第50話 「和風」
刺身が食べられると意気込むトロ。
・⋯━☞リクツネフの宿屋☜━⋯・
その日の夜の宿屋の部屋で。
「ご主人様、また何かに呪われているのですか?」
「んなっ?! なんだそりゃあ!!
呪われているって何だ!! 呪われているってえっ!!」
「プププ・・・(笑)」
「「「ククククク・・・(笑)」」」
この頃はロンデル達従魔も、従魔独特の冷酷さとか、虫の様な心の無機質さなんて感じず、妙に人間臭いと言うか、俗っぽい感じがする。
以前イスヤリヤ王国で他のテイマーに聞いた話しでは、従魔達とは明確な意思疎通なんてものは元々難しく、『行け!』、『特技!』、『防げ!』、『待て!』、『戻れ!』などの簡単な命令を認識できる程度のものだと。
そこから徐々に、細かな命令などを繰り返し訓練する事によって、ようやく従魔の気分や感情などが僅かに理解できる様になる程度だと言う。
それでは、まるでラジコンで動くロボットみたいではないか。
鉄魔人28号かよ?!
従魔が言葉を話し、ましてや冒険者として登録されるなんて、普通は考えられない事なのだとか。
だとしたら、ロンデル達は特別なのだろうか?
それとも、主人が特別で、従魔となるロンデル達も特別な存在として自我が目覚めたのだろうか?
ロンデル達はとても感情豊かで主人に対してイタズラもするし、憎まれ口まで言うようになった。
少々ムカつくが、それはそれでなんだか嬉しくもあり。
また、ナディーの従魔達も同様に感情豊かであるのは、やはりトロと共に活動しているからなのだろうか。
でも、トロとしては、従魔達が感情豊かな方が嬉しくも可愛くもあり、とても大切な仲間達であり、愛すべき子供達である。
それはそうと、ロンデルにそう言われるのも仰る通りで、トロが物作りに没頭すると瞬き1つしなくなり、目は赤く充血して血管が血走り、時々呼吸すら忘れている事もある。
そんなトロの後ろ姿は、まるで誰かを呪っているかのようで、明かりのついた部屋でもドロドロと薄暗く感じ、ゾクッとするような、おどろおどろしさがある。
そして、息をするのを思い出したかのように、突然ぶあはぁー!と、まるで今まで溺れていたかのように大きく息をする。
そんなトロの様子は、周囲の空気さえもピシー!と張り詰め、ロンデルでさえ下手に声を掛ければバーン!と弾け飛ぶのではないか?と躊躇するほどの鬼気迫る感だ。
「いえ・・・少し、心配になりまして
今しがたのご主人様は、誰かを呪っているかの様におぞましい形相でその手に持つ物を睨みつけていたもので・・・(汗)」
「はっ?! うそ!! マジ?」
「うむ! 流石に我もゾクッとしましたな!」
「ご主人様、怖かったですぅ!」
「震えたにゃお!」
「そんなに?! ああ~~~いや、すまんすまん!
ちょいとコイツに夢中になっちまってな」
「「「「???」」」」
知らなかったな・・・
まさか、夢中になっていた自分が、ロンデルさえ恐れる様な顔をしていたなんて(汗)
あの、ロンデルとロプロプを、あそこまで怯えさせてしまうとわ!
我ながら、どんな顔だ?
「んで、いったい今度は何を拾って来たんですかい?」
「ああ、これはリクツネフへ来る途中に地平線まで続く広大な花畑があっただろ?
あの花畑で拾った『魔力草の実』だよ!」
「「「「魔力草の実?!」」」」
「ああ! コイツは、掘り出し物だぞ!!」
トロの持つ物は、魔力草の実だった。
ネコジャラシを太く大きくしたような毛の生えた実の様で、フサフサして触ると気持ちが良い。
この実の毛で顔や耳をくすぐると、なんとも気持ちが良い♪
猫のしっぽの先や、筆先の様な手触りだ。
小学生の頃に、気持ちが良いので筆でよく顔をくすぐったものだ。
と、それは置いといて・・・
毛と皮をむくと種のような色様々な硬い実が出てくる。
その実には、花が咲いていた頃ほど魔力は発してはいないが、数値にして5~10程の魔力が込められているのが分かる。
魔力5~10と言えば、最下級魔法が1~2度発動できる程度。
今トロが持っている魔力草の実は、鑑定の結果は『ヒールの実』であり、最下級回復魔法のヒールが1~2度発動できるようなのである。
『ヒールの実』は、水色に少し黄緑色がマーブル模様に混じる綺麗な色だ。
試しに魔力を込めてみたら、本当にヒールが発動して驚いた!
