第55話 「ムラサキ」
仲間達の中では誰よりも強く特別な存在に見えたムラサキだったが・・・
・⋯━☞露店魔導具屋☜━⋯・
「しかし・・・こんなスゲェ物が手に入るなんて、俺はなんて運がいいんだ?
それもそうだが、この鑑定魔導具もスゲェな!」
「ああ、鑑定タブレットの事かい?」
「鑑定たぶれっとお?」
「ああ、そうだ!
レベル3~4程度の鑑定結果を表示してくれるぜ!
それに、長く使い続けたなら、使用者にも『鑑定スキル』が何時かは開花するはずだ!」
今トロが店主に持たせた鑑定タブレットは、以前にトロが開発した鑑定タブレットのバージョンアップしたもの。
鑑定スキルの無い者が1000回使い続ければ、【鑑定スキル】を覚えるように設定したものである。
「本当かい!! たっ、頼むっ!
言い値で払うっ! だからこの、鑑定たぶれっとおを譲ってくれ!!」
「ああ、いいぜ! なんなら、ただでやってもいいぞ?」
「はあ?! 正気かいアンタ!!
こん、こんな、超優れた鑑定魔導具をかい?!
これでも、億Tia出さねぇと・・・」
実はこの『鑑定タブレット』も、トロが鑑定した結果、適正価格は1億5000万Tiaと出たのだ。
しかしこの店主、鑑定魔導具やスキルが無くても、ある程度の鑑定ができているんじゃないか?
「本当にいいのかい?! 後で、やっぱり返せなんて言われてもダメだぞ!!」
「ぷぷっ! そんな子供みたいな事は言わないよ!
いいさ! まだストックは有るんだ
また作っ・・・手に入った時には、その鑑定タブレットも卸してやってもいいぜ!」
「本当かい?! いやあ~~~! ありがてえ!!
絶対だよ! 絶対にまた来ておくれよ?!」
「ああ、また来るかと思うから、その時の状況次第でな!」
「おう! わかったよ! 待ってるからな!」
「あいよ!」
こうして、魔導具屋の店主と別れた。
「あっ! そう言えば、あの店主の名前を聞いてなかったな!」
「あら! そんな事でいいの?」
「・・・ははっ ま、いいさ
今度、また何時会えるかなんて分からないんだし」
「「「「・・・(汗)」」」」
結構、いい加減な所のあるトロだった。
守る気があるのか無いのか・・・
そしてしばらく歩いて、人っ気がまばらになった頃。
丁度、小さな公園にベンチがあったので、皆んなそのベンチに腰掛けた。
・⋯━☞町外れの公園のベンチ☜━⋯・
「トロ、いいの? あんなのタダであげちゃって」
「いいさ! またその内にもっと良い物を作るから」
「・・・そう?」
ナディーは、心配だった。
ナディーにだって、鑑定スキルがあるのだから、ある程度の魔導具の価値は解る。
なので、トロのマジック・バッグ程の高レベルな魔導具を破格の安値で卸し、更に鑑定タブレットまで無償でやってしまったのだから、悪い奴らの目に付かなきゃいいけど・・・と。
だが、そんなナディーの心配も解る。
ただ、トロはその場の勢いで、たまたま魔導具屋の店主が気に入ったので、あんな行動に出ただけだ。
でもトロも、向こう見ずに魔導具をばら蒔いているのではない。
なぜなら、今回魔導具屋の店主に格安で譲ったのマジック・バッグだって、実際に適正価格で売れるとは限らない。
それはたとえ、人族領であってもである。
余程の金持ちか、貴族相手にしか適正価格では売れないだろう。
また、数を売れば売るほどに、適正価格も下がる事になるはず。
トロにとっては、魔族領の魔族達と、ただ仲良くなりたいのと、少しでもコネクションを作りたいだけである。
その為には、恩を売っておくのに限るからだ。
ムラサキによると、そもそも魔族とは、全般的に本来は穏やかな性格であり、互いに姿形などの違いや異種族の違いも気にもとめず、何でも分け合い助け合う者達である。
バラエティー豊かな容姿にくわえ、中には恐ろしい顔や姿形の者も居る事から、見た目から魔族という奴らは気荒く好戦的な種族だと勝手に決めつけたのは人族の方である。
確かに、好戦的な者達も居るのは居るが、それは人族とて同じこと。
見た目の異様さや、他より力ある者を崇めるか、もしくは恐れ忌み嫌い、時には排除する傾向にある人族の方が問題なのである。
「ナディー君 それは心配しなくても大丈夫なんじゃないかな?」
「え? そうですか? でも人って、欲しい物がタダで手に入ると知れば、自分も同じように欲しがるもんだし、ダメなら強引に手に入れようとする人だって居るじゃないですか?
