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第8話 「悔恨の恩返し」




••✼••知らない部屋••✼••



「んっ・・・ふぁ?! ここは?」



 トロが目を覚ますと、知らない部屋のベッドに寝かされていた。

 すると、ロンデルが人型の姿で、トロの顔を心配気に覗き込む。



「ご主人様! ああ・・・良かった」


「へぇ? ロンデル? どうして人型に?」


「お目覚めですか?」


「なっ?! えっ?! だ、だれ?!」



 突然、見知らぬ女性の顔が視界に入る。



「私の名はアロマ! アロマ・メル・エッセンよ 街道で倒れていた貴女を見付けて、私の屋敷まで運んだのよ」


「!・・・そう、ですか トロといいます」



 あれ?

 俺、確か変身魔法を乱用してしまってMPが枯渇し、倒れてしまったんだったな。。。

 なるほと。

 倒れた俺を助けてくれたのが、この女性って訳か。

 って俺、女の子まんまじゃん?!

 しまった・・・今更この人の前で元の姿に戻る訳にもいかないか。

 ロンデルも、人型に変身しているし。

 今は、このまんまの姿でやり過ごすしかないか。




・⋯━☞2時間ほど前☜━⋯・


••✼••トスターコチマ街道••✼••



「ご主人様! シッカリ!」


 ガラガラガラガラ・・・キィ~! ガチャン!



 トロとロンデルのすぐ傍に、巨大なエリマキトカゲのような魔獣が引く獣車が止まった。

 


「どうかしましたの?」

 獣車の窓から顔を出す若い女性。


「はい 女性が倒れております」

 獣車の御者が返答する。


「まあ! 貴女、どうしましたの?」


「うぬぬっ! 貴様、何者だ!」

 トロを庇い前に立ちはだかるロンデル。


「私は、通りすがりの者ですわ 貴女のその様子からしますと、倒れているのは貴女の大切な人のようですわね?」


「・・・そうだ! 我がご主人様は変身魔法の多用により魔力が枯渇し意識を失って休まれているだけだ! 意識を吹き返すまで無防備なゆえ、我がお守りしているのだ! 用が無いのなら、さっさと行くがいい!」



 ペラペラとご丁寧に、事の成り行きを喋ってしまうロンデル。



「変身魔法ですって?! ふうむ・・・貴女の主人を想う気持ちは理解できますが、倒れている方といい、貴女のその格好といい、只事では無いようですわね? 人の助けが必要なのではなくって?」



 確かに、誰が見ても只事では無いと見えるだろう。

 冒険者らしい軽装備の金髪碧眼の女性は倒れているし、その倒れた女性を庇うように立ちはだかる、オリエンタル・ビューティーな女性は、腰と胸に布切れを巻いただけの無防備な姿。

 普通に考えても、倒れているのが女性、そして守り手の女性が無防備な格好となれば、目撃した女性としては放っておけるはずがない。



「ふん! 大きなお世話だ! 人間なんぞの助けなど要らん! さっさと立ち去れっ!!」



 ロンデルの発言は、『自分は人間ではない』とバラしているようなものである。

 獣車の女性も御者も、大方2人の女性の事の事態を察する。



「・・・そうですか ですが、私も困っている女性を見捨てるほど、恥知らずな人間なつもりは御座いませんわ! セバス!」


「はい! お嬢様」

 カタッ! スタッ!


「むっ!・・・」



『この人間の(おす)、年老いた風に見える割には、あの身のこなし・・・コヤツ只者では無い!』



 ロンデルは、御者席から降りて来たセバスという男の動きを見て、瞬時に只者では無いと悟った。

 獣車に乗る女性に命じられ、御者は獣車席から降りると、流れるような無駄の無い動きで、トロを軽々とお姫様抱っこで抱えあげる。



「何をする!! 我がご主人様を放せっ!」

 シュタッ!

 御者に向かって襲いかかるロンデル。


「ふん!」

 バキッ!

 

「がっ!」

 くりん! ドサッ!

