☆冒険者になりたい☆
「うっわ! ヤバ!」
街、ナッサ。ここは大分大きな街である。
中央に闘技場があり、回りの人の肩になんか乗っかってる?
精霊みたいな?
「あれ? 英雄様の御帰還だ!」
男の子ひとりがそう叫ぶとおじさんに群がってきた。
その一人ひとりに話しかけていく。ちゃんと把握してあげているらしい。
「お? 大きくなったな、お前も」
「でしょー!」
「子供は元気かい?」
「英雄様の下さった薬草のお陰で大分」
「それは良かったよ!」
人気者らしい。
まーね。優男だもんね~!
街のみんなの現状報告を聞いてうれしそうだ。
「英雄様! そこの女の人は?」
「そういえば名前も聞いてなかった。何て名前だい?」
え!? なまえー?
名字はない方がいいよな?
んー、女の子の名前……。桃華、陽葵、芽愛、凛、咲茉とかか?
俺の後輩の娘の名前だけど……。
結婚もしてないヤツを結婚式だけ呼ぶな!! 悔じい~!
しかも、そういうときに限って「司会オナシャース!」とか言われるんだよー!
イライラしててもしょうがない。なまえは──
「芽愛」
「メイか?」
結局、芽愛にした。なんか、あの娘が後輩の娘に似てたから。
そういやアイツ、遠方に引っ越したな。今となっては連絡すら取れないけど。
「そうか。良い名だな!」
格好良く、歯を見せて笑ってる。
くっそー! 俺なんか平均の顔立ちだったのにー!
なぜか彼女も出来ずじまい。今世では彼女作るぞー!
でも今少女の姿なんだよなー。自分を好きになれば実質彼女だろう。自分を好きな方が良いしそういう方向で考えよう。
気を取り直して、
「改めてこんにちは」
一応頭を下げる。顔を上げて微笑んで見せた。どうよ、この社交タイプ代表の挨拶は。
ま、見知らぬ人にあったからね。これくらい常識──
「な、何て礼儀正しいんだ?」
「良い生まれっぽいのにね」
等と騒ぐ始末。ええ? めんどっ!
それは置いといて、肩のはなんですか?
「服はどうしたんだい?」
ちらちらと俺を見る。やっぱ気になるよね~。
だって白いシャツとショートパンツだもん。
なんなら太股の9割近く魅せてるし。
はいてないといっても過言ではないし。これ服は自給自足ですか?
かなり転生者への扱いが適当だ。
──もう一度、肩のはなんですか? 小動物みたいで可愛い。
そうだなー、何て言い訳しよっかなー。小動物っていうより鳥かも?
「ああ。じつは──」
もじもじしながら言ってみた(作り話)。
「─────まさか、追い剥ぎに……」
「余程豪華な服を着ていたのだろう」
は? ナワケ。
何度も言うが一般市民だ。敢えて言うなら独身貴族だけど。
いつ聞こう? 聞く機会を誤ったっぽい。
「ごめんなさい、家出して……」
と言うことにしておこう。
これですこしお金が欲しかったと言う設定が出来上がった。
つまり、そのせいでわざと高い服を持ってきたと。
我ながらいい言い訳だろう。
「ああ。ルーフ家か」
「家出したと言う話だしな」
「コラ。あまり言うでない。ならば俺の家で引き取るぞ?」
おおー? なんか俺を差し置いてはなしがすすむぞ~?
この乗りは乗らねば。魔法、使いたいし? 肩のも気になるし?
「よろしいのでしょうか? でも、迷惑になっちゃうし……」
「良いに決まってる。じゃあな、皆の者!」
「「「英雄様、万歳! ナッサ万歳!!」」」
大きな声でみんなでそう言っている。人望は厚いらしい。
そして、ついたのはこれでもかと豪華な家。
窓でかっ! 机ながっ! 椅子ふかふかー!
すこし、働きすぎたのかな? 職場のカタイ椅子が俺に合うのだ。
だが、そんなのとは無縁のジェイシー (女子中学生)ボディー。
年齢差ってすごいんスね! 勉強になります!
「そう言えばちゃんと自己紹介していなかったね。
俺はヴァハグン。ヴァハグン·ルーフだ」
ルーフ? な~んか、聞いたことがあるような……。
「……メイ、きみはどこの国出身だ?
何でそんなステータスを持っているのに『清霊族』を持たない?」
ぎくぅ! 何だその質問責め!
このままじゃ、信用を失いかねない!
でも、いつものように情報が出てこない。
たぶん、スキル関係のみなのだと思う。ともなるとこの世界の情報を一切持っていない今何も言えない。
適当に言ってもいいが、墓穴を掘るだけだろう。
「…………」
くっ、なにも言えない! 良い言い訳はないか!?
「ま、異世界人だもんな。そりゃわかんねーよな」
ん! バレてた!?
穴があったら入りたい!! さっき掘っておけば良かった。
「それなら、メイ、きみのスキルは圧倒的に冒険者向きだ。
お金稼ぎにもなるし、何より他国観光しやすいぞ?
