旅立ち 【タク】
「旅がしたい」
幼馴染のサヤは村一番の美人。
顔良し、スタイル良し、運動神経良し、教養う~んまあまあ。
活発な性格でどこに行っても人気。
ちょとした良家の生まれの3男4女で末っ子、順調な少女時代を過ごしたサヤ。
勝ち組で順調過ぎで退屈になったのか、更に未知の物を見たくなったのかは判らない。
「旅に出たい、知らない土地を彷徨いたい。冒険がしたい。探検をしたい!」
子供の頃から山やら川やら探検ばっかりしていたサヤ。
成長しても衰える事を知らず、旅の商人に押しかけてはついて行くと言って、周りに止められる事の繰り返し。新しいものを観ればきゃあきゃあと喜び、好奇心はおさまる事をしらない。
「旅をしたい。どこまでも行きたい。聞いただけじゃ満足出来ない。実際に行くのよ」
日に日に美しくなるサヤ。
村中の男がサヤに夢中だった。告白されるなんていつもの事。その中には良い男、優良物件も。
でもサヤは『手が届くもの』には見向きもしない。『知ってる者』にも見向きもしない。
幸いにも家の跡継ぎは解決している。長兄いるし、長兄が倒れてもその次もいる。サヤは気楽だ。
「あー 旅したい 旅したい 旅したい!」
サヤの結婚願望は『白馬の王子様』
ある日突然目の前に現れる未知の優良イケメン。
だから、子供の頃から知ってる村の男には見向きもしない。
それどころか、ちょっと離れた地域のちょっといいご子息すら対象外。良家の見合いすら蹴っている。相手を見たことあるし。
「旅に出るわ」
遂にX-day。
置き手紙をしたサヤは夜中に村を飛び出した。
こっそり、幼馴染の僕にだけ別れの挨拶をしにきたサヤ。
慌てた僕は闇に消えようとするサヤを追いかけた!
村を外れたあたりでサヤに追いついて、僕はサヤに説教と説得をしたけれども、サヤは折れなかった。折れる気配すらなかった。
「私は行くわ。悲惨な事になっても後悔しない。危ないのは承知の上よ。それでも行くの!」
何を求めているのか、何を期待しているのかさっぱり判らないが『行かない』と言う事はあり得ないらしい。まったく、アテも無いのに・・・
サヤは美人すぎる。
一人旅なんて無理。
僕は決断した。一緒に行く!
一度家にいろいろ取りに行くから、見つからないように木の上で待っていてと、サヤを木の上に登らせて大急ぎで村に戻った。
置き手紙をして、お金と旅道具と少しの服を持って木に戻ってくれば、サヤは居た。
僕を撒いて居なくなったかと思ったが、ちゃんと待っていてくれた。
「遅い、行くよ!」
文句を言いながらも僕を待っていてくれた。
僕も警戒されるべき「男」なんだけど、警戒されてないのは男として嬉しく無いが、待っていてくれたのは嬉しい。
僕がサヤを好きなのはサヤも知ってると思う。というか、男共みんなサヤが好きだったし。
「でも、タクは私を押し倒さないでしょ」
「変な事したらタダじゃおかないから」
「話し相手も欲しいしね。男避けよろしく、タク!」
旅。
最初の町はスルー。
故郷と近い町は知り合いが居るから寄らなかった。
矢でウサギを仕留めて夕飯にした。
僕らは幼い頃から弓や銛が使える。
刀も使うが、あくまでも最初は弓と銛を使う。刀が使えるのは獲物との距離を詰めてからだ。
森の中の無人の小屋に入り、夜を明かした。
小屋に板場なんてない。
薪の小枝を地面に積み広げ足でガシガシ踏み、痛そうな物を潰して袋を枕にして即席寝床を作る。朝になったらまた積み上げなければいけない。それは次に来た人のため。
自分で焚いて使った分は朝補充するのは森小屋のルール。
「子供の頃思い出すわね」
サヤと寄り添って寝るのは子供の頃以来だ。狭いし寒いので僕の左半身にサヤが覆い被さっている。僕を布団がわりにしてる。こんなでも僕が襲わないと信じてるサヤ。
両手でサヤの背中を抱く。このくらいは許して欲しい、たまにサヤが落ちそうになるし。
柔らかくてエロいサヤの感触。
でも、なにもしないから蛇の生殺し。ツラい。
「あー立ってる」
誰のせいだ!
折角紳士にしてるのにサヤは!
反撃に背と脇をワシャワシャしてやった。
「うひゃひゃ」
と悶えるサヤの感触が更にエロい。
そのまま僕らは眠った。
明日もいっぱい歩かなきゃいけない。
寝つきが悪かったので起きるのも遅かった。
何日か経った頃、僕らは『桜花』という都市についた。聞いたことは有るけど来たのは初めて。
僕らは先ず浴場に向かった。
村を出て以来の浴場。
山や森では水浴びは以外と出来ない。綺麗で無臭の水は貴重だし、いい水があっても其所に行くまで泥だらけになるとか、川原が石で歩きやすくてもアブだらけで近寄れないとか、良い条件の場所ってなかなかない。
だいたい良い条件の水場は集落になってるしね。
次は食堂。
久し振りの調味料がついた肉に穀物。普通の料理なのに凄く美味しい! 口の中は天国なのに財布が軽くなる罪悪感・・・
「一部屋でいいわよ」
お金が心細いので二部屋は借りなかった。ベッドは2つだけど。
宿の女将さんが『汚すなよ』とめんどくさい顔をする。宿の旦那は『羨ましいねえ』とサヤを見る。
僕、何もしないんだけど。
「うわーやわらかーい、たいらだー!」
嬉しそうにベッドに大の字になるサヤ。
僕は窓を開ける。空気が動いてないと少し落ち着かない。野宿慣れしたからかな。
久し振りに僕らは離れて寝た。
僕にとっては寂しい。好きな子に抱きつかれるご褒美を奪われたから。
でも、
「タクいれてー」
サヤが布団に入ってきた。驚いた。
これは好かれたのか!