「くはっ!!」


「ふっ・・・」



 ロンデルは、トロをお姫様抱っこで抱えたまんまのセバスに、着地寸前の足を払われ、宙でクルリと回り地面に転がった!



「くっ!・・・貴様ぁ!!」

《コイツ強い! ご主人様を抱え良く見えない状態で我を簡単に・・・何者だ!?》



 ロンデルは、まったく何も出来ずに、気が付いたら景色がぐるりと回っていた。

 地面に叩き付けられ、すぐに見上げるのだが、我が主の身の安全を考えると、下手に動けなかった。



『マズイ! ご主人様の作ったカラクリ(魔導具)によって幾分か強くなっているとはいえ、人型に変身しているせいか、人間の少女程度の身体能力しか発揮できない!

 しかし、この身に代えても、ご主人様をお守りせねば!!

 ここで変身を解くか・・・

 いや、もしこのまま、ご主人様の説明の無い今変身を解いたら、我は魔物として討伐されてしまうかも知れない!?』



 ロンデルは、そう思って変身を解くことを躊躇っていた。



「娘さん ご主人をお守りしたいのでしたら、お嬢様の指示に従いなされ!」


「ぐぅ・・・妙な気を起こすなよ?」


「もとより私共は、そんな気など毛頭ございませんが」


「・・・本当だろうな? 我は人間の感情など臭いで解るのだ 少しでも変な動きをしようものなら、貴様のその喉笛を噛み千切ってやるぞ!」


「ふむ・・・」



 この時、このセバスという男はロンデルの事を、首には従魔を意味する首輪、そして言動から、正体は魔獣の類だと確信していた。



「そう思われるのであれば、お好きにどうぞ」

 

「・・・信じていいんだな?」


「無論です」


「・・・」


「さあ、貴女もお乗りになって!」


「・・・・・・わかった」



 ロンデルは、しぶしぶ獣車に乗り込んだ。

 そして今に至る。




••✼••エッセン家屋敷の一室••✼••



「助けてくれて、ありがとう御座います」


「いえ、どう致しまして」


「ご主人様・・・ご主人様・・・」


「大丈夫だよロンデル!」


「は、はい ご主人様ぁ・・・グスッ」


「えっ?! ええ~~~! ロンデルが泣くなんて・・・って、今気付いたけど、なんでメイドの格好をしているんだ?」


「ああ、この布切れは、この女が着せてくれたのです」


「うふふ 辞めて行ったメイドの古着を着せてあげただけですわ お気になさらずに!」


「布切れ・・・この女って・・・(汗)」



 トロは、ロンデルが今後も人型で活動するのなら、少し教育が必要だと思った。



「でもロンデル! メイドの格好も似合っていて、凄く可愛いじゃないか?」


「そんな!・・・可愛いだなんて、ご主人様! お戯れを・・・(赤面)」


「うふふ まったく面白い人達ね?」


「キィーッ!」

 アロマ嬢に向かって歯をむき出して威嚇するロンデル。


「ロンデル! めっ!」


「もっ、申し訳ありません ご主人様!」

 メイド姿で縮こまるロンデル。可愛い♡


「す・・・すみません(汗)」


「いいえ、構いませんわ! 私、貴族とはいえ没落寸前の名ばかりの廃れ貴族ですわ 今更礼儀を重んじる器などでは御座いませんし」


「没落寸前・・・?」



 そう言って、彼女は寂しそうに俯いた。

 無理しての自虐的な物言いが、余計に哀れに見えてしまう。

 なんとも、どう言葉を掛けて良いのやら・・・

 没落寸前だと言って笑う令嬢の着るドレスは、けっして豪華なものではなかった。

 平民女性だと言っても、誰もが信じてしまうだろう。

 また、そんな彼女の儚げな作り笑顔が健気に見えて痛々しい。

 確かに、この部屋一つを見ても「没落寸前」と言われれば納得なもので、貴族の屋敷の一室とはいえ、何の飾りっけも無く、壁やカーテンも色褪せ、家具らしい家具も無く、実に殺風景な部屋だ。

 ここが来賓のための部屋だとしたなら、アロマ嬢の部屋はもっと質素な部屋なのだろう。

 宝石などの装飾品の一つも飾っていない彼女を見れば解る。

 これは何とかしてあげたい!

