ハンティング
「お疲れ様でーす」
夕食の後片付けを終え、ノートPCを抱えてリビングに入ります。
「お疲れ様です……?」
不思議そうな妻。
「いやあ、今日も暑いですねぇ」
そう言いながらPCを電源に繋いで起動します。
「それ、ミーティングのロールプレイ? なに働いてる感だしてんの? ニートのくせに」
辛いツッコミがきます。
「いやいや、あいかわらず手厳しいですねー」
ちょっと涙目になってるのは隠し、口元だけで笑ってみせます。ニートに転職しても使えるスキル、鉄面皮。リビングのPS5と、僕のノートPCでの夫婦協力プレイ。その前にこんな応酬をするわけなんですけど。
そしてゲームが始まります。キャラクタを操作して、モンスターを狩ります。
「使えないなー」
ミスるとそう言われます。僕は一人でこのゲームはしないことにしています。だって、僕だけが強くなったら、協力プレイが楽しくないじゃないですか。彼女が主役になれるよう、僕は準主役くらいの強さをキープしたい。この気づかいに気づいて欲しい気持ちもあるけど、たぶん気づかれない方が平和なのですね。
「やった、ランクアップ!」
ゲームの中では簡単にステータスが上がるのに、現実の僕の作るご飯じゃ妻の機嫌は上がらない。ダイエットのために、常に玄米と魚料理。味噌汁はえのきと豆腐。好き嫌いや調味料の指定もある。それらを満たしても、ケータイ見ながら無言で食べるのが妻の習性。でも、ちょっと出来の悪いときにはきっちりダメ出ししてきます。
「そっちから撃って! 早く!」
でも、最近やっと攻略方法がわかりました。味付け濃いめなら満足するんだって。健康を気にしてるからと調味料を控えてたけど、ちょっと多めにしとけばほとんど文句は出ない。そう、妻の料理はだいたい塩辛かったんです。細かなこだわりよりも前に、基本的な好みにあわせるのが大事。
ゲームにたとえるなら、ただ強い装備じゃなく、目的にあわせた装備ってこと。そして、敵に大ダメージを与えるより、妻が戦いやすいよう敵を麻痺させたり、妻のダメージを回復させる方が喜ばれます。
「ありがと!」
最後の一撃は、妻に任せる。
「やった!」
――ということで気づけば午前一時。
「お疲れ様でしたー」
そう言うと、妻も返してくれる。
「お疲れ様でした!」
そうして一日が終わります。妻はすぐに寝ますが、僕はまだ起きてます。午前三時。妻は在宅勤務が多いので、昼と夜のご飯は僕が作ります。だから昼前には起きます。朝はテキトーにパンとか食べてもらいます。
ちょっと申し訳ないです。でも僕が朝起きたら、差し支えがあるんです。この前など、朝起きて洗面所で顔など洗ってると、「起きて来ないで! 寝てて! もうっ」などと言われました。彼女はWeb会議で身支度するので、僕が邪魔だったんです。うかつに縄張りに踏み込んではいけない。
幸せだけど、健康に悪いから夜は寝ないととは思うのです。ええ、思ってるだけで、もう午前三時十分になりましたけど。
明日もハンティングします。妻の笑顔を。