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侯爵

 翌日の早朝。母は息を引き取った。まだ元気そうだと思って油断していた。まだ何も話せてない。母は──私がいなくなった後、どう過ごしていたのだろうか。幸せだったのだろうか?


 泣いて泣いて涙も出なくなった頃、母のお葬式が行われた。近くの教会で、私は見知らぬ人達と一緒に母を見送った。


「奥様は、ずっと貴方が家に帰るのを待っていたんだと思います。帰ってくるまでは死ねないと、必死に病魔と闘っていらっしゃいました」


「……そう」


 セバスチャンは私の悲しみに寄り添うように、ずっと側に立っていた。この世界では医療が発達していない。ケガは治癒魔術で治るが、老衰や病に対しての医療行為は無いに等しかった。


 お葬式が終わって家に帰ると、私は部屋に引き籠もった。戸籍上は52才でも、心はまだ16才だったみたいだ。心に空いた穴をどうすることも出来ないまま、ずっと寝ていた。


 自室に引きこもって1週間が過ぎた頃、現当主のモルトローズ侯爵から呼び出しを受けた。侯爵と言われて驚いたが、22年前にモルトローズ家は、伯爵から侯爵に格上げされていた。しかも現当主は、私が家を出るときに母のお腹にいた弟だという。


(16才の弟が37才で現当主──訳が分からなくなってきたわ)



*****



 「執務室へ行きたい」そう言うと、セバスチャンが案内してくれた。ノックして中へ入ると、そこは相変わらず伯爵邸の執務室だった。


「懐かしいですか?」


「記憶そのままだったから──38年もの時が過ぎたというのに」


「父上が、姉上が帰ってきたときに過ごしやすいようにと、屋敷の内装などは、なるべく変えていないのですよ」


「姉上じゃなくていいわ。父の好意をムダにして悪いけど、私はこの家を出るつもり」


「出てどうするんですか?」


「とりあえず、ソレイユ村へ戻るわ。メリーが家を残してくれたから、しばらくそこで暮らしながら、これからどうするか考えるわ」


「では、侯爵家から籍を抜くと?」


「その方がいいでしょう?」


「王家から呼び出しがかかっています。その──スタンピードの件について、国民栄誉賞を授けたいと。断ることも出来ますが、どちらにせよ、伯爵家から籍を抜いていない以上、貴族として一度、陛下に謁見していただく必要があります。スタンピードで、姉上に二つ名がついたのは、ご存知でしょうか?」


「二つ名?」


「有名人につけられる通り名です。栄誉な事なのですが‥‥‥」


 言い淀んだ21才年上の弟の言い方が気になった私は、思わず聞き返していた。


「何? 何て付けられたの?」


「……暴虐の魔女です」


彼の放った言葉に、私は頭を抱えたのだった。




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