第9話 再会
天帝の執務室には、天帝、皇后、特魔四人と四天龍が揃い、瑤迦の帰りを待っていた。
若い三人の特魔たちが「そろそろかな?」「ったく、遅い!何してんだぁ?」
「支度を整えてるんですよ。山登りで汚れているでしょうから。女心というものです」
「そんなこともわかんないの?炎迦」「なんだよ、じゃーお前は女心がわかるってのかよ、雷迦」
「炎迦よりはね」とガヤガヤ話をしているのを見た天帝は「やかましいぞ、お前たち、静かに待てんのか」と睨みつけた。
その時、扉の向こうから侍従の「瑤迦様のお支度が整いました」という声が聞こえた。
「入れ」という天帝の声に、扉が開き、瑤迦が入ってくる。すすとほこりを落とし、紫の特魔の正装をして化粧をした瑤迦は美しかった。
天界一の美女と謳われる美貌は変わらずで。
「お待たせいたしました。特魔隊、瑤迦、ただいま戻りました」という言葉に、その場にいる全員が顔を綻ばせ、大きく頷いた。
そして、瑤迦は天帝の前まで行き、帰還の報告…ではなく、ありったけの文句を言った。
「ふっざけるんじゃないわよ!クソジジイ!天界に還った瞬間落としてんじゃないわよ!浄化も身体を慣れさせるのもここでもできんでしょうが!」
顔に似合わぬ口の悪さも健在だった。そして、その場にいる全員がやっぱりこうなるのか…変わってない、と思ったのだった。
皇后の鈴だけはニコニコしてその光景を楽しそうに見ている。
龍たちは誰も瑤迦を止めようともせず、むしろもっと言ってやれといったふうな顔で瑤迦を見ていた。
さすがに天帝が可哀想になってきた特魔たちはどうしようかと視線を交わし、やれやれ、と動いたのは流迦だった。
「瑤迦!お帰りなさい」と天界一の美男子と言われる流迦の声に瑤迦の動きはピタッと止まった。振り向くと、
流迦はおいでと言わんばかりの笑顔で両手を広げていた。「瑤迦」ともう一度流迦の声がする。瑤迦は一目散に駆け出し流迦に飛びついた。
「ただいまっ」流迦は優しく瑤迦を抱きしめた。その光景を見ていた迅迦は、ほー、やっぱりすげぇなあいつらと感心したように言い、
雷迦は天界一美しい抱擁だねっと無邪気に言った。その声にハッとした炎迦は慌てて流迦と瑤迦を引き剥がしにかかった。
同じように二人を引き剥がしにかかろうとする影がもう一つ。次の瞬間、炎迦は流迦の腕を引き、
飛龍は瑤迦の襟を後ろから引っ張り天界一美しい抱擁は終了した。
一方では「ちょ、何すんの、飛龍」「うるさい、黙れ、離れろ」「なんで怒ってんの?」「怒っていない」という会話。
もう一方では「そんなに妬かないでください、炎迦。あなたのことも大好きですよ、ほら」と手を広げる流迦に「違うっ!やめろ!」という炎迦。
やっといつもの光景が戻ったな。やはりこうでないとな。と、一気に明るくなった雰囲気に目を細め、
この先もずっとこうであることを願った天帝だったが、一つ咳払いをし、「そろそろ良いか?」と切り出した。
「数日前から、我龍山の方が少し騒がしい。瑤迦、還ってきたばかりで悪いが、近いうちに龍たちと見て来て欲しい。龍穴の方も」
「かしこまりました。本当に休んでる暇ないわね」
「すまんな。龍たちとそなたが適任だと思ってな」
「大丈夫です。留守にして多分バリバリ働きますよー」という天帝と瑤迦の会話に炎迦が思わず口を挟んだ。
「瑤迦と龍だけで行くのか?危なくないか?」
「五人もいれば大丈夫よ」
「でも戻ってきたばかりだろ?」天人の中でも瞳の色に応じた特殊魔力をもつ特魔は戦闘力が高い。
幼い頃から戦闘訓練もいけているので武力も相当のものだ。必要以上に心配をしている炎迦を天帝も不審に思ったのか、
「何か、気になることでもあるのか?」と尋ねた。
「何が、っていうわけじゃねぇんだけど…」歯切れの悪い炎迦の返答に流迦も口を開いた。
「警戒しておきましょう。炎迦の野生の勘は当たりますから」天帝も瑤迦も納得し、
「分かった。では、通常業務と同時進行で頼む」「何かあったらすぐ呼ぶね」と答えた。
天帝は続けて、「それとな、特魔が全員揃った故、全ての兵に現状を伝えておきたい。今後はいつ戦になるかわからぬからな」と話した。
「全ての兵ですか?」特魔最年長の迅迦が尋ねる。天帝は眉一つ動かさずに
「全てだ。外宮、内宮、近衛、そして天龍軍もな。明後日辰の刻で良いだろう。こちらは迅迦と雷迦に任せて良いか?不審人物の洗い出しも合わせて頼む」
と言い、迅迦と雷迦も「承知しました」と答えた。「仙界の方は鈴、そなたが」「かしこまりました」と全員の役割が無事決まった。
天帝が解散と言おうとした時、瑤迦が口を開いた。
「天帝、一つお伺いしたいことが」何を聞かれるかわかっているのか、天帝は余裕のある笑みで答えた。「なんだ?言ってみろ」
「私は、本当に特魔に戻っても良いのですか?」
ようやく天界の仲間と再会できました!
この後どうなるのか…