 助けて貰ったお礼に、何かできないかと思った。


 アロマ穣が部屋を出て行った後、召使いのセバスから聞いた話しでは、彼女は「エッセン男爵家の二女」で、まだ16歳だという。

 彼女の両親「エッセン男爵夫妻」は2年前に相次いで病死し、現在15歳の弟が家督を継いだらしい。

 19歳のいかず後家寸前だった長女は、政略結婚で とある子爵家に嫁ぎ、子爵の援助により借金は無くなったものの、エッセン男爵領にはこれと言った名産も特産も無く、このままでは領地を没収され爵位剥奪に没落は必至とのこと。

 また、そんな廃れた領地に興味を持つ者など皆無であり、領地を引き継ぐ者も居ないのだと聞く。

 

 なんとも心苦しく重い話だな。

 何とかしてあげたいけど・・・

 こんな俺に何ができる?


 そんなの、一つしかないじゃないか!!



「スバルさん!」


「セバスです なんでしょう?」


「失礼しました スバスさん プランターと土を用意してくれませんか?」


「セバスです  プランターと土・・・で御座いますか?」


「はい! アロマお嬢様がお喜びになる代物を差し上げたいと思いまして!」


「その・・・アロマお嬢様がお喜びになる代物をご用意するのに、プランターと土が必要だという事でしょうか?」


「そうですね! お願いできますかセバルさん?」


「セバスです! 畏まりました 少々お待ちください」


「はい よろしくお願いしますセバセさん」


「セバスで御座いますぅっ!!」


 バターン!!


「おぅまぃ・・・」



 セバスは、そう言って荒々しくドアを閉めて部屋を出て行った。

 怒った? 人の名前を3回間違えると怒られると言うのは本当なのだな。

 セバルさん、何度も名前を間違えて、申し訳ない・・・(セバスです)

 人の名前を覚えるのが苦手なんだ。

 身体は十代の若い女性でも、頭の中は54歳のオッサンだからな。

 もう、物覚えが悪いのなんのって。。。(トロ自身の問題と思われる)

 そう言えば過去に、新しい職場の同僚達全員の名前を覚えるのに半年かかったな。

 (特に日本人は、人の名前を覚えられない人が多いようです)



「ご主人様、いったい何を?」


「うん? うん 例の豆をアロマさんに譲ってあげようと思ってね!」


「ほぉ! なるほど! 流石はご主人様! ですが、良いのですか?」


「うむ 少し能力を抑えた物を作れば問題ないだろう」


「うむ・・・そうですね!」



 その後、セバスが用意してくれたプランターと土とで、枝豆を栽培した。

 どんな豆を栽培したのか・・・


●名称:経験値とステータスの豆。

●成長速度が通常より遅い。

●3日で枝豆に育つ。

●4日で大豆に育つ。

●5日で種になる。

●ステータス・ポイントが貰える。

●経験値が1上がる。

●枯れた土でも育つがエッセン領地でしか育たない。


 と、イメージした。



「100粒以上できた! 端数は貰って、100粒渡す! これで、どうかな?」


「いいんじゃないでしょうか?」


「そう? んじゃ、コレをアロマ嬢に」


「はい!」




••✼••エッセン家中庭••✼••



「それは、何の種ですの?」


「経験値とステータスの豆の種ですね!」


「なんと!!」


「経験値とステータス!? それって、いったい・・・」


「言葉通りですよ! 外れ無く経験値1上がるのと他に、ステータス・ポイントを1貰える豆が生る種ですね! しかも3日で豆にり、4日で大豆と呼ばれる菓子などの材料となり、5日で種になります! 収穫は3日目ですね! あ、種も取るのを忘れずにね!」


「3日で・・・有り得ない!!」

 開いた口が塞がらないセバス。


「!!・・・素晴らしいですわぁ!!」



 いやいや! そうじゃないんだ!

