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解呪薬

 私達3人は、中庭の端にある四阿(あずまや)へ行くと腰掛けて、侍従に紅茶を持ってくるようにお願いした。


「呪いに対して、効果のある薬草を入れてあります」


 私はポケットから小瓶を取り出すと、侍従が持ってきた紅茶に、瓶の中の液体を一滴垂らした。私がそれを飲んでから、ユリア様にも同じ様にして飲んでもらう。


「不思議ね……。頭の中が少しスッキリしたわ。何と言うか──モヤが取れたって感じね」


「おそらくは、呪いの魔術の効果は薄まっていて、ほとんど効いていなかったのでしょう。最近、辞めた方の中に長く働いていた方はいませんでしたか?」


「私の専属メイドが1人辞めたわ。でも、もう引退する年だったのよ。本当は、もう少しいてくれるはずだったんだけど、身内の方が病気になって、先週になって急に辞めたのよ」


「怪しいですね。私が戻ってくると知って、辞めたと捉えられても、おかしくない時期に辞めたのは偶然でしょうか?」


「待って。あの人は、私が小さい頃から面倒を見てくれていた人なのよ。疑いたくはないわ」


「それでも、身内の方を人質に取られていたらどうでしょう? 言うことを聞かなければ殺すと脅されていたのであれば、いくら『いい人』でもユリア様を裏切ったかもしれません」


「そんな……」


「他に、怪しいメイドはいなかったのですか? 侍従や兵士以外──商人でも構いません」


「他には、いないわ。これ以上、誰かを傷つけたくないの……。傷つけたくないし、傷つきたくもないの。だって、私は生きているんだもの。怪しいからって、罪の無い人間を裁いたりすることにはなって欲しくないわ。あなたのように……」


 最後の方は、ユリア様の懇願だった。もう、私のような人間を出したくないというのは、彼女の切実な願いなのだろう。ユリア様は今まで充分に苦しんだはずだ。もう解放されても構わないと思っている。私が、そう伝えるとユリア様は笑いながら言った。


「こう見えて、城に住んでいる王族の方達よりも、だいぶ良い暮らしをしているのよ。何たって王族の責務はないし、変装しては、しょっちゅう街へ下りてるし──これで、大丈夫かしらって、いつも思ってるの」


「はぁ……」


「陛下は何を考えてるのかしら? 夜中にこっそり抜け出しては、噴水を眺めてるわよね。時々、少し大きくなっている気がして──呪いが解けたのかと思えば、そうじゃないみたいだし」


「呪いが解ける?」


「今度、陛下に聞いてみるといいわ」


 ユリア様は笑いながら離宮へ帰っていった。ユリア様の後を侍従が追いかけていく……。笑いながら話す2人に、私は違和感を覚えていた。


「有名な話なんですよ、あの2人が恋仲というのは……」


「まさか……」


 私は口に出しそうになった言葉を飲み込むと、手のひらで自分の口を押さえた。


「彼女にとって離宮へ残ることは、最大の幸福かもしれません」


 私は小瓶をポケットへしまうと、アンドレの後について離宮を離れたのだった。




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