第51話 「この世界の魚料理」
トゥナの刺身は・・・?
・⋯━☞桃色珊瑚亭座敷の一角☜━⋯・
「なっ!・・・・・・なんだこりゃ?」
「「「「・・・・・・・・・」」」」
トロは、やっと刺身が食べられると思った最後の最後に、崖っぷちから突き落とされる心境に陥った・・・
「おいおい・・・マジかよ~~~(泣)」
「なによトロ! もしかして、トロの言う『サシミ』と言う料理が無いってこと?」
「違うよ! ああいや、うん、無いけど・・・無いどころか・・・(汗)」
「・・・もしかして、思っていたのとは違うってとこ?」
「おぅ・・・まさに、そんなとこ!」
「「「・・・???」」」
ナディー達には、トロの言う意味がよく分からない。
それもまあ、当たり前である。
元々ナディー達には、トロがどの様な料理を求めていたのかなんて、理解できていない。
ただ、『刺身』としか聞いていなかったのだから。
そもそも、その『刺身となる生身』すら、実物を見た事が無いのだから、分かるはずもなく・・・
ナディー達にとっては、『魚』と言えば『干し魚』である。
新鮮な魚料理が食べられるだけでも喜ぶべきところなのだが。
「ねえ、なんなの? 何がダメなのよ?
見ると、お品書きに書かれているのは、みんな新鮮な魚料理なのよ? それの何がダメなの?」
「何がって、全てだよ!」
「「「「すべて?!」」」」
「この・・・何なんだ『~塩焼き』だの、『~塩漬け』だの、『~塩煮込み』だのって!
みぃ~~~んな、塩、塩、塩って、塩のオンパレードかよ!
バカの一つ覚えじゃあるまいし!!(怒)」
「ちょっと、トロ・・・(汗)」
「師匠っ(汗)」
「「・・・(汗)」」
「あっ! あいたぁ~! すまん! 失言だったな(汗)」
「・・・(睨)」
つい、本音が・・・
店員にもトロの言葉がシッカリ聞こえたのか、顔が引きつっていた。
なにせ、品書きに書かれている品名と挿絵は、どれもトロを悲しくさせ、また怒りさえ覚えるほどに落胆させた。
正直な気持ちとして、誰がこんなモノを食べたいと思うのだろうか?と、品書きと店員の顔を交互に見て、またガックリ項垂れて撃沈・・・
建物も、いかにも料亭らしい佇まいや、座敷まであるとろこから、あたかも和風な割烹料理でも出してくれるのかと期待していたのに、人族よりも進んでいる魔族領だからと期待していたのに・・・
品書きはまさかのオール塩づくめだったし、余りにも簡潔にチャチャと作った!みたいな、手間暇などまるで掛けていないような、いや掛ける気もないような意図すら感じられる。
正直酷く酷く幻滅した。
もしかしたら、仮に刺身が出されたとしても、塩を掛けて食えと言われるのでは?とも思った。
刺身に塩をかけて食べると、食材の本来の味わいが分かるとは言うが、俺は刺身にはレモン醤油か、マヨネーズか、そのままで食べたいんだ!!
それがなんと、『刺身なら桃色珊瑚亭』と聞いて来てみて中を開いてみれば、トロが初めてこの世界へ来たばかりの頃のような塩だけの味付け!?
せっかくの新鮮なトゥナの身を全て煮たり焼いたりするなよ!
これでもかと言うくらいに塩だけの料理ばかりで、堂々と店構えるな と言いたい。
頼むから、一旦塩から離れてくれ!!とも言いたい。
超超大期待外れで、初めてこの世界へ来た頃のこの世界の料理事情と、何も変わっていない様子がまた頭に来た。
そりゃあ、ここは人族領からかなり離れているし、ここには人族も滅多に来ないし、仕方ないっちゃあ仕方ないのだが・・・
こうなると、トロの『世界を変えます!厨二病精神』が再発!!
「あのぉ~~~・・・ちょっと、すみませんが」
「あ、はい なんでしょうか?」
「この店では、トゥナの刺身・・・トゥナの身を生で食べさせてくれないんですか?」
「生では食べませんよ! 生で食べるトゥナとは、釣り大会で優勝したトゥナだけで、お貴族様にしかお口には入りません!」
「はあ?! いやいや、この店でトゥナの生の身を食べさせてもらえると聞いたのだが・・・」
「ああ、それはもう随分前のお話しですね!
今は、何処の店でも生のトゥナの身は出したりしません」
「ええ・・・えええええ~~~(汗)」
どういう事だ?
全然、話しが違うではないか?