 本当ならば、1分も経たずに育つんだ!

 今回のこの種は、これでも破滅的なほど育ちの悪い種にしてあるんだ!


 ・・・と、心の中で叫んだ。



 聞くところによると、この世界に「枝豆」という種類の豆は無く、見た目は「枝豆」そのものだが、「経験値の豆」と呼ばれる、「経験値が1上がる豆」が存在するらしい。


 だが、今現在のところ、「経験値が1上がる豆」以外の効果のある豆の存在は確認されておらず、今回トロがアロマ嬢にお礼として渡した「経験値とステータスの豆」のように、経験値以外の効果のある豆の存在が、たった今、初めて明らかになったという事になる。



「この豆の種を、アロマ嬢にお譲りします オマケとして、『結界魔石が生る種』と、マジック・バッグ4つを付けておきますね!」


「ありがとう! 本当に、ありがとう!!」


「お嬢様!!」


「セバス! きっと、この豆があれば我が領は・・・」


「はい! お嬢様! きっと!!」


「うわぁ~~~ん!!」

 人目もはばからず大声で泣くアロマ嬢。


「おぉ~~~いおいおいおい~~~!!」

 これでも鳴き声のセバス。


「「・・・・・・」」

 貰い泣きのトロと、キョトン?なロンデル。



 アロマ嬢とセバスは、泣きながら抱き合って喜んでいた。

 思わず、貰い泣きした。


 先日の、コチマ村の宿屋の主人の話しでは、 「経験値の豆」を2粒で、「100Tia」が相場らしい。

 「安い!」と思うのは早計である。

 なかには、何の効果も無い豆もあるからだ。

 いわゆる、「外れ豆」である。

 なにしろ、経験値1入る「当たり豆」に酷似した豆ではあるが、何の効果も無い豆「外れ豆」が僅かながらあるのだ。

 だとするならば、この「経験値とステータスの豆」を1粒「1万Tia」でも本気で強くなりたい奴は迷わず買うだろう。

 必ず経験値1入ると共に、ステータス・ポイントが1貰える。

 それはつまり、レベルが上がらなくても、任意のステータスを豆の数だけ上げられるのだから、「ゲームの課金」なんかよりも遥かに早く強くなれると言える。



「それと、これは『結界魔石』です」


「けっかいませき? それが?」


「『悪意ある者』を弾き飛ばす効果があります この魔石で張った結界内に居れば、魔物ももちろん、危害を加えようとする者、豆を奪おうとする者ですら、絶対に入れません」

 (と、設定した)


「そんな魔石があるのですか?!」


「はい あるんです 冒険者なら誰でも知る必須アイテムですよ って、私は冒険者ではありませんが・・・」


「ぷっ! あははははっ!」


「・・・・・・」



 笑われてしまった。


 まあ、冒険者でもないのに、「冒険者の必須アイテム」を持ってるだなんて、何者?って感じだろうな。


「商人だから持ってます」


 と言えば、それまでだが、商人らしくない格好しているし。

 なのに、身なりは軽装で冒険者っぽい。

 それでいて、冒険者ではない。

 しかも、テイマーで。

 実はロンデルは、オリエンタル・ビューティでありながら、首輪を着けているのは従魔だからと、本人から既に申告済み。


 そんな俺って、かなり変な奴だな。




・⋯━☞午後5時頃☜━⋯・



「本当に、行ってしまわれるのですか?」


「ヒック! すん・・・すん・・・」


「あはは・・・(汗)」



 助けて貰った恩は、十二分に返したはず。

 これで心置き無く、この屋敷から去れると思っていたのに・・・

 アロマ嬢の横で、すんすん泣いている男の子が、この男爵領の現領主、スティン・アル・エッセン男爵。

 アロマ嬢の弟だそうだ。

 なぜか、その弟に好かれてしまったトロ。

 昼過ぎから今まで、ずっと求婚され続けて、ホトホト参っていたのだった。

 トロは本当は男なのに・・・

 ロンデルは人型なのに、トロを庇うように四つん這いになって戦闘態勢になるし・・・

 それでもスティンは、それはそれはねちこく、トロに迫ってくる。


 すまん! 許せ! 俺は異性愛者だ。

 俺には、そんな趣味は無い。

 今は女だけど・・・

 


