娘のひろってきた猫が、どう見ても浮浪者のおっさんな件。
会社から帰る途中、嫁からメールが来た。
小学生の娘が、帰り道で捨て猫をひろったらしい。
うちの娘、優しすぎ。マジ天使。
しかし今時でも、捨て猫とかいるんだな。
うちは賃貸だけど、いちおう一軒家だ。
規約がどうだったか忘れたが、ペットを飼ってる家も多い。
新築でなし、たぶん大家も黙認してるんだろう。
「元の場所に返してきなさい」ムーブはしないで済みそうだ。
考えながら帰宅すると、玄関に汚いおっさんが座ってた。
名刺をもらったわけじゃないが、一目で浮浪者とわかるボロ服とスメル。
嫁と娘が止めなければ、確実に通報するところだ。
どういうわけか、二人にはこのおっさんが猫に見えているらしい。
「いや、どう見てもおっさんだろ!」
「まあ、小猫ちゃんじゃないわよねえ」
「パパ、飼ってもいい?」
「ダメに決まってるだろ! 元の場所に返してきなさい!」
嫁と娘に呪いでもかけられたのか。オレの頭がおかしくなったのか。
おっさんが土間に寝そべり、娘のスカートを見上げている。このロリコン野郎。
蹴り飛ばしてやりたいが、猫を蹴る父として娘の記憶に残るのは絶対に嫌だ。
「かわいそうだよー、こんなにカワイイのに」
「やめろ、ほおずりするな!」
「そうね、先にお風呂にいれないと」
「あたし、いっしょにお風呂はいるう!」
風呂場に向かう嫁と娘をイヤラしい目で追いながら、いそいそとパンツを脱ぎ出すおっさんに、思わず「オレが洗うから」と言ってしまった。
オレが猫を受け入れたと思ってはしゃぐ二人だが、そうじゃないんだよなあ。
おっさんの首根っこをひきずり、風呂場に連れていく。
びっくりするほど軽い。やはり猫なのか。それとも痩せてるからか?
シャワーを浴びせると、驚くほど暴れまくる。
手の甲を引っ掻かれた。やはり猫なのか。いや、爪が伸びてるだけか?
風呂掃除用のブラシで、力任せに擦ってやると、やっと悪臭が消えた。
タオルを投げ渡し、自分で拭けと言っても聞く素振りがない。
やはり猫なのか。あるいは図太いだけか?
しなびた股間から目を逸らしつつ、適当にバスタオルで拭いてやった。
小綺麗になったおっさんに娘は喜んだが、おっさんはおっさんだ。
とはいえ、もはや二人は飼う気まんまんである。
オレ一人が抵抗しても、ハブられるのがオチだろう。
親に隠れてこいつを飼うかもしれない。その方が危険だ。
オレは覚悟を決めて、こいつを飼うことに賛同した。
「じゃあ明日、動物病院に連れて行く。去勢しないといけないから」
翌朝、おっさんに見えた猫は、玄関から姿を消していた。
やはりあれはおっさんだったとオレは思うのだが、どうだろうか。