このリクツネフへ来る前でも、捌き屋のお兄さんも、トゥナの刺身が食べられると言っていたのに・・・
助けを求めて伸ばした手を、叩き払われた気分だった。
「実は、以前はよくトゥナの生の身を何処の店でも出してはいたのですが、数ヶ月前にお客様に食あたりを起こす人が出るようになりまして・・・」
「そりゃ、寄生虫だな・・・」
「そうなのです! 人族の方から教わったのですが、寄生虫による食あたりが発生したという事が発覚いたしまして、寄生虫を死滅させるために、冷凍処理をしなければならないと教わり、それからは領主様からの指示で、寄生虫を死滅させる冷凍処理ができない店では、生のトゥナの身を出してはいけない決まりとなってしまいまして・・・」
「!!・・・おう・・・のぅ・・・(汗)」
・・・なんと言う事だ。
この店に来る前にも、寄生虫の冷凍処理の話しは聞いていたが、まだこの店では冷凍処理はできないらしい。
冷凍処理の設備や魔導具が無いのか、それとも冷凍する魔法が使える者が居ないのか・・・
冷凍処理がダメなら、目で見て寄生虫を排除すれは良いのでは?とも思ったが、それを説明したところで、完全に処理できずに、また食あたりを起こす客が出たりでもしたら責任問題だ。
確実ではない事は、話さない方が無難だろう。
『だったら、完全に火を通してしまえば良いのでは?』
と言う結論に達したそうだ。
結局は、刺身は食べられなくなるのか。
「そう言う訳ですので、生の身の提供はできません」
「なるほど・・・仕方ありませんね・・・
では、もし宜しければ、厨房を使わせてもらえませんか?」
「え? はあい?! それは、一体どういう・・・???」
「えっと、正直に言いますね?」
「!・・・は、はい」
「「「「・・・・・・(汗)」」」」
ドキドキ・・・
「私個人の感想ですが、ハッキリ言って、塩だけの味付けでは、客としては舌が飽きてしまいます!」
「は、はい・・・(汗)」
「そこで提案なのですが、俺が持つ調味料を使って、新しい魚料理を作ってみたいのですが、如何でしょうか?」
「え、は?! 貴女は、料理人なのでしょうか?」
「いえ、料理人って訳ではありませんが、以前人族領で お世話になっていた宿屋の食堂で、塩ももちろん使いますが、別の調味料も使った簡単な料理を作らせて貰った賄い料理が、その食堂の定番の大人気メニューになった事がありまして、少しばかり料理には自信があります
きっと、気に入る魚料理を提供できると思いますよ!」
「そ、そうなのですか?!
ちょっと、店長と話してきますね!!」
パタパタパタパタッ・・・
「「「「「・・・・・・」」」」」
トロ達を座敷まで案内してくれた店員さんは、何か思うところがあるのか、慌てて店の奥へ走って行った。
店員さんも、塩だけの料理には飽きていたのでは?
もしてして、だから客が居ないのでは?
・・・とも、思った。
「ちょっと、なんなの? トロ、何をする気?」
「うぅむ 皆んなも見て分かるとは思うが、この店には俺達以外の客は1人も居なかったよな?」
「「「「?!・・・」」」」
「そう言えば! 確かに・・・」
「本当だぁ! 居ない居ない!」
「カラクリ時計の1人芝居・・・こう言う事を言うのでしょうか?」
「あはは・・・なんだそれ???(汗)」
エヴァの言う、『カラクリ時計の1人芝居』とは、日本の、『閑古鳥が鳴く』と言う諺と意味が似たようなものだろうか?
確かに、誰も見る者が居ない静かな店で、カラクリ時計の人形が、時を告げる時に1人寂しく踊る光景を想像すると、それはまた寂しげな気分になりそうだわ・・・(汗)
そして、先程の店員が、店主らしき人を連れて戻って来た。
その店主らしき人は もちろん魔族で、海人サハギンだった。
海鮮料理の料理人が、作務衣を着た海人サハギンのオッサンって⋯おいおいっ(汗)
しかも、料理人が作務衣って・・・芸術家じゃないんだから(汗)
って、ツッコミそうになったが、グッと堪えた。
「新しい魚料理を提供してくれるって言うのは君かい?」
「!・・・おほほほ(汗) あ、は、はい!」
「そういやあ噂では、人族領には塩以外の調味料を使った、美味い料理が今流行ってるんだってな?」
「え?・・・」
なんだ! 塩以外の調味料の存在を知ってたのか!?
だったら、塩以外の調味料を使った料理を出せよ!