「そうですか・・・残念ですわ」


「はい 申し訳御座いません お・・・私は、旅の行商人ですからね! 一所に留まらずに世界中を旅するのが私の生きる道」

 決めゼリフが決まった!と思ってるトロ。(センスなし)


「トロさん・・・トロさぁん・・・」

 それどころではないスティン。


「・・・・・・はぁ」

 くしゃみを我慢する様な表情のアロマ嬢。


「こういうの、カッコ良くないですか?」

 カッコいいと言って欲しいトロ。


「クスッ なんだか、殿方みたいな事を言いますのね?」


「えっと・・・男ですよ?」


「・・・・・・はぁい?」


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」




 ━━━━━━━━━━━━なぁにぃ?!

 なに! この間はっ?!

 その気まずい沈黙やめてぇ!!

 責められるよりキツイからぁ!



「ぷっぶぅー! きゃははははは!!」


「へっ?」


「そんな訳がないじゃないの~~~!」


「な、なに?」


「だって、私は貴女を介抱する時、()()()()()()を見ているのよお?」


「ひっ?! いゃあぁあぁあぁあぁ~~~!!」


「ご主人様っ?!」



 トロは、頭を抱えて しゃがみ込んで絶叫した!

 女の人に裸を見られてしまった!

 しかも、全てを!!

 男としては、男よりも、女に裸を見られる方が恥ずかしさの重みが違う。


 どこから、どこまで?

 そう言えば、バスローブみたいなのを着せられていたし。

 そりゃあ、シッカリと、隅から隅々まで見られたんだろうな。


 しかも彼女の言い方・・・


()()()()()()()見て・・・」


 アロマ嬢は、素が出ているし。

 もうお嫁に行けない・・・

 って、違うっ!!

 お婿に行けない・・・

 



••✼••エッセン屋敷門前••✼••




 トロは、未だ立ち直っていなかった。



「トロさあん! 僕は絶対に貴女を諦めませんから!!」


「ふぇえぇえぇ~ん なんなんだよコイツぅ(泣)」


「ご主人様・・・」


「あはははははは!! そんなに落ち込まなくても」


「トロさん! 僕、きっと立派な領主になって、必ずトロさんを迎えに行きますから!!」


「あぁあぁあぁ~~~もぉおぉおぉ~~~どうしてぇ?! くっ、殺してぇ!!」


 ビターン!

 ひっくり返るトロ。


「ふぎゃあー! ご主人様っ! シッカリ!!」


「きゃははははははは!」



 

 トロは、エッセン男爵家屋敷を出てすぐに、男に戻ろうとしたが・・・



「トロー! ずっと黙っているつもりでしたが、私も弟もセバスも、貴女が本当は殿方だと知ってますわよー!」


「ぬわあにぃ?!」


「ぜーんぶ ロンデルさんから、お聞きしましたわー!」


「んなっ?! ロンデルぅ!!」


「も、申し訳御座いません! ご主人様ぁ!! お許しをっ!!」


「トロさぁ~ん! 僕はそれでも構いませーん!!」


「んなんっ?!」


「トロさんの裸、とても綺麗でしたよー!」


「?!・・・うるせえーよ! ばぁーか!! スケベー! 変態ー!」


「はあい! とてもお綺麗でしたな!」


「いやあぁあぁあぁあぁあ~~~!!」

 ビターン!!