これは、思いがけない発見である。
発動条件は、ヒールを発動させる意志と魔力のようだ。
また、『ヒール』と合言葉を唱えても発動した。
そして、1度魔法を発動した実は、空気に溶け込み拡散するかのように消えしまった。
魔力の残量的にはもう一度くらい発動できた気もするが、消えてしまうのなら勿体ないが仕方ない。
使い捨ての魔法発動魔導具のようなものだ。
なんとも不思議なものだ。流石はファンタジーな異世界。
今回試したのはヒールだから何も危ない事は起こらなかったが、もし『ファイヤーボールの実』だったなら、部屋の中だから大変な事になっていたかも知れない。
ちょいと、ヒヤリとしたトロだった。
「これは、魔力草の実の中にも色々と種類があってな!
これは『ヒール』が発動できる実らしいんだよ」
「なんと!!「本当ですか?!「すごい!!「すごいにゃあ!」
「ああ、俺も驚いていたところだ!」
「しかしですなあ・・・
それがあれば、魔法が使えない冒険者でも魔法が使える様になり、魔法使いの立場が危うくなるのでは?」
「そうなんだよアケチ君! 良い所に気が付いたねえ!」
「「「「は? アケチ・・・???」」」」
「ああ、いや、すまん! 今のは気にしないでくれ(汗)
ん”っん”! ゴホン! ええ~~~と
そうなんだよロプロプ君!
まさに! ロプロプの言う通り、魔法が使えない職種でも魔法が使えるようになるんだよ
でもこれでは、魔法を発動させるのに自分の魔力を使わないので、『魔導具使い』とか、『魔法師』のようなモノになるのかな?」
「「「「おおおお~~~!!」」」」
「それは興味深い!」
「新しい職種の誕生ですね!」
「うむ! だがな、どうやらこの魔力草の実の存在を知る者が少ないのか・・・
それとも知る者がまったく居ないのかも・・・
いや、それともまだ、実の存在自体は知られていても、その魔法的効果までは知られていないだけなのかも知れないな?」
「「「「!!・・・」」」」
「それは確かに・・・
僕も今日初めて、その魔力草の実の存在を知ったもんね!」
「そうなんだよ だから、これを使えばロキシーにだって魔法が使えるようになるんだよ!」
「すごいですね! 僕も欲しくなりました!」
「うむ 魔法が使えるゴーレムか・・・
それもまた面白いかもな!」
「「「「おおおお~~~!!」」」」
「でも、まだ知られていないのは勿体ない」
「ですな! でもなぜ、今まで知られなかったのやら?」
「だな! それにもし、この魔力草の実の存在が世に広く知られていたのなら、道具屋か魔法屋で魔力草が普通に売られていても、おかしくないんだよ」
「そう言えば、見た事が無いですな!」
「ああ、そうなんだよ」
「「「「ふうん・・・」」」」
そうなのである。
魔力草なんて、先日リクツネフへ来る途中の花畑で初めて見て知ったし、鑑定しなかったら、『魔法を発動できる実』だとも、知る事もなかっただろう。
それはトロの鑑定のレベルが高かったからであり、他の冒険者達の並の鑑定魔導具レベルでは効果までは確認できなかったのだろう。
だがトロの視点は違った。
この『魔力草の実』を参考に、新しい魔導具が作れないかと考えていたのだ。
真っ先に思い付いたのは、日本で観た事のある魔女っ娘アニメの『魔法のステッキ』だった。
そのアニメの主人公の少女は、偶然に魔女の店に迷い込んでしまい、たまたま店の主人を魔女だと見破ってしまったために、その魔女の主人は『魔女カエル』に変身してしまう。
そして、カエルと化した魔女を元の姿に戻すためには、自分を魔女だと見破った少女を『魔女見習い』として弟子にして育て、いつか立派な魔女へと成長させて、自分を元の姿に戻す魔法を弟子の魔女にかけてもらうしかないのだそう。
そんな魔女見習い達が、魔法を発動させる時に使っていたのが、『魔法のステッキ』だった。
トロは、その魔法のステッキを参考に(パクって)作ってみようと考えたのだ。
また、魔法のステッキでの魔法を発動させるための原動力は、『魔法玉』と呼ばれる見た目は飴玉のような綺麗な玉。
魔法を1回発動させるのに、魔法玉1つを消費するようだった。
トロは、その魔法玉の代わりに『魔力草の実』を使おうと考えたのだ。
そして、その魔法のステッキ第1号ができた!