ほら、王侯貴族なんて、いい例ですよ!
手に入れたい人や物があれば、権力にものを言わせて、強引に徴発したりするでしょう?」
「それは、人族によく有り得る事柄だね
直接的な力や権力によって、強引に人の物を奪うというのは、人族の昔からよくある事だよ
なにせ人族の個々たる者として見れば、どんなに鍛錬を積んでも、魔族程の絶対的な力の差なんて無いからね!」
「そんな事なんてないわ!!
だって、強引に何かを奪うのは、大抵は女性よりも力のある男性の方よ!!」
「?!・・・」
「ちょっ、ナディー?」
「何時だってそう! 『女は男の言うことに黙って従えば良い!』とか、『女の分際で男のする事に口出しをするな!』とか、何でも頭ごなしに『女のくせに!』とか、『女1人に何ができる!』とか、大体男は・・・」
「おいおい! どうしたんだ? 落ち着け!」
「ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・・・・」
「「「「!!・・・(汗)」」」」
ナディーは、珍しく今日は緊迫した様子だった。
立ち上がり、両手拳を硬く握り震わせている。
そして今にも辛抱の糸が切れて泣き出しそうな表情をしていた。
何か過去に辛い事があったに違いない。
だがムラサキは、落ち着いてナディーに話しかける。
こんな状況に慣れてるのか、これも年の功か。
「確かに、男女とも単身だったなら、そうかも知れない
でも、こう考えてみてはくれないか?
もし、相手がか弱い女の子だとしても爆裂魔法を放つ魔導具を構える相手に、丸腰の屈強な肉体を持つ大男が勝てるとでも思うかい?」
「それはぁ・・・極論だわ!」
「そうかも知れない・・・でも、有り得ないとは言いきれないだろ?」
「ぐぬぬ・・・(汗)」
「ちょ、ムラサキ?・・・(汗)」
「もし、絶大な権力を待つ女性が、ある男性の持つ物を欲し、持ちうる権力を利用して強引に取り上げようとしたなら?
それなら、非力な単身の女性であっても権力さえあれば、なんの権力も後ろ盾も無い単身の男性には為す術はないよね?」
「それわっ!・・・そうだけど・・・」
「『力』というものは、何も直接的で物理的な力だけではないんだよ」
「!!・・・解ってるわよ、そんな事・・・」
「・・・ナディー? とにかく、落ち着け」
「・・・う、うん(汗)」
「ムラサキも! もう、それくらにしてくれないか?」
「・・・すまない つい、熱くなっちまった(汗)」
「2人共、とにかく座って落ち着こうよ?」
「「「「・・・・・・」」」」
ナディーとムラサキは、トロに促されベンチに腰かけた。
この後ナディーは、自分の過去について話してくれた。
ナディーは、元々は男爵令嬢だったらしい。初耳だった。
元名は、『ナディー・シェナ・ソニエール』というらしい。
とある伯爵家の嫡男から婚約を申し込まれたが、ソイツがまた有名なほど厄介な奴で、ナディーが婚約を断ったのが伯爵家の怒りを買ってしまったのか、その後は急に事業も何もかもが不自然なほどに上手くいかなくなり、最終的には言われの無い汚名を着せられソニエール家は最後には没落。
ソニエール家は平民となった後は家族は散り散りとなり、ナディーはテイマーとして開花していたので、冒険者になったんだと。
でも何時かは、ソニエール家を復興させたいと思っているのだとも言っていた。
ソニエール家を没落させたその憎き相手に、力も権力もナディーは負けていて、冒険者としてのナディーは『テイマー』だったが、相手は『剣豪』だったらしく冒険者としても負けたのだという。
最終的に、公的な対戦で決着をつける事になるが、結局は負けてしまう事となり、それでもナディーは婚約は拒否した。
この場合、没落は必至だったのだが、それでもソニエール家の家族全員ともが拒否するほどに嫌な相手だったと推察できる。
