☆黒い穴・2☆
規則的なコツコツという音が耳障りになってきた。
その事実だけでどれほど歩いたのかを感じられる。
そしてこの広大な裏世界とも呼ぶべきフィールドで、大きな扉が見えるようになってきた。
「ここなのですか?」
ギルドマスターは迷わずそう口に出した。
「あぁ、間違いない! ここが大聖堂だ」
そう、清霊が口にした瞬間、俺のレイピアを美しい所作で抜いた。
そのままその核を適切に刺し貫いた。
「嘘を付くなよ」
バラっと体が砕け散る。
「何をしているのですか?」
メルがそう聞く。
「嘘つきは死んでもらわねばいけないのですよ」
多少は情を捨てられなければギルドマスターにはなれないということだろう。
俺は手に刀を創製する。
「なるほど、近寄ってますね」
俺はメルに目配せをする。
彼女は小さく頷いて、彼女も警戒態勢に移行する。
人の気配を感じる。
大扉の番人を務めるような化け物がいるのだろうか。
それならば本当に人なのだろうか。
「後ろに飛べっ!!」
いきなりの命令に思考よりも先に体が宙に浮く。
振り返ると大きな体の外縁が見える。
地面から大岩が隆起する。
「メル!」
メルはすでに敵に近づいて攻撃の直前だった。
そんなメルを気にせずにこちらに向けてその拳を叩きつける。
「あぶねっ!」
大聖堂を守る、大扉の番人。
岩の体、巨躯、そして翼。
それはガーゴイルである。
武器を持っていないガーゴイルなどいるとは思わなかった。
残念ながら今の『殺鬼刃』では鎚などの打撃属性は扱えない。
そう思っていると、クルクルと回転しながら俺の前にレイピアが投げられていた。
俺は慌てて避ける。
そしてカランと音が響いてそれを拾う。
その隙を逃さないというかのように拳が放たれる。
ロケットパンチのように飛んでくるとは思わずに慌てて横に転がって避ける。
破片が腕に当たってジンジンと痛む。
ピュウ、と音が鳴ってザンッとガーゴイルの腕を切り落とすギルドマスター。
かっこよすぎて泣いちゃう。
俺も慌ててガーゴイルに走って近づいてレイピアでガーゴイルの反対の腕に突き刺す。
メルは指を鳴らさずに風の斬撃を放つ。
清霊を使う魔法は自分の負担が低いが、指笛をする必要があり、多少インターバルがある。
魔術は自分の魔力を具体化することにより短いインターバルと即効性があるが多用はしづらい。
「ダウンした! メイ、ブッ刺せ!」
ハッとして手に持つレイピアを頭に突き刺すためにガーゴイルの体を蹴り登る。
思ったよりアッサリというかぶっさりレイピアが刺さった。
弱点を貫通したことでガーゴイルは動きが止まる。
「よくやりましたね。これだけで昇格モノですよ」
「いや、ギルドマスターの助力あってこそです」
メルが小走りで寄ってくる。
その頭を撫でながら、
「開きましたね……」
と大聖堂の扉を観ながら言う。
「こんな世界にここまでのモノをよく集めましたね」
そのとおりである。
ガーゴイルがいるのもそうだが、ここは古代人か何かが居たのだろうか。
失われた記述であるガーゴイルがいるのはそもそも不思議であるのだから。
そこには古代武具を含む大量の良質な武器、防具が丁寧に手入れされておいてあった。
「戦利品だ、何個か持ってってもいいですよ」
「良いんですか!?」
俺は心底驚いた。
俺には『魔法空間』が行使可能なのだから武器は幾らでも持てるのだ。
だからこそ戦利品は通貨くらいのものかと思っていた。まぁ、この景色を拝めることなど普通の人は一生目にできないだろう。
こんな上質な武具を使えば戦力増強ができることは考えるまでもない。
それを俺に選ばせてやる、と言っているのだからとんでもない報酬だ。
俺はこの大聖堂を見渡す。奥には山積みのマジックアイテム。
手前には一つ一つの武器が美しく佇みながら主人を待っているかのようだった。
マネキンが到底着るような質の防具ではないのもいくつかある。
その中からひとつ美しく発色する紅い服に惹かれた。
「それが欲しいのですか?」
「はい……」
「いいですよ、もともとここになかったと言いなればいいですし。メルさんもも自由に選んでもいいですよ」
その服は見た目と手が感じる軽さからは想像もできないほど攻撃を防いでくれる。
そのまま引っ張られるように武器の場所に移動する。
そこには強そうな双刃斧が置いてあった。
黒色の持ちやすさとデザインを意識した柄。
刃は深碧の星屑のような光沢。
中心に埋め込まれたサファイアが氷を帯びている。
左右対称にデザインされた双刃斧。
なのに片方は打撃、もう片方は斬撃と使い分けができる。
名前は星雲双斧とでも言おうか。
そしてその横においてある短剣。
漆黒の刀身は鋭く、特殊効果で音を消す。暗殺に向けた武器で、一定時間であれば姿すらも消せるという。無づけるならば喪身剣とでも言うと良いだろうか。
厨二心くすぐる名所のようだ。
「私が持てないものは持って帰ってもらって構わないです。なにしろ敵に持たれるくらいなら味方に持っていてもらいたいのですから」
おいおい、いいの?