第1号とは言え、製造ナンバーは28であるが。
つまり、28回目にして納得のいく物が完成したと言う訳である。
「ジャジャ━━━ン!!
これは、魔法使いでなくても魔法が発動できる魔導具、マジカル・ステッキだあ━━━!!」
「「「「わあ━━━すごお━━━い~~~」」」」(棒読み)
「なんだその、気の無い言い方わあ━━━!!」
ロンデル達は、いつもの反応である。
まあ、従魔らの反応には期待していないトロではあるが。
なにせ魔獣だ。
パワーやスキル任せの魔獣達に、魔導具の価値なんて理解できるはずがない。
・・・と、無理やり納得するトロであった。
トロの、今回開発したマジカル・ステッキは、アニメで登場するような可愛らしいステッキではなく、まるでオリンピックの聖火トーチのようなシンプルなデザインの物だった。
ステッキのロッドの底の部分の蓋が開くようになっており、そこから魔力草の実を入れる仕様になっているもので、完成したのは『ヒール専用』のステッキだ。
『ヒール』と合言葉を唱えながら振ると、回復魔法のヒールが発動する仕様となっている。
その時、ヒールの発動の為の原動力(魔力)となるのが、ステッキの中に入れられた『魔力草の実』である。
このステッキは、『ヒール専用』のステッキなので、ステッキの中へ入れられる魔力草の実は、『ヒールの実』のみとなる。
なので、ヒール以外の実を入れたとしても、魔法は発動しない仕様となっている。
『ヒールと思って振ったら、ファイヤーボールが発動した!』
なんて事故は起こしたくない。安全第一だ。
その後に調べた結果、その他の魔力草の実の効果は次の通りだ。
『赤のファイヤーボールの実』、『白に近い水色のエアーカッターの実』、『灰色のストーンバレットの実』、『褐色のアースウォールの実』、『水色のウォーターボールの実』などの異世界名物ならではの初期魔法的な下級魔法がほとんどだった。
それらは、毛の生えた皮を向いてみないと中身は分からなかった。
外見からでは中身が分からないのが、まるでガチャみたいで、それはそれで面白い。
だが往々にして、『白の無属性の実』が数多く見付かり、今現在ではどんな効果があるのかは、まだ分からない。
今の所、どれもレベル99以下のジェイド級の低レベルの魔物相手にしか効果は期待できないが。
それはともかく、貴重な魔石や魔晶石を使うよりも安価に作れそうだし、まだまだ改良の余地も、研究の余地もある代物だ。
それに、まだ他にも違う色の実があるかも知れない。
探すのは面倒だが、それでも、面白くて仕方がない!
「ま、とにかく、これは面白い実を見付けたもんだ!
今後がマジで楽しみだよ♪」
「「「「へえ~~~すごお~~~い~~~」」」」(また棒読み)
「お前ら・・・(汗)」
面倒くさそうにそう言いながら、ロンデル達は眠りについた。
いつもなら、ロンデルとロプロプは眠りにつく前に襲ってくるのだが、今のオッサンのトロには興味は無いらしい。
トロとしては、オッサンの時にロンデル達に変な気を起こさないようにするために、魔導具開発に専念しているようなものなのだが、ロンデル達は気付いてはいない。
とはいえ、従魔相手にどうこうするなんて、倫理的に良くないので、痩せ我慢している訳でもあるのだが・・・
••✼••次の日の朝••✼••
・⋯━☞リトキヤ門前宿や前☜━⋯・
「ふぁあぁあぁあぁあぁ~~~~~~」(あくび)
「なによトロ! また魔導具作りで寝不足なの?」
「ギクッ! あ、や、いや、まあ、えっと・・・ははっ(汗)」
一々、鋭いナディーである。
ってか、トロと一緒に居れば誰にだって解るってものだ。
バレてしまうもの仕方がない。
「研究熱心なのは良いけど、ほどほどにね
パーティーのリーダーがダラけていたら、メンバー達や他の冒険者達にも示しがつかないんだからね!」
「う、うん そうだね 肝に銘じておくよ(汗)」
「まっ! トロに魔導具開発について何を言ったって無駄だとは思うけど!