ナディーの両親や兄弟達も、ナディー1人に何もかも背負わせるくらいならと、ナディーの意思を尊重したのだった。
ナディーは、家族からはとても愛されていたのだ。
なんとも・・・まさかナディーにそんな事があったなんて。
貴族の色恋話しや政略問題では良くありがちな話しではあるが・・・
まったく、貴族という連中は、付き合うと良くも悪くも面倒な奴らである。
ナディーにかける、気に効いた言葉が見付からなかった。
「「「「「・・・・・・」」」」」
「えっと・・・なんと言うか・・・(汗)」
「あ、やめてよね? 同情なんて!」
「「「「「!!・・・」」」」」
「私、別に腐ってなんかいないから!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「憎っくきアイツを、何時か絶対にギャフンと言わせてみせるんだから!!」
「「「「「・・・・・・(微笑)」」」」」
皆んな、そんな力強く言い張るナディーを見てホッとした。
こんな酷い目に遭っても、腐らないところは褒めてあげたい。
もちろん、痩せ我慢している部分もあるだろう。
そんな事も解ってるからこそ、哀れでありながらも、愛おしい。
ナディーには、マジで頑張ってほしい。できる限りのサポートをしてあげたい。
コイツめ! 愛いやつめ! うん! いい女だぜ!
愛してるぜべぃべー! 恋愛感情じゃないけど・・・
トロは、しゅんとなった空気を変えようと、ムラサキの話題に入る。
なにせ、トロはずっとムラサキに対して思っていた事がある。
トロは、男の姿でこの世界へやって来た。
ムラサキも、女装剤で女に変身はさせられたが、転移した瞬間は男だったのは間違いない。
本来、女装剤や女装役剤で女に変身した者は、二度と男には戻れないのだが、トロの種生成による『変身スキル』でなら、一時的ではあるが無理やり男に変身できるのだ。
そこでトロは、ムラサキが男だった頃の姿を見てみたいと思ったのだが・・・
「なあ、ムラサキよ?」
「なんだ?」
「俺達、『異世界転移者』だと、この世界の人達にバレちゃマズイだろ?」
「ん? まあ、なあ・・・」
「だからさ、俺は時々変身して姿を変えているんだけど、ムラサキも変身してみないか?」
「変身?!・・・」
ムラサキは、素っ頓狂な顔をしていた。
それもそのはずであり、変身スキルとは、本来は特定の魔獣が持つスキルであり、人が使えるものではないと言うのが定説であった。
しかしトロの場合は、スキルではなく『変身魔法』である。
魔獣の持つ変化スキルとは全くの別ものである。
しかも、トロの持つ『変身魔法』は、姿形だけではなく、肉体年齢まで変化できる規格外である。
なのでムラサキの固定概念では、変身するとすれば、ムラサキの様に『女装剤』を飲むしか他に方法は無いはずなのだ。
「ええと・・・まさかとは思うが、もしかしてトロは『変身』できるスキルを持っているのかい?」
「え?!・・・いや、俺の変身は魔法だよ
ムラサキ、お前の鑑定スキルで、俺のステータスを見た時に気付かなかったのか?」
「いや、だってトロのステータスには『隠蔽』と『隠匿』が掛かってるから、保有スキルまでは見れなかったのだが・・・」
「あれ! そうだったのか?!」
「え? 自分で掛けたんだろ? 隠蔽と隠匿・・・」
「うん、まあ、そうなんだが・・・」
どうやらムラサキの鑑定スキルでは、トロの全てのステータスは見れなかったようだ。
流石に、『隠蔽スキル』と、『隠匿スキル』の二重構えだと、ムラサキの鑑定スキルを持ってしてもダメだったようだ。
「とにかく、今ここで変身して見せるよ!」
「お! おお・・・」
シュワン!・・・
トロは、変身魔法で、オッサンの姿へ変身した!
