルーナとストレアの修行は過酷さを増したがふたりはそれを乗り切り、心身ともに成長を遂げた。

「よくここまで成長してくれた。妾は嬉しい」

 ゼブルはふたりの成長ぶりに感極まって泣いてしまった。

「なによ、らしくないわね」

「さて、ここで私たちからプレゼントがあります」

「どうぞこれを」

 モリガンがそう言うとマッハとバズゥがルーナとストレアに自分たちが作った服を差し出した。

「この服は魔力を通すことで頑丈になって鎧のような役割を果たすわ」

「これを着て頑張ってね」

「ありがとう」

「これなら負ける気はしないよ」

「今のあなたたちはこの世界の希望です。だからといって無理はしないでください。あなたたちの帰りを待つ者たちも多くいるはずです」

「ありがとうございます。でも、私たちなら大丈夫です」

「絶対勝って、そして生きて帰ってきます」

「さて、そろそろ行くぞ」

「「はい!」」

 ルーナとストレアとゼブルそしてジブリールはアヴァロンに転移した。


 作戦開始まであと一日


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