だってトロの魔導具開発って、もう病気みたいなものだからぁ!」
「ぶはっ!! そ、その言い方は、キツぃ!」
「クスクスクス・・・(笑)」
そんな憎まれ口を言われても、憎めないのがナディーである。
なんだかんだ言いながらも、許してくれるのだ。
可愛いヤツだ。 きっと、いい女になるだろうな。
そして、港へまた足を運んでみると・・・
・⋯━☞リクツネフ門前港前☜━⋯・
ワイワイガヤガヤ・・・
「うっわあ━━━なにこの人達?!」
「なんだ? 何があったんだ?」
「あ、もしかして釣り大会だったのでは?」
「「「「ああっ!!」」」」
そうなのだ。
実は釣り大会は、昨夜行われていたのだ。
そしてこの朝早くに、港へ戻って来た漁船達から、次々と巨大なトゥナがクレーンの様な魔導具で上げられていた。
でもトゥナ釣りは魔族でも簡単な事ではないらしく、坊主の船もあったようだ。
地球でのマグロ漁では、漁船に搭載された『魚影探知機(ソナー?)』を使うらしいが、この世界でのトゥナ漁では、一体どうやっているのだろうか?
おそらく、魚影探知機などのような気の利いた物など無いだろうし、きっと漁師の経験や勘などで、後は運次第だろうな。
トゥナ釣り漁も厳しい世界のようである。
ギリギリギリギリ~~~・・・(クレーンの音)
「でかあっ!! 何メートルあるんだ?」
「ひぃえぇえぇえぇ~~~おっきい!!」
「なんだこれ?! 本当に魚?!」
「凄いですわあ! 凄いですわあ!」
「まるで、ジンベエザメだな・・・(汗)」
まさに、黒いジンベエザメだった。
トゥナと呼ばれる巨大な魚は、見た目は確かに真っ黒くて陽の光に反射して青い光を放ちマグロには似ているが、尻尾は魚ではなくクジラっぽかった。
頭はマグロに似ているが、口がデカくて、どことなく魔獣っぽかった。
そしてその巨体!
まさにジンベエザメのように、体長は10mはありそうだ。
その船とは別の他の船からも、次々とトゥナが水揚げされていた。
だが、作業の邪魔にならないようにする為か、近くにまで寄れないのがもどかしい。
そして、いよいよ計量されていくのだが、審査基準はただ大きさだけではないらしい。
計量の結果、順々発表されているのだが、トロが1番大きいと見定めていたトゥナは、なぜか3位だった。
そして第1位は、トロが見た目で2番目と思っていたトゥナが選ばれ、何が何だか訳ワカメだ。
どうやら優勝となる基準は、大きさもありきだが、見た目の美しさ、新鮮さ、全体像のバランスの良さ、その他審査員の独断と偏見・・・らしい。
なんだそりゃあ?! 明確な審査基準は無いのかよ!
そして、優勝したトゥナを釣り上げたグループのパレードが始まり、なんたかんだと訳が解らないうちに、気が付いたらもう昼過ぎになっていた。
パレードが終わると呆気ないもので、人はまばらになり、辺りは気持ち悪いくらいに静まり返っていた。
仕方なく行き場を失ったトロ達は、1人黙々と作業をしている魔族のお兄さんを見付けたので、何となく近付いてみた。
・⋯━☞解体場☜━⋯・
「あれれ? 解体はしないのかな?」
「おお! 昨日の人族の!」
「あ、どうも! 今日は、トゥナの解体はしないんですか?」
「ああ、しないさ!
トゥナは主に刺身にして食うんだが、そのままだと寄生虫が居るから腹を壊しちまうだろ?」
「お、おお・・・(汗)」
『寄生虫の概念があるんだな・・・』
なんて思ってしまった。 失礼だな我ながら・・・
「だから水揚げしたらすぐに冷凍して、丸1日待って寄生虫を死滅させなきゃいけないんだわ!」
「な、なるほど・・・(汗)」
「腹を壊す程度で済めばいいが、下手すりゃ何日も仕事を休まなきゃいけなくなるだろ?」
「ふむふむ・・・ですよねえ(汗)」
うむ、なるほど。
確かに、天然物には寄生虫がつきものだ。
魚につく寄生虫とは、『アニサキス』だっけか?
