魔術師による呪い
「陛下、私の褒賞の件についてなのですが……」
「なんだ?」
「恐れながら、私が欲しいのは地位や名誉ではございません」
「おかしな奴だな──貴族なのに、珍しい」
「……」
確かに、この世界では地位や名誉が得られることが一番のステータスである。貴族の間では、それがさらに顕著になり、令嬢は身分の高い男性と結婚することが全てであり、生きる目標だった。それが──前世の記憶を思い出した途端、そんなことは馬鹿らしいと思い始めていた。前世で『キャリアウーマン』と、家族から言われるほど社畜だった私は、余計にそう感じてしまっていた。
「では、そなたにとっての褒賞とはなんだ? 申してみよ」
「平穏です。陛下」
「平穏──言いたいことは、分からなくもないぞ。私とは、一生無縁の言葉だな」
「恐れながら陛下にお聞きします。陛下は何故そのようなお姿に……」
「この間、言ったであろう? 『東の魔術師』に呪いを掛けられたと」
「なぜ呪いを掛けられたのですか? 何かお心当たりは……」
「聞いて何になる?」
「私の知識が、何かお役に立てるのではないかと思いまして」
「褒賞は断るのに、他人の私は助けるのか? ますます変な奴だな。裏があるとしか思えない」
「いえ、魔術師の端くれとして見過ごせなかっただけです。これ以上、魔術師が恐れられるようになっても、困りますから」
陛下は私の事を食い入るように見つめていたが、ため息をつくと言った。
「以前ほど、魔術師に対する陰湿なイメージは無くなってきている。人と同じで魔術師にもいい奴と悪い奴がいると──皆、分かってはいると思うが」
「私は『自分が生きていて、生きやすい世の中になればいいな』と思っているだけです。陛下の為を、思ってのことではありません」
「まあいい……。私は12才の時に、突如として真夜中に現れた魔術師に呪いを掛けられただけだ。『当然の報いだ』と言われてね。私は王太子として既に公務に励んでいたし、その時は何の呪いかも分からなかったから、その後も普通に過ごしていたんだ──しばらくしてから気がついた。成長が止まる呪いの魔術だったとな」
「陛下は、魔術師から恨みを買っていたのですか?」
「分からん。ただ、宮廷魔術師たちは、呪いの解呪法については、分からなかったそうだ。私はずっと、シャルロット──そなたが呪いを掛けたのではないかと疑っていたがな」
「私がですか?!」