☆黒い穴・1☆
黒い穴の先にあるのは石でできた地面だった。
歩を進めるたびにコツコツと音が響く。
赤い清霊はぐんぐんと進んでいく。
少しも後ろの俺達を気にしてないようだ。
浮いている彼は気にしてないようだが、地面は凸凹で、何度もつまずきそうになる。
図体だけのウザ先は段々と披露の顔色に染まっている。
まあ無理もない話である。
ランニングよりも少し早いくらいの速度でどんどん進んでいくのだから。
しかも持っている得物は大きな大剣である。
もちろん戦場では多少なりとも走り回るのだから貧弱だというのがうかがえる。
俺は比較的まだ走れるのだが、まあ中学校の長距離走くらいは走った気分である。
だが灯りが少し奥に見える。
それは松明のようにも見えるが、すぐにその答え合わせはされるだろう。
ドォン、と爆音が鳴り響く。
本気でびっくりした。
英語のテストのリスニングの驚きを思い出す。
数分後にリスニングが始まるのがわかっているというのに、毎回驚く。
あの体が震える驚きを今したのだ。
ギルドマスターは動じることはなかった。
さすがに慣れっこのだろう。
気にすることなくその灯火にどんどん近づいていく。
そして今度は音だけでなく、熱風も感じる。
「間違ったのか?」
ギルドマスターは清霊にそう聞いた。
「間違えたんじゃない。なぜ、そこにいるんだ」
清霊の声は変わらないが、焦りをかんじる。
「ハメたのか!? クソ清霊が!!」
ウザ先がなにか喚いている。
まじでヤなやつだ。
てかアホなのだろうか。
「うるさいですよ」
ギルドマスターはウザ先を注意する。
そんな大声で気付かないのかとゆっくり視線を向けるが、姿が見えない。
「やばい……!」
俺がそう声を発すると同時に隣にいる人間が視界から消えた。
やられたようだ。
俺は慌てて周囲を警戒する。
だが俺よりも先にメルが甲高い金属音を立てる。
戦闘の開幕だ。
おれは大剣を創生して構える。
息を整えて死角をなくす。
来る!
「バレるとは思わなんだ」
おいたのの体から出た攻撃とは思えない攻撃。
体が痺れて驚く。
そして炎をその細身のレイピアにまとわせている。
「ジジィのくせして可愛いもん持ってんな……!」
「あんたは可愛い若者のくせして随分と大きな物を持ってるようじゃな」
次の攻撃でその武器を壊さねばならないようだ。
驚きすぎてスキルを使うのを忘れてしまった。
もったいないチャンスを逃してしまったようである。
いや、俺が次にすべきことは彼を触ること。
俺よりも魔力存在値ともに低いようだから、どうにかしてさわれば倒せる。
それが難しいのだが。
大剣を強く握る。
彼の動きは緻密で把握しづらい。
とんっと地面を蹴ると同時に隣のメルを狙った突きを俺の視界が捉える。
守ることもできずに俺の掌は空を切る。
「メル!!」
俺は叫んだ。
「大丈夫ですわ」
ケロッとした彼女は凛と隣に立っていた。
メルは無事なようだ。
「おほほほ、避けられるとは、のう」
腹立つジジイだ。
「足止めを頼む」
俺はメルに頼む。彼女は小さく頷く。
地面を強く蹴って一気に間合いを詰める。
一歩下がったジジィは俺の動きを細くしているようだ。
その隙にメルが細い指で音を響かせる。
ぼうっと炎が燃え盛りジジイは驚いたのか後ずさる。
俺は魔力の壁で視界が途切れるのを確認して走る方向を変える。そして大剣を投げる。
ブンッと投げられた大剣は炎の壁を潜り抜ける。
俺は炎の壁に突っ込んで視界がこっちを向いていないのを確認する。
魔力感知といってもわかりやすく言えば視界の端が全方位になると言った感じだ。
言い方を変えれば注目できる範囲が超広い。
首を動かさずになのだからもちろんあるかないかでは全く変わるのだが、見逃すこともあるのだ。
今回はそれに賭ける!
バレたようだ。地面に刺さった大剣から対象が俺にズレるのを感じる。
だが、ズレきる前に炎が地面で発火する。
それで飛んで後ろに下がる。
その瞬間、明らかに視界が下に移る。
指先が滑らかな服に触れる。
「シね、安らかに!」
斬っ、背中を十字に裂く。
そして枝分かれして少しづつ細かくなっていく。
血が飛び散って視界が赤く染まる。
減速できずに舞う血に飛び込む。
そのまま転ぶ。起き上がって座る。
「ふぅ」
手の甲で目の周りの血を拭う。
パチンと音が響くと俺の上からとんでもない量の水が降ってくる。
「ひとり消えたな」
レイピアを拾い上げてギルドマスターはそう言った。
その声は妙に感情がこもっていない。
俺に近寄ってレイピアを置く。
「戦利品だ。要らないなら捨てれば良い、ですよ」
"ですます"口調を忘れていたのだろうか。
俺はレイピアを拾い上げる。
これは、『貴重武器』だ。
『独創武器』の一段上の性能を誇り、かなりの強武器だ。
「私達をハメたのか」
ギルドマスターは精霊に向き直り、そう悲しそうに聞いた。
「信じてくれ! 俺じゃない、なぜそこにいたのかさっぱりだ!!」
明らかに俺の手のレイピアを見ている。
「本当なんだよな」
俺がそう聞く。
「あぁ、信じてくれ」
俺は信じることにした。
そして彼は進み始める。
一人消えたパーティは懐疑心を抱いたまま進んでいく。
レイピア
正式名称は『長細片刃剣』である。
細身なその見た目からは想像できない重い一撃を放つ。
特に今回の武器の名は『靈殺両刃剣』である。
清霊を殺すことのできるその武器は清霊の恐怖の対象である。
動きを鈍くして、その活力である魔力を吸い取る。
並外れた技量がなければそれを扱うこともできないだろう。
「古代武具>>女王武具>王武具>>貴重武具>>独創武具>>一般武具」
です。まぁいつかほかのはでてきますよ……。楽しみにしててください!来週はお休みして、再来週に投稿するつもりです。どっちかはわからないですが……。