 また卒倒するトロ。


「ふぎゃああああ~ご主人様ぁ~~~!!」


「もぉ~~~殺してくれぇ~~~!!」



 なんという事だ・・・


 実は、アロマ嬢がトロを介抱している時、既にロンデルがトロの正体をバラしており、弟のスティンも、セバスも、みんなトロの裸を見ていたのだった。


 そうこうしていると、人々が集まって来て・・・



「なんだなんだ?」


「おや? アンタは、どこのお嬢様で?」


「はあ? 俺は・・・」


「もしかしてお嬢さんが、領主様の奥方になる人かい?」


「ちっ・・・ちが」


「おーい! とうとう領主様に奥方が決まったってよ~!」


「ちょっ、おい!! 何勝手に・・・」


 ワイワイガヤガヤ~~~


「ご主人様は、あの小童の奥方になられるのですか?」


「んな訳ねぇーだろぉー!!」


「もっ、申し訳ありません!」



 何だか解らないうちに、段々と人が集まって来る!

 エッセン村の人々は、トロが現領主のスティンの奥方になる人だと勘違いしている様子。

 トロは、必死に否定するが、ロンデルまでもが勘違いする羽目に。



「さあさあ! 領主様がお待ちかねですぞ!」


「ちょっ、いやっ、放してっ!!」


「そんな恥ずかしがらなくても」


「マリッチブルーってヤツですか?」


「んまあ! ウブねえ!」


「違う違う!」


「ごっ、ご主人様ぁ! ふぎゃあ!!」


「うわあ! ろ、ロンデルぅ!!」


「ご主人様ァ━━━!!」


「おや? もしかして、領主様との結婚は嫌なのかい?」


「い、嫌に決まってるだろ!!」


「だったら、俺と結婚しなよ!」


「はあっ?! するかあー!!」


「ちょおーっと! アンタ何言ってんの?! 私はどうなるの!!」


「こらこら! ややこしくなるから、お前は出てくるなよ!」


「お前こそ何言ってんだよ!」


「やめろ! なんなんだお前達は?! 放せ! 痛い!痛い!」


「俺となら結婚してくれるよな?! な?」


「アンタまで何言ってんだ!!」


「こらあ! どこ触ってんだ!」


「結婚してくれー! 結婚してくれー!!」


「ちょっと待なさいってば!」


「あああ━━━! うるさあーい!」



 もう何が何だか、ハチャメチャになってきた!

 今度は、村の男共からトロは取り合い圧し合い状態に!



「何なんですか貴方達は!! トロさんは、この僕! エッセン男爵がお嫁に貰うと決まっているのですよ!!」


「ぶわあかあ━━━!! ちがあ━━━う!」


「はいはい!「いいからいいから!「反対方向ですぞ!「ささっこちらへ!」


「きゃあぁあぁあぁあぁ~~~放してぇ~~~!! いやあぁあぁあぁあぁ~~~!!!」


「ご主人様あぁあぁあぁ~~~!!」



 この後、村人達に誤解だと説明し、納得して全員に帰ってもらうのに、一昼夜要したという。





・⋯━☞翌々朝☜━⋯・


••✼••領主屋敷前••✼••




 やっと男の姿に戻れはしたが、ボロボロの雑巾の様になったトロが、ヘトヘトのクタクタになって、まるでヤジロベエのようにフラフラに辛うじて立っていた。

 そしてその横には、グッタリと横たわるロンデルの姿が・・・



「是非、また来てくださいね! トロさん!」


「待ってますわ!」


「何時でも、お待ちしております」


「うるせぇよ! 誰が来るかぁ!!」


「ご主人様・・・?」




 誤解は解けたはずなのに、トロという名の金髪碧眼の美少女が、エッセン男爵のお嫁さんになるという噂だけは、消えずに国中に広まったという。


 そして、トロとロンデルの姿が見えなくなる頃、エッセン男爵一家は、ニヤリと笑った。



助けて貰った恩を返しただけ・・・

なのに、男に好かれ求婚されるなんて、思いもしなかったトロ。

変身魔法の使い時は考えものだなと、しみじみ思ったトロだった。


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