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ヴィーシャの愛(6)

 ヴィーシャは晴れた潮風の匂いを吸い込み、息を切らして水路の奥にある荷運び用の船着き場へ向かう。いつもより速く路地を駆け一直線に走った。

 チャービル家の海賊だけが使うことを許された桟橋にマラーはいた。

「何だ、先に行くとか言って、待っててくれたの? 兄さん。だったら途中で軽食でも買って来れば良かった」

「少し時間を潰せただけだ」

言葉と逆のことをするあたりがマラーらしくてヴィーシャは思わず笑みをこぼした。

 今日の母は入江から離れた小島にいるらしい。二人はボートに乗りマラーはオールを漕ぎ出した。そして何かを思い出したのか、マラーは懐から筒状に丸めた書簡をヴィーシャに差し出した。

「アリスタから手紙だ。どうやら陸の上も悪くないらしい」

「そっか。そりゃ良かった」

 ヴィーシャは弟からの手紙に目を通した。

いつの間にか貴族みたいな綺麗な字を書くようになった。

 きっとあいつにもいい女が出来たのだろう。気が強いと噂の女王はきっとアリスタの好みに違いない。

兄たちの生活を案じている文面からは成長していることが伺える。

その成長は嬉しくもあり、寂しくもあった。

「まったく、弟っていうのはこうも生意気なのかねえ。ねえ、兄さん」

「そうだな。俺の弟は三人とも生意気で手がかかる」

「うんうん。ん?」

――――ということは俺も生意気ということか。

 そういえばもう一人の生意気な弟の姿が見当たらない。

「あれ? シヴァは?」

「あいつは酒場で寝ている。面倒だから置いてきた」

 今頃は目が覚めて慌てているに違いない。

 可笑しくて思わず噴き出したヴィーシャの様子にマラーは首を傾げた。

「何だ、突然」

「いや。久々に兄さんと二人で船出できるから、嬉しくてさ。漕ぐの、俺が変わるよ」

 いつもはマラーかシヴァに任せっぱなしのため、オールを受け取ろうとしたヴィーシャの行動にマラーは驚いた表情をした。

 生まれてからずっと見てきた鮮やかで美しい海。この景色はどんな宝物にも勝ると言う海賊もいるし、この千草の国が安住の地として辿り着く旅人もいる。

 エメラルドグリーンの浅い海と白い砂浜。ヤシの木に海鳥。

 目まぐるしく変わる商人たち。決して飽きさせない場所なのに。

 それでも………。

「兄さん」

「何だ」

「いつ、行くの?」

――――それでも、マラーは更に遠い海を目指すのだ。

「東の風が吹いたら行くつもりだ」

 自分の船を持ったマラーは航海に出る。自分で集めた船乗りたちを乗せて東の風と共にこの故郷を去るのだ。


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