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魔術契約書

 次の日の同じ時刻。執務室へ行くと、陛下は執務机で書類に判を押していた。陛下は眉間にシワを寄せては、右と左に分けて書類を置いていた。


「待たせてすまない。これが契約書だ。内容を確認したら、判を押してくれ」


「承知致しました」


 陛下は私に書類を手渡すと、再び書類仕事に戻っていた。陛下が難しい顔をしていると、小学生がテストに悩んでいる姿にも見えてしまい、何か手伝ってあげられないかな──などと、訳の分からない事を考えてしまっている自分がいた。相手が20才だということを思い出し、必死に自分の思いを踏みとどまらせた。いや、20才でも元社畜の私からしてみれば、充分に子供だ。


「どうした、私に見とれているのか? 今からでも遅くはない。婚約の内容に書き変えてやってもいいぞ」


「ご冗談を……。陛下が難しい顔をしていたので、『どうしたのだろう』と思ってしまったのです」


「ああ、これか──これは、報告書や申請書の内容に判を押しているんだ。ただ押すだけでも構わないんだが、内容に漏れや曖昧な部分がないかもチェックしている」


「そういうのは、部下にやらせればよいのでは?」


「駄目だ。そんな事をしていたから、父は『傀儡』になってしまったのだと──私は、そう思っている」


「陛下、休めていますか? 休養は大切ですよ」


「シャルロットが、私の分も働いてくれたら休めるんだがな」


「善処致します」


「いや、いい。冗談だ。契約書は、書けたのか?」


「いえ、それが──不明な点がありまして」


「何だ? 申してみよ」


「契約内容の5条の部分なのですが、『宮廷魔術師は陛下の命に従い、速やかに業務を履行する』とありますが、これには『殺人』なども含まれるのでしょうか? 命令に必ず従わなければならないのであれば、権力の横行ではないでしょうか? すみません。魔術契約書だったので、慎重になってしまいまして……」


「すまない。以前の契約書をそのまま渡してしまったようだ。新しく作成するから、今日は話だけ聞いてくれるか?」


「承知致しました」


 陛下は眉間を揉むと、判を押した書類を部下へ手渡してから、こちらへ来てソファーへ座った。


「私は8才の時に父に先立たれて、国王として執務を行っていた。そこまでは話したと思う」


 陛下がこちらを見たので頷いた。陛下の目の下にはクマが出来ていた。『幼いのに、かわいそうだな』などと、考えてしまう。


「ある夜。私は執務を終えて、私室に戻る途中だった。その日は仕事の量が多すぎて、部屋に戻るのが真夜中になってしまったんだ。護衛も疲れていたし、20メートルもない廊下を付き合わせるのは悪いと思ってね。先に部屋へ帰らせたんだ。だけど、それが良くなかった」


「城へ来たんですね? 東の魔術師が」


「部屋へ入ろうとした瞬間だった。目の前にローブを着た魔術師が現れたんだ。顔はフードに隠れていて見えなかったが、私に向けて手を翳すと、目の前が光っていた。次に目を開けた時には、見えていた魔術師の姿が消えていた。その時は疲れすぎて、幻覚が見えたのかと思ったよ。だけど、時間が経つにつれて気がついたんだ。成長が止まる呪いを掛けられたのだとね……」


「その呪いは、解けなかったんですよね?」


「辞めてしまった魔術師団長が言っていた。呪いの力が特殊すぎて、掛けた本人でなければ解くのは難しいだろうと」




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