第58話 行方不明者
「そんなことより、昇。姫様が生きていたことよくも今まで黙っていたな?」
父の言葉に昇龍は悪びれもせず当然のように答えた。
「天帝の命でしたので」
「合格だ。だが、全員がお前のように言わずにいられたのかな?」
父の言葉に昇龍はピクッと反応し、眉根を寄せた。瑤迦が人界で襲われた時からその可能性も考えてはいた。瑤迦の転生を知る者はごく少数の瑤迦と関係の深い者だけ。もしそんなことをする者がいたとしたら瑤迦だけでなく天帝への裏切り行為。昇龍は一人一人顔を思い浮かべたが、たとえ拷問されたとしても口を割るような者は一人もいなかった。しかし、この父が何の理由もなくそんなことを言うとも考えにくかった。
「何か気になることがあるのですか?」
「天帝からはまだ動くなと言われているから何も手を打ってはいないが、どうやら敵方は天人だけでなく、我ら天龍族にまで手を出してきたようだぞ」
昇龍はその言葉に息をのんだ。龍族は総じて誇り高く、基本的にそれぞれの族長の命にしか従わない。気に入らなかったら天帝の命でさえ跳ね除けるほどだ。故に統率が取れていて、戦場が荒れても龍軍が乱れることはない。それが―。
「確かなのですか?それは」
「龍族の中で、何人か行方のわからない者がいるのは確かだ」
「しかし…」
「無論確証はない。だが各族長の見解は一致している」
「ですが、龍族を引っ張ることのできる者などそうそうおりませんが」
昇龍の父はふーっと長く息を吐き、ゆっくり、静かに告げた。
「地位も名声も人望もあり、説得力のある者…お前たちや、特魔も当てはまるな」
久々の投稿になってしまいました…
転職や身内のバタバタもあり、もうしばらく飛び飛びになってしまうかもしれません…
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