草はらの姫
天から地上に落とされた姫神。
草はらの小川のほとり、小さな社に住まう事を決意した。
不安気な面持ちから一転、覚悟を決めたからには豊かなこの地を治めよう。
己の胸に桜の枝を両手に持ち、そっと目を閉じた。
衝撃の運命。名を変えられ、地上へと落とされた。小さな社の中に居住まいを正す。
これから何をすべきか。
この地を如何様に見護るか…。
固く握りしめた枝に想いを込める。
社の外からは小さな桜の木。
まだ葉すらないその木に向かい力を注いだ。
小さな木は自然の摂理に歯向かうようにぐんぐん空へと伸びていく。
そして葉が繁りやがて蕾になり、満開の花が咲いた。
「この桜の木の様に花が咲き、清らかな小川の水と調和する。ここはいずれ人々の憩いの場になりましょう…」
地上の季節は丁度春を迎える。草木は芽吹き、色とりどりの花が咲きだす。
姫神はこの地を水と豊かな緑の憩いの場にしようと誓った。
きっと天の神もそうせよとおっしゃるはず…。元々の美に磨きがかかっていく姫神を、名前を変えて地上に落とした。
それにはきっと何かしらの意味があるだろう…。
そう考えなければやり切れない想いで胸が押しつぶされてしまう。
そっと開けた目に飛び込んできた桜の花びら。
両手を膝に下ろし、己の枝を優しく撫でた。