と、突っ込みたくなった。
「そ、そうですね(俺が広げたんだけど)
その、噂の調味料もそうですが、俺はとにかく、『生のトロ』が食べたいんです!!」
「トロ? 生? トロとは何だい?」
「あっ・・・しまった
この世界では、『トロ』って通じないか・・・(汗)
ええとですねぇ~~~トロとは、俺の故郷で魚などの脂の乗った僅かに取れる部位の脂身の事を言うんですが、分かりますか?」
「脂身だって?
人族は、あんな気持ち悪く不味いモノを食べるのかい?」
「?!・・・気持ち悪いって・・・(汗)」
やはり、ここでも同じ反応だった。
料亭の店主でさえ、脂身は気持ち悪く不味いと言って食べないなんて、なんて勿体ない!!
という事は、赤身しか食べないのか?
いや、不味くはないだろう! 不味くわあ!!
一体、魔族の味覚は、どうなってるんだ?
ちょっとムカついたので、声を少し荒らげてしまった。
「ちょっちょっちょっ! 不味くはないだろう!」
「はあ? 『人族何でも食う』と聞くが、どうやら本当の事だったらしいな?」
「コラちょと待てぇ!!(怒)」
トロは、店主の『人族何でも食う』という言葉にムカついた!
何でも食うとはなんだ?!
確かに言われてみれば、思えば特に日本人は、毒のある魚でも上手に毒を除いて食うが、何でも食うとは、たぶんそれとは別だろう。
この世界の人々が、『日本人は毒のある魚も食う』とは知らないはずだし。
だとしたら、この世界の魔族達は、この世界の人族を何でも食うと思わせる何かがあると言う訳だ。
なんだろう?
確かに日本人は、道端の雑草でも煮てマヨネーズつけて食うが・・・(トロ的主観)
実はトロは、ジメジメした場所に自然に生える、『イワクラゲ(イシクラゲとも言う)』を煮て、ポン酢であえて食べた事もある。
意外と美味い。
イワクラゲとは、見た目はスライムみたいな半透明でグニュグニュした物で、手触りはグミに似ている。
味そのものは無く、煮て好みの味付けをして食べるのが普通。
これを知られたら、『人族何でも食う』と言われても仕方ないかも。
って、今はイワクラゲの話しは関係ないか・・・。
「店主! それは、一体誰から聞いたんだ?」
「人族は何でも食うってヤツかい?」
「お、おう それだよ(汗)」
「ううむ・・・皆んなだな?」
「はあ???」
皆んなって、誰の事なんだ?!
つまり人族は、魔族達から見れば、『人族は何でも食べる』と思われているのが当たり前の常識だと言う訳か?
随分だね! 遺憾だね!! 偏見だね!!!
トロは後に、『魔導ネット』にて、この世界の人族とは、何でも食うのかと検索してみたら、興味深い記事が見付かった。
今から120年前まで魔族と人族は領地争いをしていた。
その時、大魔女リオリオ良子が、魔族と人族との間に入り、『平和協定』が結ばれたらしいが、その頃の魔族領に近い人族領の人々の大半は、荒廃とした土地で食べる物が無くとても貧しく、道端の雑草をもむしって食べていたとか?
そんな様子を見ていた魔族達によって、『人族は何でも食う』という印象が刷り込まれたのかも知れない。
大半は何の力も持たない か弱い人族だから、現在のように魔物を狩って食う事など敵わなかったのだろう。
なので、『食える物は何でも食う』という印象付けられたのかも知れない・・・と。
「と、とにかく! 塩だけの味付けではなく、もっと美味い味付けの料理を作らせてもらいたいんだ!」
「!・・・ううむ・・・塩とは他の味付け・・・か」
「・・・(汗)」
トロにしても、塩以外の魚料理の味付けなんて、醤油、味噌、みりん、出汁くらいしか思い付かないが、それでも塩だけよりはマシなはずだ。
だが、根本は魚料理だ。
煮込みなら、魚から出汁が出るだろうから、塩だけの味付けでも食べられない訳ではない。
ただ、飽きてしまうだろう。
塩ばかりだと身体にも良くないと思う。
今どき日本では、健康意識でなんでも『減塩!減塩!』とうるさいほどだ。
『それが好きだ』と言うのなら何も言うまいが、トロの申し出に店主が考え込んでいるところを見ると、思うところはあるようだ。
「では・・・もし、俺が気に入った料理なら、この店でもその料理を出させてもらっても良いかい?」
「もちろん、いいよお! どんどん出してくれ!
