0.introduction
『清水くん雪像大会行くの?』
後期に行われる彫刻演習の関連で、東北県の雪まつりに参加ができるらしい。
『その予定だよ』
5万を払ってでも、清水くんと居れるならそれでいいと思った。前年度参加して最優秀賞を取ったことを理由に教授から参加して欲しいと頼まれてはいた。断ろうとしていたものの、行く理由が今できたと言っても過言ではない。
『私も行く』
清水くんとは、都展で一緒に知り合った仲でそれからというもの、ゲームの話についていってる。彼が好きな同じゲームをやって、いつか話が途切れないかと恋愛本を読み込んでそれ通りのテンプレートでメールを繋げている。進級展が終盤に差し掛かる1月の中旬、3Dプリンターで制作した立体物に、色彩ラフを無視して感じたままに色を乗せていく。
「初めまして、彫刻科の真田です。」
1月の下旬、ガラス越しに叩きつける雪を眺めに、食堂のモニターに資料を写して事務的に真田教授が話し始める。以前から変わったことは、お菓子の量が増えたことと、食堂でお酒が配られることだ。縦の長い机に10数人の学生が座り、ある人は洋菓子を食べ、ある人は缶ビール片手にポテチを貪っている。そんな中で私は、1人最前列で教授の隣で背を真っ直ぐ伸ばして座っていた。
「グループ分け、この人と一緒がいいとかいますか?」
「飯田さんと一緒がいいです」
グループ分けが次々と始まる。1グループ4人のチームで、先に埋まればその人たちとは一緒にはなれない。確かに名簿には、友達の名前がはっきりと書いてある。そんなことを考えているうちにも、席は埋まっていく。
「ねぇ、組もうよ。一緒に」
斜めに座っていた友達が、机から身を乗り出して話してきたものの、今回ばかりは少し悩みどころが多い。彼女は藤原美咲。元々はSNSで知り合った同じ美術大学の最難関、東京美術大学志望の子で、1年生の時から良くしてもらっている仲の3つ年下の3年生。追っかけのアイドルのイベントやら旅行やらを一緒にしてる。
「んー…いいけど?」
「したらあと2人だ、組みたい人いる?」
話している間にも、グループは次々と決まっていく。友人関係があるなら尚更だろうけれど、ただ知り合いというだけで、話してもいいのだろうか。この気を逃したら、清水さんとは話す機会がなくなるように感じた。
「あと他はいますか?そしたら、」
「先生、清水くんの班にしてください。」
「はい、名前は」
「総合デザイン科3年 堺茉莉です。」