白いひも状のヤツ。
日本ではアニサキスによる死亡例は報告されてはいないが、無視はできない。
しかし、こんな異世界にも寄生虫の概念があるとは驚きだ。
特にここは魔族領。
魔族達になら、寄生虫程度なんちゃないと思っていたが、どうやら結構注意はされているらしい。
実は魔族とは言えども、寄生虫や病気怪我などにはかなりシビヤであり、人族と同様に軽視すると命に関わるらしい。
人族側から見ると魔族とは人間なんかよりもえらく頑丈で、生物や寄生虫なんて平気!だと思っていたのに、そうでもないらしい。
思いの外、魔族もデリケートなのだな。
魔族でも、寄生虫やウイルスなどによる病気で命を落とす事もあるのだ。
「ううむ・・・だとしたなら、トゥナの刺身が食べられるのは、明日以降になるのかい?」
「いや、トゥナは毎日のように水揚げされてっから、食堂によっては刺身を出している店もあるはずだぜ!」
「おおおおおお~~~! マジっすか!?」
「「「「?!・・・」」」」
「お、おお・・・(汗)」
トロは、思わずガッツポーズで喜んだ!
そんな姿勢のまま、捌き屋のお兄さんに迫るものだから、捌き屋のお兄さんは引いていたが、トロにはそんな事などはどうでも良いこと。
ツゥナの刺身が食えるときたなら、即行動だ!
「で! で! 刺身が食える店って、何処か知ってるかい?」
「そうだなあ・・・この辺なら、『桃色珊瑚亭』になら出してんじゃないかな?
なかなかデカイ店だしな!
ほら、この通りを真っ直ぐ行けばあるさ!」
「桃色珊瑚亭だな! ありがとうよ!」
ダダダダダダダダッ!
「お、おう・・・(汗)」
突然思い出したかのように走り出すトロ。
捌き屋のお兄さんも、ポカーン・・・
「ちょっとトロ! 何よお!! 待ってよお!!」
「師匠お━━━っ!!」
「うわっ! なんだ! また走るのお~~~(汗)」
「そんなご無体なあ~~~(汗)」
「「「「ご主人様あ~~~!!」」」」
「姉御ぉ~~~!「姉さあ~~~ん!」
「待って待って待ってえ~~~!」
バタバタバタバタバタバタバタバタ・・・
「・・・なんなんだよ、アイツら(汗)」
トロは、捌き屋のお兄さんから聞いた『桃色珊瑚亭』へ向かって猛ダッシュ!
でも、トロの50過ぎの身体ではすぐにバテてしまい、トロは急激にスピードダウン・・・
ポテポテポテ・・・
「ゼェ⋯ゼェ⋯ゼェ⋯ゼェ⋯し、死ぬぅ~~~(疲)」
「はあ⋯はあ⋯はあ⋯んもお! 急に走り出してぇ!
いい歳過ぎたオジサンなんだから、若ぶっても疲れるだけよ?」
「そ、そうだな・・・」
ポン!
「ありゃ?!」
「「「「あっ!!」」」」
トロは、猛ダッシュの末に、あっという間に限界がきてヘトヘトになってしまい、若い身体が恋しいと思ってしまったもんだから、トロの身体は無意識に女の子に変身!
「ありゃりゃあ・・・また、女の子になっちゃったわね(汗)」
「なんなんだよもお~~~(汗)
俺、変身魔法使ってねぇぞお~~~(泣)」
「いつもの事じゃない! 何を今更?」
「あ”ゔゔ~~~(汗)」
「「「・・・(汗)」」」
トロは、まるで糸の切れたマリオネットの様に崩れ落ちる様にその場に跪き、四つん這いで項垂れた。
「師匠・・・もう、男を捨てたらどうですか?」
「んなっ?! な、なん、何んて事を言うんだ!」
「だって、オジサ・・・大人の男の姿になっていても、あんまり良い事がないじゃないですかあ?
