1日目①
お知らせ
こちら側の都合により、本作品は小説家になろうでの投稿は停止し、8月4日(月)よりカクヨムにて投稿を行います。
申し訳ありませんがご理解の程よろしくお願いします。
朝6時集合なんて、美大生にとって罰ゲーム以上に辛いことなのに、こういう日に限ってアラームよりも早く起きる。これから3日間一緒に行動できるのだから、これほど幸せと思えることはない。どこかの教本で“同じ人と一緒にいる時間が長ければ長いほど親密度が深まり付き合える確率が上がる”なんて本を読んだ。馬鹿みたいに付き合ってなんてストレートに言ったら、それだけで関係が崩れそうで未だに言えないままでいる。
『清水ー起きたー?』
物は試しにとメールをするが、既読はつかない。遅刻厳禁なのだから、遅刻されては私の3日間の目的がなくなってしまうではないかと焦りを感じている。ヘアバンドで髪を押えて、顔に水をつける。いつもよりも水は暖かく、いつもよりも目のクマが目立って、鏡に映る顔は少しばかりかたちがだらしないと感じた。入念にと意気込みながら、清水くんのプロフィールにあった楽曲を聴きながら化粧を始めた。確か中学生ぐらいの頃に流行ってたバンドグループで、私ひとりで何百と再生していたかはもう分からない。彼と同じ音楽を聴いて、泥酔している自分がいる。
『今起きた』
5時13分、彼からのメールが届いた。こういう時に限って早起きするのはおなじなのかもしれない。私に関しては、自転車で走れば10分とかからないが、清水くんはどこに住んでいるのだろう。
『良かった、6時集合だから遅刻しないようにね』
吐きたい言葉を押し殺して、自分に呪いをかけた。本当は途中まで一緒に行きたいけれど、そんなことを言えるような勇気はなかった。メッセージに対するいいねのスタンプ1つが、その会話を終わらせた。
「まりりんおはよう」
「あぁ、おはよう美咲。」
私たちと清水くん以外にもう1人、清水くんの友達がいるが、彼は遠くの方で1人スマートフォンをいじっている。
「先生清水は?」
「それなんだが、清水は東京駅で待ち合わせと聞きててな」
よくよく話を聞いてみれば、銀座のアートギャラリーで展示をすると言う話で、そのような情報はインターネット上のどこを探しても載っていなかった。
「おはよう、清水くん。まさか東京で会うなんて」
「うん、おはよう。堺さん。」
SNSのコメント欄に“徹夜なう”だなんだと書いていたので、おそらくはこのことだろうと、点と点が繋がった。目の下にはあからさまな黒いクマと、気だるそうな感覚がひしひしと伝わり、頭が回っていないように思える。東京駅に着くやいなや、渡されたチケットで新幹線に乗る。自由席とはいえ、東北行きの電車は思いのほか席が埋まっていた。
「清水くんは先座りな、ね。ちゃんと寝てね。」
「あぁ、うん。」
窓際に座るや否や、後ろに下げた席と隣の席の溝に寄りかかり、瞼が落ちるのは思いのほか一瞬の出来事だった。その隣には清水くんの友達が座り、私たちは、そこよりもはるか前に座っている。
「東北さぁ、何が美味いんだろう?やっぱ日本酒なのかな」
昨年も雪像大会行ったのに、そう言われて出てくるものは何も無かったが、何があるのだろうと肩を寄せ合いひとつの画面で調べる。
「んー…やっぱ日本酒かぁ?」
多くものは出てくるが、基本的には雪像大会が終わり次第打ち上げもすることなくすぐに帰ってしまう。東北には何があるのだろう、観光してから帰りたいと言えばそうできるだろうか。
「待って熊肉食べれるとこある。生馬刺しに鹿肉に生レバーもある…。」
八王子にも生レバーを食べれるお店は1件知っているが、熊肉に関しては東北ならではなのかもしれない。最後東北を去る前に少し立寄ってみたいところだけれど、それを先生はいいと言うのかは定かではない。
『もう時期到着するので、改札前で集合しましょう。防寒対策は忘れずに』
真田先生がグループに対し一同に発信すると、チャックを開ける音と立ち上がる人と、それら全てが私たち八王子美術大学の大学生だと言うことがあまりにも分かりやすかった。
「明日寒い?」
「んー…そこそこ?」
「何それそこそこって」
到着して外に出ると、凍てついた空気が吐いた吐息を白くする。天気予報を見てみると、秋田市の気温がマイナス3度と書いてある下に、体感温度マイナス15度と書いてある。暖房が効いていた新幹線の空気から一転し、その寒さが手袋越しにも伝わる。
「めちゃくちゃ寒いじゃん嘘つき」
「すみませんねぇ、カイロある?」
「渡さないけど、持ってもないけど」
真田先生が作った必要物品の中にもカイロは入っていたはずなのだが、他の人もちらほらそんなところの人がいるのだろう。
「貸し一で。」
貼るカイロ、貼らないカイロ全て持ってきて正解だったのかもしれない。
11時、東北駅について間もなく、眠たい体を起こしてバスに乗る。東北の雪は、私が想像するよりもはるかに高く積もっていて、大型バスの2階にいてもその壁は高く、車窓からはその天井が見えなかった。東京の中でも雪が降ると言われる八王子でもここまで雪が積もることはあまりないし、東京なら2センチでも交通がほど雪に耐性がない。
バスに揺られてお昼頃、見覚えのある景色が姿を現した。
「はい、皆さんもうすぐバス降ります。忘れ物あっても取りに行けないので、絶対に確認しておいてください。」
スキー場が併設された宿泊所である。バスを降りて自動ドア潜り、見慣れた木造の内装が去年の出来事を思い出させる。
「13時から開始なので、各グループに分かれて行動してください。」