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ヴィーシャの愛(5)


 兄と対照的な自分の赤銅色の目が好きではなかった。

 母と兄のような海の色か、ミリアやアリスタのような若葉色に憧れた。

 幼い頃は、目の色がいつか兄のように変わるのではないかと毎日のように水面や鏡を見ていたが、そんなことは起こりえない幼い頃に抱いた儚い期待だった。

 朝になって目を開けると窓から海は見えなくても、兄の鮮やかな目が海の色を教えているのだと気が付いてから、ますます羨ましいと思うようになったのはごく最近のことだ。

 目の色が違うから、きっと望むものも違うのだ。

 マラーは海の果てに取り付かれていた。

 カナンの地を探すため、海の果てを目指す旅に出る。新しい船が出来次第、この千草の国を、フェーリーンを離れるのだ。

――――同じ色だったら、俺も兄さんと同じように旅をしたいと思ったのだろうか。


 夜明けを告げる朝一番の鐘が鳴る音が聞こえた。

ヴィーシャは目を瞑ったまま、両手にリズとソフィアを抱き寄せた。二人の柔らかい肌を感じながら、二人の髪をそっと撫でてやる。

誰かの気配を感じ、深く息を吸い込んだ後、鬱陶しく思いながらも目を開けた。

 ぼんやりと視界に映ったのは腕を組み、壁にもたれかかるのは兄の姿。

オリエンタルブルーの目が、ヴィーシャの赤銅色の目が交差した。

夢か現か、まさか本人が目の前にいると思わず、ヴィーシャはびくりと跳ねた。

「起きたか?」

 当の兄、マラーはあっけかんとしている。

「えっと。今日は起こさなかったんだね、兄さん」

 第一声を言い淀んだヴィーシャは、変に思われていないか取り繕った。

 いつもなら「さっさと起きろ」と散らばった服を投げつけるか、呆れるため息を吐くところだ。

 しかし今日はいつものマラーではない。穏やかな海そのものだ。

「先に行ってるぞ」

 マラーは静かに部屋を出て行った。

 その後ろ姿にヴィーシャは思わず飛び起きた。

 散らばった服を急いで着て、手櫛で髪を纏めた。

 のそのそと起きたソフィアとリズは、目を擦り、ヴィーシャの慌てた様子に驚き顔を見合わせた。

「もう行くの?」

「ああ。今日は兄さんの機嫌がいいからね。久々に張り切ろうと思って」

「あなた、本当に家族が好きなのね」

 くすくすとリズが笑い、ソフィアも釣られて「確かに」と笑った。

「言いふらさないでくれよ。これでも悪い海賊で名前を通していくつもりだから」

 自分でも呆れるくらいその通りだ。家族が好きで、兄弟が好き。

 手放すことが怖くて、臆病。

 だから兄の機嫌一つでこんなにも浮かれてしまうのだ。

「あ、そういえば。一緒に船出する約束だったじゃない」

 ソフィアは約束を反古にされることにわざとらしく頬を膨らませた。

「お土産買ってきてあげるから、許して」

 ブーツを履き、シャムシールを腰に差し、最後に水差しの水を飲み切った。

「ヴィーシャ」

 扉に手をかけたヴィーシャを、リズが呼び止めた。彼女はヴィーシャの頬を叩いた時よりも強い眼差しで、そして優しく笑う。

「あなたは悪い海賊にはなれないわ。いい海賊になる」

「———ありがとう」

 ヴィーシャはソフィアとリズの額にそれぞれキスを落とし、外で出た。

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