疲れやすいし、ヨレヨレだし・・・」
「言い方っ!!」
「そうですよ、ご主人様!」
「んなんっ?!」
思い出したかの様に、割って入るロンデルとロプロプ。
「そうですぞ! そうですぞ! ご主人様が女の子の方が我らも堪能できますからな!」
「それは、お前らだけだがなっ!!」
「「「・・・???」」」
ここの所、トロはオジサンの姿のまんまだったものだから、ロンデルとロプロプは、トロを食べる事ができなかった。
その事を言ってるロンデルとロプロプだったが、他の者達にとっては、トロ達が何の話しをしているのかは分からない。
いや、分かってもらっては困るのだが・・・
そうしているうちに、クレオ達も追いついて来た。
バタバタバタ・・・
「ぷわはぁ! ひぃ⋯ひぃ⋯やっと追いついた(汗)」
「はきゃあ⋯はきゃあ⋯はきゃあ⋯わ、わたしく、走るのは不得意なのですわあ~~~(汗)」
「いや、すまん! ふう~~~!
と、トゥナの、さ、刺身が食えるかも知れないと思うと、居ても立っても居られなくてな・・・」
「そんなに美味しいの? サシミって」
「おぅよ! 最高に美味いぞ!!
特に美味いのは、脂身のトロだよ! 大トロだ!」
「「「「オオトロ???」」」」
ナディー達は、トゥナのトロについて、あらまし説明は聞いていたが、そもそも魚自体をあまり食べた事がないものだから、脂身だのトロだのと言われても、まるでピン!とこない。
冷凍など、長期保存手段の無い(知らない)世界なので、内陸部になると生の新鮮な魚などに お目にかかる事などはまず有り得ない。
なにせ、イスヤリヤ王国では、魚は干し魚が一般的である。
トゥナなら時々、トゥナ・ジャーキーが出回る程度だ。
他は、塩漬けか、砂糖漬けである。
砂糖漬けにもなると、砂糖が高級品なので、べらぼうに高くなるのだ。
なので、リクツネフに来るまでは、ナディー達にとって新鮮な魚とは、高級食品だったのだ。
海沿いならまだしも、内陸部では干し魚しか無いのは当たり前である。
まだ保存方法が確率していないのだから、仕方がない。
この世界では、『冷やして長期保存』という概念が無いようだ。
「とにかく! 桃色珊瑚亭だ!」
「「「「ももいろさんごてい・・・」」」」
「わ、分かったわよぉ・・・
じゃあ、その桃色珊瑚亭に行きましょうよお?」
「おう! 刺身を食べるぞー!
桃色珊瑚亭へ、レッツらゴー!」
「「「「おおおお~~~・・・」」」」
1人ドキワクなトロだが、他の皆んなは半信半疑。
先日食べさせて貰った『シャパ寿司』は、確かに美味かった!
だが、巨大な魚トゥナの生肉(刺身)なんて、どうしても想像がつかない。
なにせ、魚と言えば『干し魚』が当たり前なナディー達なのだから、これもまた仕方ない。
とにかく、トロが意気揚々と自信たっぷりに美味いと言うのだから、仕方なく付いて行く感じだった。
そして、捌き屋のお兄さんから聞いた『桃色珊瑚亭』に到着。
・⋯━☞桃色珊瑚亭前☜━⋯・
「ふむ ここが、桃色珊瑚亭か!
なるほど! いっぱしの料亭って感じだな!」
「「「「はあ━━━・・・」」」」
ナディー達は、ポカーンと口を開けて見上げる。
それもそのはず。
桃色珊瑚亭は、魚料理がメインの店である。
看板には『モモイロサンゴテイ』とカタカナで書かれており、その両サイドには、魚のオブジェが飾られている。
いかにも、『魚料理の店だ!』と言わんばかりのド派手な看板の割には、とても質素な感じのする素朴な佇まい。
まるで、昭和の学校の木造校舎を思い浮かべる古風な造りで、大きな街リクツネフには場違いな雰囲気を醸し出していた。
しかして! 場違いな古風な雰囲気それこそが、トロには老舗料理亭ってな感じがしてワクワクするのだった。
「うんうんうんうんうん! いい雰囲気だな!
よしよしよしよしよし! じゃあ、入ってみようぜ!」
「「「「・・・はい」」」」
1人ウキウキするトロだったが、ナディー達は静かなもので、従魔達もまるで興味なさげな面持ちで付いて店に入った。
なにせ従魔達の主食は『肉』である。これも、仕方ないこと。
すると、まるで早乙女の様な格好をした魔族の可愛らしい女の子達が出迎えてくれた。
・⋯━☞桃色珊瑚亭☜━⋯・
「「「「いらっしゃいませぇ━━━っ!!」」」」
「うほほぉ━━━っ!! いいねいいねぇ~~~♪」
「「「「・・・・・・」」」」
「何名様でしょうか?」
「えっと、一般5名と、従魔7名です」
「はい! では、座敷の方はいかがてしょうか?」
「座敷っ?! はいはいはい! そちらでお願いします!」
「畏まりましたぁ~~~!
