第61話 誕生
その日、風龍族の里で一つの産声が上がった。
パタパタと産屋から女官のかけてくる音がする。
「長さま。ただいまお産まれになりました」
白蓮はそうかと告げ、静かに言葉を継いだ。
「して、どちらだ?男子か女子か」
女官は頭を下げたまま微かに手を震わせて答えた。
「……女子でございます」
その時自分がなんと答えたか、白蓮はいまだに思い出せない。
そうか、と言ったかもしれないし、何も言わなかったかもしれない。
覚悟をしていなかったわけではない。だが、産まれた赤子が女子であったことで、一つ確実に決まった未来を受け入れることができなかった。
自分の娘がもう間も無く死ぬことを。
フラフラと館を歩いて気づいたら赤子の泣く声がする部屋まで来ていた。
白蓮は扉の前で一度深呼吸をし、尋ねた。
「私だ。入って良いか?」
「どうぞ」
部屋に入ると赤子を抱いていた女官が、近づいてきた。
「どうぞ抱いてあげてくださいませ」
赤子の母親が牀から白蓮に声をかけた。白蓮が抱くとそれまでふえふえと泣いていたのに泣き止み笑顔を見せるのも白蓮には喜んでよいのか悲しんだ方がよいのか複雑な気分だった。
「あらあら、瑤はお祖父様のことが大好きなのね。お父様でも泣き止まなかったのに」
赤子の母親がくすくす笑いながら言った。
「瑤……?」
赤子の母親が頷いて答えた。
「その子の名前ですわ。美しく愛らしい珠のような子に育つように。私が決めました」
すっかり我が子を守る母親の顔になった娘をみて、白蓮は、そうか……と言うことしかできなかった。
現在時間を見つけて頑張っております。
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