ポン!
「おおっ! おおおおお~~~っ!!
何処にでも転がっている普通のオッサンだあ!!」
「うるせえよ! 声デカすぎだ!」
「すっ、すげぇよ! トロ!!
変身すると、着ている服まで変わるんだな?!」
「視点はそこかよ!!」
なんだかんだと、騒がしい奴だったが、思いの外『変身魔法』に興味を持ったようだった。
なんとムラサキも、日本で事故に遭い後頭部に命の危機レベルの大怪我をしたまんまこの世界へ転移してから、命の危機だったとは言え教会の神官に『女装剤』を飲まされて女の子に変身させられてしまったので、実は男に戻る方法をずっと探していたのだった。
だが、トロの持つ『変身魔法』ならば、男に戻れる!
ムラサキは、トロに『変身魔法』の習得方法を迫ったのは言うまでもない。
「うん? この豆を食べるだけでいいのか?」
「ああ! 1つ食べたなら『変身魔法Lv1』を獲得できる!」
「お、おう だが、なぜ10個も食べなきゃいけないんだ?」
「うむ 10個食べれば『変身魔法Lv4』まで獲得できるんだよ
調べた結果、1つでレベル1、3つでレベル2、6つでレベル3、そして10個でレベル4だったな。
それ以上の数の豆を食べても、なぜだかレベルは上がらなかったが、とにかく豆を食して獲得できるレベルは4が限界のようだ
後は、変身魔法を使い続けてレベルを上げる事だな!」
「!・・・なるほど」
ムラサキは、トロに言われるままに、『変身魔法を覚える豆』を10個たべた。
そしてステータスの魔法欄には、【変身魔法Lv4】が追加された。
「ほお! これは凄いなあ!
それで? 詠唱は? どうやって変身魔法を発動させるんだ?」
「詠唱なんて要らないよ! ただ、変身したい姿を思い浮かべて『変身』って唱えるか念じるだけさ!」
「なんと! そんないい加減と言うか、安直と言うか・・・
そんな適当で、本当にいいのか?・・・(汗)」
「知らねえーよ! 適当言うな!(怒)」
少し呆れた様子でトロにそう言うムラサキ。
でも、実際そうなのだから、仕方がない。
そこは、トロ自身にも解らない規格外である。
とにかく、ムラサキは日本で暮らしていた頃の自分の姿を思い浮かべて変身と念じてみた!
すると・・・
しゅわん!
「ほっ?!」
「おおっ!」
「わあっ! そこそこ素敵じゃない!?
ま、トロの方が素敵だけど!」
「へえ・・・」
「なるほど・・・」
「ノーコメントですわ」
「!・・・君達? もっと気の利いた言葉は掛けてはくれないのかい?(怒)」
「「「「・・・・・・」」」」
「おい・・・(汗)」
「あはは・・・(汗)」
ムラサキも、ごくごく普通の・・・そこら辺に何処にでも転がっている小石のような、ごくごく普通のオジサンだった。
「・・・なんだ 普通のオッサンじゃないか?
あんなに、可愛かったのに・・・」
「んなっ?! なんだよ、それ?」
「うぅむ・・・確かに、普通のオジサンだよね」
「お前達の言う『普通』ってなんだ?!」
「まあ、そうね!」
「ちょっ・・・」
「なんだか・・・」
「・・・おい! もっと、何か言え!」
「がっかりですわあ」
「何がだよ!!」
「・・・さて、行くか」
「「「「はいっ!」」」」
「ゴラァ! お前らあ━━━っ!!
失礼な奴らだな、まったく!!(怒)」
ムラサキの正体は、普通に そこら辺に転がっている小石の様な普通のオジサンだった。
ムラサキは、ごくごく普通のオジサンでした。