では、ご案内します~~~」
「はい~~~♪」
「「「「・・・・・・」」」」
ゾロゾロ・・・
トロは、店員の後をついてワクワクしながら歩く。
その後を、ナディー達もソワソワしながらついて歩く。
そして案内されたのは、屏風の様な敷居に区切られた畳敷きの部屋で、まさに和風!な小部屋だった。
・⋯━☞座敷の一角☜━⋯・
「うおおおおおお~~~! 懐かしい!
この雰囲気、良いねえ~~~♪」
「「「「・・・???」」」」
「では、こちらへどうぞ~~~」
「は~~~い♪」
「あ、お履き物は脱いでくださいね~~~
座る時は、そちらの『座布団』の上に座ってくださいね!」
「はいはい ほら、お前達も脱ぐんだぞ?」
「「「「はい・・・」」」」
ゴソゴソ・・・
トロにとっては、見慣れた光景に、慣れた仕来りではあるが、ナディー達には見る物する事全てが初めての体験である。
なぜこの異世界に、日本風な造りの部屋に、日本風の仕来りがあるのか?なんて疑問も湧くところだが、ここは深く考えない方が事は上手く進むものだ。
そんな事を考えていたら、なぜこの世界に日本語が通じて、日本語の文字が使われているのか?と、次から次へと疑問が湧いてくるが、一々考えていたらキリがない。
トロのやり方を見様見真似でするナディー達。
従魔達も、黙々とトロと同じようにする。
座敷に上がると、トロは座布団を皆に1つずつ手渡し、先ずはトロが座布団を手頃な位置に置いて、その上に座って見せた。
ナディー達と従魔達も、トロの真似をして座布団に座る。
トロが胡座で座るものだから、他の皆んなもトロの真似して胡座で座った。
みんなスカートなので、パンツ丸見えである。
おっと!いけねぇ! と、思うものの、さてどうしたものか。
トロは、ナディーにだけ座り方を注意しようか迷ったがやめた。
なぜナディーにだけ? ナディーは元々女の子だったから?
『パンツ見えてるぞ 女の子は胡座で座るものではない、正座しろ』
とでも言うのか?
でも、今は皆んな女の子だろ。
ナディーにだけ注意するのは、おかしいのでは?
第一、ここは異世界だ。
日本の常識なんて通用しないし、押し付けたって意味が無い。
それに、なぜナディーにだけ座り方を注意するのかも説明するのが面倒だった。
そこでトロは、慌てて異空間収納内で『種生成スキル』を発動!
種生成で作りだしたのは、『ブランケットの生る豆の種』だ。
トロは、異空間収納内で、ブランケットの生る豆の種を栽培して時間魔法で早送り!
できた『ブランケット』を皆んなに1枚ずつ配った。
そしてトロは、自分のブランケットを胡座をかいた膝の上に乗せた。
これでパンツは見えないはず。
皆んなも、『???』だったが、トロと同じようにしていた。
ナディーに、『これは何? 何のため?』と聞かれたが、パンツを隠すためとは言わずに、『これが座敷で座る仕来りだよ』と適当に方便。
ま、仕方ないだろう。上手くパンツの事を言わずに説明するのは面倒だったので、そう言って誤魔化した。
今は仕方ないが、後で店を出てから、ブランケットの使う意味を説明する事にしよう。
後にどの店でも座敷では、座る時は男女関係なく、『ブランケット』を膝の上に押せて座るのが当たり前の光景となったとか。
ちと、意図が誤って伝わってしまった仕来りだが、困るのはトロだけなので何も言うまい。
「こちらが、お品書きです」
「あ、はいはい!」
「「「「・・・」」」」
トロは、数枚の品書きを受け取ると、皆んなに配る。
そして品書きを開いて見てみると、大きく期待を裏切る、トロを酷くガッカリさせる物が並んでいた。
「なっ・・・・・・なんだこりゃ?」
「「「「・・・・・・・・・」」」」
トロは、やっと刺身が食べられると思ったのに最後の最後に、崖っぷちから突き落とされる心境に陥った・・・
和風なお店、和風な店内、そしてお品書きで見たものとは・・・