全部持って帰っちゃうよ?
結局あのあと武器は20個ほど、防具は40数個貰えた。
もうとっくに腕の痛みなど忘れて武器を手に入れてホクホク顔である。
ちなみに魔法空間は面積ではなく、個数制限である。
魔法アイテムのどれが報告すべきアイテムなのかはよくわからないので先にそちらをギルドマスターとしては確保しなくてはならない。
そもそもうちの国は軍隊をもっていない。
どうやって自衛するかと言うと簡単である。
それぞれの街でそれぞれ頑張ってね!という精神である。
もちろん首都は王族が主権の軍を持っているが、そこに果たす義理はないのでギルドマスターもそんなに武器を欲さないのだ。
そうは言ってもさっき3個ほど気に入ったものを懐にしまっていたが、それはおそらく自分用である。
古代のアイテムも一定レベル以下はこっちに回ってきた。
ちなみにメルは魔法カット率の高い防具と炎属性の弓にしたそうだ。
竜骨魔弓とでも言おう。
溶岩の竜の骨をつなぎ合わせているのだが、スタイリッシュな見た目で、矢は自動創成される。
そして標的の絶対追尾、紅炎付属。
勢いの減衰はほぼないそうだ。
「では、出ましょうか」
ん?
入口を創生してもらった精霊はもう死んでいる。
となると帰る方法などあるのだろうか。
「ありますよ」
え? あるの!?
「どうやるんですか?」
俺は興奮してそう聞いた。
ギルドマスターは答える代わりにある魔法にかかった道具、マジックアイテムを起動した。
その瞬間ひどい浮遊感を感じる。
そして景色が眩しくなる。
「おお……!」
「せっかく拾ったワープアイテムなんですよ」
そういえばそうだった。
記憶から消えていた。
今回の目的はそのアイテムを取り返しに行くことだった。
それを使えば簡単に戻ってこれるということか。
「私は王城にいかねばならないですのでお先にお帰りください」
そう言われれば帰らざるを得ない。
「ありがとうございました!」
俺がそう言うとメルは深々と頭を下げる。
そして王城を、王都をあとにしたのだ。
ガーゴイル
正式名称は「聖堂守護の鉄壁手」と言う。
残存する属性は《地》《水》《風》《闇》《聖》の5つ。
鉄壁手が聖属性を持つ。
それは聖なる場所を守護し、その力を与えられたからなのだろうか。
そんなガーゴイルはそれぞれに《槍》《鎚》《鎌》《剣》《弓》《杖》そして《拳》のどれかを得意とする。
ガーゴイルは斬撃が効きづらく、打撃攻撃がよく通る。
貫通攻撃も通るが、魔法や、属性スキルなどは貫通属性を持っていても通りづらい。
大きな翼は空を飛ぶこともでき、戦闘の際に翻弄してくる。
その体からは想像もできないような靭やかで緩慢な攻撃をする。
その技は多くのギルドメンバーを討ってきたのだろう。
しばらくまたあっちの作品を描きます。