宮廷魔術師
「なんだ、聞いてなかったのか?」
「はい」
「私では不服か?」
「不服といいますか、私は一度、伯爵家──いえ、侯爵家を出た身です。とても、王妃が務まるような身分ではありません。それに、私は魔術師として活路を見出しているのです。そんな人間は、王妃の器に収まらないでしょう。それに……」
「なんだ、申してみよ」
「国王は20才と聞いておりましたので」
「私は20才だ」
「え?」
「私の年齢は20才だと言っている。私が12才の時に東の魔術師に呪いを掛けられたのだ。成長が止まる呪いの魔術をな」
「……」
(東の魔術師? 聞いたことないわね)
「それで、その──婚約という話に?」
「いや、それは亡きモルトローズ侯爵の遺言でな。無実の罪で国外追放された娘を幸せに導いてやって欲しいと──もともとが、次期国王の婚約者だったのだ。それ以下の人間では、贖うこともままならないだろう?」
国王陛下の言い方は、『身分の高い者と結婚することが、女性としての最大の栄誉』だと思っているような口ぶりだった。国王の妻なんて冗談じゃない。私は田舎で普通の暮らしがしたいのだ。
「償いは結構です。恐れながら申し上げます。陛下が罪の意識を感じる必要はないでしょう」
「そうかもしれぬな。しかし、償うつもりはあるし、これは議会での決定事項だ。それに、隣国では平民が王妃になっているのだぞ。魔術師が王妃になれないというのは、いい訳にしかならないと思うが」
「世論の問題です。陛下の名に傷がつきます」
「暴虐の魔女だったか。面白い二つ名だよな……。国民栄誉賞を与えるほどの活躍をしたというのに、世論はよく分からぬ。では、そなたを宮廷魔術師に任命しよう。それだったら構わないか? スタンピードの褒賞の件もあるし」
(何だか分からないけど、婚約じゃないなら宮廷魔術師になれってこと?! それで許されるなら、とりあえず宮廷魔術師になって、隙を見て逃げ出せばいいわ)
「慎んでお受け致します」
「宮廷魔術師になって、ついでに私との婚約も考えてみてほしい」
「‥‥‥」
それが私の『宮廷魔術師』としての、生活の始まりだった。