「襲っちゃだめだよ」
がっかり。
久し振りにサラサラになったサヤの髪。臭いも消えた、でもたとえ臭くてもサヤの臭いなら平気だ。
「あ、立ってる」
お前のせいだ!
「タク、ありがとね。ほんとは一人旅が怖かったんだ。襲われたらどうしよう、怪我したらどうしようって。あの日タクに会いにいったのは、やっぱり一緒に来て欲しかったんだ。何も言わないのに来てくれてうれしかったよ」
耳元で囁く優しい言葉に思わずサヤをぎゅっとする。
おっぱいは触った事無いけど、他の所ですら柔らかく気持ちいい肌。この肌極上過ぎ!
「襲っちゃだめだよ」
さいですか・・・
また僕らは旅を続けた。
『桜花』はいい都市だけど、僕らには生き辛い場所。
物価が高い。アルバイトをしてもあんまり稼げない。
進んでる町ほど仕事の専門性が強く、村育ちの僕らは出来ることが少なかった。
永住するつもりで覚悟を決めて頑張れば数年後には落ち着くかも知れない。でも空気があわなかった。
都会では常にサヤの安全を第一に行動しなければからなかったし。サヤは美人過ぎる。
故郷の村に居たときは警戒なんてしなくてよかった。要注意人物が居ない訳じゃないけど、味方の方が多いから苦労はなかった。
僕は僕らの旅に無理があることを感じ始めていた。
僕らは旅の途中、ウサギを狩って食べて、毛皮だけ綺麗に洗って干し、町に着く度に換金した。
当然、矢は超細く長いものになった。細いのは毛皮の傷を小さくするため、長さでウサギが逃げにくくするため。威力を落とさない為でもある。
たまにサヤが自分用の毛皮が欲しいとダダをこねたが、すりすりしてる所を没収して売った。
何度めかの町の宿。
久し振りに屋根のある夜。
いつものように一部屋。
いつものようにサヤと寝る。
僕は天井を見る。
僕らは小さい頃は兄妹のように過ごした。べったりするなんて当たり前だった。ちんこびよーんて引っ張られたこともある。
サヤの裸も何度もみた。つるぺたの頃だけど。
サヤにとって今一緒に寝るのは子供の頃の延長なんだろうな。
僕だって男なんだけどなあ。サヤにとって僕は何?
「タクはタクだよ。幼馴染は他にも居るし、兄妹でもないし、夫婦でもないの。タクはタクだよ。ずっと私のタクだよ」
それがよく分からない。
僕はサヤが好きだよ。こんな密着してたら襲いたくなっちゃうんだから。
「襲っちゃだめだよ。妊娠したら旅が終わっちゃう。お母さんの子だもん、きっとすぐ妊娠する」
サヤは7人兄弟。
実はその他にも育たなかった子が二人いたから9人兄妹。お母さん凄い。
「でもねー誰かひとりどうしても選べと云われたらタクかなー。私がもしもウチの跡取りで婿を取れっ!ってお父さんに言われたらタクだなー」
堪らず僕はサヤに覆い被さった。
背中のしたに腕を回しサヤの頭を掴む。ほっぺとほっぺを合わせ、暫くして口付けした。
サヤはそのまま口づけを受け入れてくれた。
僕は口づけしながらサヤの寝間着かわりのシャツに手をかけた。
これから長年夢見ていた時間が始まる。
サヤの息も乱れきっている。
「タク、ああっ、タク!」
サヤの細い腕が僕の背中を掴む。僕の唇を執拗に求めたり頭を抱きしめたりを繰り返す。
もうサヤは僕のものだと思った。
もう間違いない。サヤはこれからの僕を拒まない・・
「タク、子供ができちゃうわ」
サヤの動きが止まる。
サヤは旅を捨てきれていなかった。
サヤは快楽に落ちかけてた。
でも踏みとどまった。
立ち止まったサヤの心を押しきる為に、僕は思い切って結婚を申込んだ。好きな事は何度も言っている。
サヤが欲しい。
サヤの全部が欲しい。
事情もあった。出来れば村に連れ帰りたいが、それは一旦保留で口には出さない。
今はいい、冬になったら住みかがないと辛い。野宿なんて続けられないし、獲物もとれにくくなる。
住みかがあったとしても、蓄えがないと冬を越せない。最悪中の最悪、サヤは身を売らなければいけないかも。
最善は今のうちに故郷に引き返す事だ。最悪、いまフラれても。
サヤが身体を起こす。
寝ている時より美しい身体。着やせするタイプだったのか隠していたのか、極上の身体。
絶対に手放したくない。
僕も身体を起こし、上半身裸になり、サヤに抱きつく。肌同士の異次元の気持ちよさ。
それはサヤも同じだったようで、また快楽に沈みはじめる。
しかし、決定的なところまでは辿り着いていない。
だけどサヤは両手を踏ん張って快楽と僕を押し離した。
唖然とする僕を置いてサヤはベッドから降り、ベッド脇に置いた袋の中から硬貨をひとつとりだした。
「賭けをしようタク。これの裏表で決めるの。勝ったほうの好きにするの。
私の未来はこれに決めてもらうの。常に最適なものを選びながら生きるなんて私らしくないわ」
「タク、どっちにする?」
僕が紋章側。
サヤが数字側。
サヤは硬貨を高く弾いた。