俺は、塩の他の味付けでも、美味い料理がある事を沢山の人達に知って欲しいんだ!」
「うむ アンタがそこまで言うんなら、厨房を使ってもいいぜ!」
「おお! ありがたい!!」
「その代わり!・・・」
「うむ?」
「アンタの料理を、一から最後まで見させてもらうぞ?」
「え”っ・・・ま、まあ、仕方ないか・・・
ずっと見られるのは、あまり気分の良いものじゃないが(汗)」
「トロ! 私も見たいわ! ねえ、いいでしょう?」
「はあい?! ううむ・・・う、うん、わかったよぉ(汗)」
「俺も見たいっす師匠!」
「僕も!」
「わたくしも見たいですわあ!」
「!!・・・はいはい ご自由に・・・(汗)」
結局、ここに居る人達全員に見られながら、料理をする事になってしまった・・・。
こんなに、じぃ~と見られながらって、何かの実技検定試験みたいで、めちゃくちゃ緊張するんですけどお!!
それでも言い出しっぺ!
やるしかない・・・(汗)
トロは、マジック・バッグから様々な調味料を出す。
基本は、「さ、し、す、せ、そ」である。
さ=砂糖、し=塩、す=酢、せ=醤油、そ=味噌、である。
他にも、みりん、酒、その他あれこれとあるが、まだこの世界に、みりん や、米から作る酒なんて無いので、先に広めてからだな。
あくまでも、さしすせそ!の基本ってヤツだ。
トロは、魔導ネットタブレットで、『cookpapa』を検索。
そこから魚料理の人気順に作る作る作る!
1品目は、トゥナの照り焼き。
2品目は、シャパの味噌煮。
3品目は、アチのフライ。(アジに似た小魚)
4品目は、アゴサのカルパッチョ。(サーモンに似た魚)
5品目は、アゴサの海鮮丼。
生のアゴサは、異空間収納内で急速冷凍させて、時間魔法で24時間を一気に進めて寄生虫の死滅。
それと同時に、異空間収納内で、『冷凍処理』ができる魔導具も開発。
大きさはクーラーボックス大で、たったの1分の冷凍処理で寄生虫を死滅させ、更に解凍までできる、1家に1台の超お勧め商品!
後で、この店にも提供するとしよう。
とにかく、時間か足りず5品目だけ。
それでも、店主や店員達は、トロが作った料理に、がっつくくらいに夢中になって食べていた。
余程気に入ってくれたようだった。
「いやあ! 美味い!! こんなに美味い料理は初めてだ!」
「本当に美味しいです!」
「白ご飯に生のアゴサを乗せて食べるなんて思い付かない!」
「そうだろう? そうだろう?」
トロは、皆んなの好反応に、大満足気で大歓喜!
思いの外喜んでもらえて、やり遂げた感で感無量であった。
「しかし、これらの調味料は何処で手に入れるんだい?
こんなの見た事が無いぞ!」
「ああ、この街にもモデンナ・ウカリウって行商は来るかい?」
「モデンナ・・・ああ、来る来る!
ソイツに頼みゃ手に入るんだな?」
「ああ、そうだ!
今回俺が使った調味料の他にも色々扱っているはずだから、色々試してみるといい」
「わかったよ! ありがとよお嬢ちゃん!」
「お、お嬢ちゃん・・・(汗)
ああ、そうだった・・・今の俺は女の子だった(汗)」
「・・・あん? 何言ってんだ?」
「いや、何でもない・・・(汗)」
この日、桃色珊瑚亭は店を閉めて、納得がいくまでトロから教わった魚料理を作り続けたのだった。
••✼••その日の夕方••✼••
「はあ・・・結局、トゥナの刺身にはありつけなかったな」
「仕方ないわよ でも、トロのお陰でとっても美味しい魚料理が食べられたわ!
本当に美味しかった!」
「そうかい? そりゃあ良かった!」
「美味かったっす師匠!」
「おう! また、作ってやるからな!」
「わお! 楽しみ!」
「僕は、アチのフライが美味かったです!」
「わたくしは、アゴサの海鮮丼ですぅわあ!」
「そかそか! うんうん!
とにかく、全部タダで食えたから大満足だ!」
「え? そこ?」
「ん? なんだよ?」
「ふっ・・・まあ、いいわ トロらしいもの!
また、この街に来たら桃色珊瑚亭に来ましょうよ!」
「そうだな! 明日は、色んな魚を買い漁ろう!」
「「「「おお━━━っ!!」」」」
こうしてトロ達は、嬉々として次の宿屋を探すのだった。
魚料理を作って終わりだった・・・