なってみないか?」
え? まって、すげー、そそられる!
実家の本棚なんて、下手な図書室並みに本が収まってたからね!
なかでもお気に入りコミックスで、冒険するヤツあった!
その影響で異世界転生したら冒険者になりたい、って小学生の卒業文集に書いたからね!
……親に怒られたけど。やめたほうがいいよ~ (経験者は語る)。
「……なる。やってみる!」
この流れを逃したら冒険者になりづらいきがする!
なんか、こう、そう、ん~……。特にはないっ!!
「まさか即決するとは。
異世界人の世界にもあるのか?」
ないっスよ?
それは、中二病の奴らはあると思ってるかもだけど、ジャングル開拓とか、そんなの身近には少なくともいなかった。
俺は少なくともそこまで発展していなかったよ?
魔法使ってみたいなー、程度で。
伊能忠敬さん並みの猛者じゃないとやろうとは思わないと思うな。
「じゃ、登録からだな!」
ほほう? 異世界ファンタジーあるあるの冒険者登録か。
つまりは、誰かを倒すことになるだろう。
ギルド、楽しみだなぁ!
「────ここが、冒険者の拠点、ギルドだ」
ふむ、やはりギルドか。ならば、俺と同郷者が作ったのかな?
「おいおい、エイユウサマがこんな幼女をつれてくるなんてなぁ?」
お? 絡まれたぞ? ま、そりゃ、私みたいなジェイシーが来たら絡むわな。
流石に、服装は変えたんだけどなぁ。いや、好きであんな薄着してたわけではないよ?
転生したらそんな姿だったってだけ。
今は、ダボダボの服だ。顎に手を当てて考える。
そのついでに今の自分の姿を思い浮かべる。
鏡で見た俺はツヤのある黒髪ストレートに、大きな黒色の瞳、白い肌。そこに小さな薄桜色の唇。
うむ、完全な美少女だ。
それは街行く人皆に二度見されるわけだわ。
白い肌は貴族の証なのだろう。
何故なら、見た目にまで気を回せると言うことなのだから。平民ならば健康までで精一杯と考えられる。
さてと、本題に戻ろう。
何の部にはいろう? パソコン部出身のこの俺だが、この世界にパーソナルコンピューターという人類の叡知は存在するのか?
流されそうになった。部と言うのはその部じゃない。
『討伐』『探索』『商売』の3つか。
ん~、スキル的には『探索』か? あ、でも、殺鬼剣があるから、『討伐』もありか。
もちろん、この世界に来たときは持ち物ゼロだったからな。
スマホもないし。どうせ圏外だけどさ!
「ん! 討伐にする!」
「おいおい嬢ちゃん、君みたいのに出来るもんじゃあないんだよ?」
それはそう。剣とか中学と高校で剣道のとき少ししか触れてない。
だからと言って魔法も使えないし、スキルに頼らなきゃ行けないのか。あと1個空きはあるけどさ。
「大丈夫さ。俺の見定めに間違いはない!」
やめて? 勝手なフラグ建設ありがとうござます。
それさ、良くないなぁ。
俺負けちゃうよ? こう言うのってオーガとかの鬼系か、巨人系だよね? 舐められるの防止に。
ふむ。スキルを使ったゴリ押しでもいけるだろう。
「骨は、拾ってくださいよ?」
「ああ。判ってる。じゃ、Bランクの試練頼む」
は? なに? ABCになってんの?
じゃ、Bって結構上じゃね?
前世の知識を使うと結構アホな選択だったかも?
「君の魔力量はハンパない。潜在魔力と、異世界転移時の魔力吸収でな」
ん? 良く判らんぞ?
ま、つまりは殺鬼剣が使えるよ、という解釈でいいだろうか。
「あのね、嬢ちゃん。年齢制限はないのだけれども、危ないよ?」
ま、それはそう言うわな。受付の人なら。
俺だったとしても仕事は増やしたくないから断る。あきらめるように言うだろう。ただ残念だな。中身は労働と搾取を経験したお兄さんだ。
「判ってる。英雄様に情けない姿は見せられないからね」
後ろのヴァハグンを見る。
「……そうですか。
では、怪我などの責任は一切ギルドは負いませんが宜しいでしょうか?」
「ああ。問題ない」
サインをする。……あれ? 文字は、ああ。言語学者の陰的な効果で書けたわ。
なんか、フニャッとしてたり、カクッとしてたり。
なにこの字。マンガとかではあるあるだけど書けって言われたら変な感じ。
「これで良い?」
「ええ、ありがとうござます。ではこちらへ」
木で作られた廊下は寒く、今の季節は判らないが、秋っぽい?
前に歩く受付の人は、寒いのかふるっと震えた。
「では、お入り下さい」
身体は震える。
緊張? 恐怖? いや違う。武者震いだ。
必ず勝つ!
俺はそう、決意した。
ドアの奥の白い明かりに目を細めたのだった。