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※異世界ロブスター※  作者: Negimono
第三章 転生王妃
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第八十話 議会発足

 次の日、俺たちはムドラストの家に集合していた。彼女の家は族長ということもあり、このアストライア族の中でも随一の大きさを誇る。大広間は、1000年近い時を生きるタイタンロブスターが、気兼ねなくはいれるくらいの広さだ。


 これから、法律を定める議員を招集した議会が行われる。

 しかし、今日この場で行われる議会は、定例のものとは断じて異なる。緊急に招集された、この部族の行く末を決定づけるほどの大ごとであった。それも、たった一体のタイタンロブスターの要望によって成されるものである。


 大精霊ロンジェグイダ、霊王ウチェリト、族長の妹ウチョニー、精霊種の代表アーキダハラ、そして議題に上がっている大英雄の息子ニーズベステニーは、本来議会に席を持っていないが、特例としてこの場に参加していた。


「しかし、どうしてアグロムニー殿は戦おうとしないのだろうか。ロンジェグイダ様やウチェリト様は確かに強力だが、アグロムニー殿の実力ならば、戦っても問題はないと思うのだが」


 ……悔しいが、アーキダハラの疑問はもっともだ。父ほどの実力者ならば、この場にいる全員を殺してでも自分の願いを叶えること自体、まったくの不可能ではない。

 むしろ、正義感が強く法律を遵守するムドラストを言い負かす方が、難易度が高いと言えるだろう。


 それに、俺の父が狂気的な愛を持っているというのは、どうやら森の精霊種には共通認識らしい。400年前を知る者には、俺の父は大英雄ではなく狂人に見えているのだそうだ。


 実際、それも納得ができる。たったひとりの妻を蘇らせるために、数十数百という数の息子娘たちを殺しているのだ。命の重さに差を付けるなと言われればそれまでだが、人数比にしてみれば桁違いである。


 これが事実である以上、父が強行に走り、この場にいる全員を殺して妻との幸せな人生を歩もうとすることも、まあ容易に想像ができる。父の狂気性は、認めたくはないが俺も感じる部分は確かにあるのだ。


「アーキダハラ。とにかく俺たちは、今すぐ戦闘になってもいいように準備だけしておくんだぞ。議会に関しては、師匠に任せておけばきっと大丈夫だ。問題は、父以外の連中gあ暴れ出した時に対処できるかってことさ」


 確かに父が異常者だというのは認めるが、彼も彼で正義感の強い男だ。誠実、と言い換えてもいいだろう。一度否決してしまえば、同じ手段で再度議会を開こうなどというみっともないことはしてこないはずである。彼は、少なくとも今日この場では、戦闘することはないだろう。


 むしろ気になるのは、議会の連中の方だ。彼らは、極端に父と戦うことを恐れている。

 まあ大英雄でありタイタンロブスターの最高戦力であるアグロムニーに、敵うはずがないと思うのは当然のことだ。それを恐れるのは何も悪いことではない。


 しかし問題は、父と戦闘になることを恐れた連中が、逆上してムドラストやロンジェグイダ様たちを襲う可能性があることだ。議会に席を持つのは皆700年以上を生きるタイタンロブスターであり、その力も相当なものだ。


 ムドラストなら大丈夫だろうが、もしものことがあった場合大変なことになる。こちらの主戦力が奪われかねないのだ。議会の連中も、その程度の実力は持っている。少なくとも、俺より強いことは確実だ。


「待たせたな、それでは議会を始めよう」


 皆がそわそわしながら待っていると、最後にその男が現れた。


 この場に集結するフルサイズのタイタンロブスターの中でも、さらに屈指の大きさを誇る者。その大鋏は龍の首をも切断し、その巨体には如何なる攻撃も通用しない。青き大英雄、アグロムニーその人である。


「アグ……では、緊急議会を発足する。議題は、以前からも問題に上がっていた、400歳未満の知能を獲得していないタイタンロブスターに関する、基本的権利についてだ。つまりは、彼らを私たち知恵ありし者と同等に扱うのか、ということである」


 ……アグロムニーの登場に何か一言喋ろうとしたムドラストだったが、父は今やタイタンロブスターの敵である。特に何も言うことはなく、議会を始めてしまった。

 他の議員たちも、これに対して文句を言うことはない。皆アグロムニーが怖いのだ。


「今まで再三この議題は上げていたな。やはり、知能のない者を我々と同列に扱うのは、少なからず無理があると。そこでまず我が提案したのは、400歳未満の知能を獲得していないタイタンロブスターについて、共食いに関する規制を解除するというものだ」


 ムドラストの発言を受けて、父が説明をした。ここにいる全員が議題についてはわかっているが、一応形式的にやらなければいけないことだ。


 しかし、改めて言葉にすると違和感があるな。400歳未満のタイタンロブスターについて、共食いを解放するか……。400歳未満でも、知能を獲得しているタイタンロブスターはいないか? 例えばそう……!


「この議題に対して、私からひとつ反論がある。それはまさに、アグロムニー殿の実の息子、ニーズベステニーの存在だ。彼は約20歳にして、私たちと問題なく会話ができる程度の、高い知能を有している。共食いなどの衝動も、一度も見せたことがない」


 その通りだ。俺という存在そのものが、今回の議題を全否定している。何せ、俺は生まれたその時から知性を持っていたのだ。身体は小さいが、頭の中という一点において、俺は熟練のタイタンロブスターたちと何も変わらない。


 もしこの法律が可決されてしまえば、俺の生存権というものは保証されなくなるということだ。何せ、俺はまだ400歳に達していない。この部族に住む誰に殺されようとも、当然裁判を起こすことも出来なければ、遺族にメッセージを遺すことも出来ないのだ。


「ニーズベステニーの存在は確かにこの議題を否定しているが、かといって、それを理由に何も対策をしないわけにはいかないだろう、ムドラスト殿。実際、法律で取り締まったところで、共食いの犯罪件数はさほど変化していない。なら、人員を割くだけ無駄とは思わないか」


 議会に出席している、よくわからんタイタンロブスターがそう発言した。名前など知らん。臆病者の顔と名前なんて、一々覚えていられるか。

 今までムドラストを支持していたのに、戦いとなったら手のひらを返して父についた男だ。許せん。


「……今までは、400歳にして知能を手に入れた私を基準に考えていた。それだって、当時にしてみれば前代未聞のことだったのだ。知能の判断基準を100年も早めた。ならば、ニーズベステニーをどうして例外などと言えようものか。これから先、彼のような存在が増えるかもしれないのだ。それを、知らずに殺したでは済まされないぞ」


 反論した議員に対し、ムドラストは凄まじい剣幕で責め立てる。

 彼女の言うことはもっともだ。当時の議会で考え、ムドラストという例外を全体にあてはめることを決定したのだ。実際その後、450歳で知能を獲得した者も多数確認されている。


 であれば、安易に俺という例外を認めないというのは、果たしてどうなのか。

 もしかしたら、念話魔法を持っていないだけで、新生児にして知能を獲得している者も中にはいるかもしれない。それを殺すことを、法律で容認してしまうのか?






 それからも、激しい議論が続いた。アグロムニーと極力戦いたくない連中はこの法律改正を認める動きで発言し、その提案をムドラストが真正面から叩ききるという構図だ。


 昨日の晩、ロンジェグイダ様とウチェリト様がこれでもかというほど入れ知恵を吹き込んでいた。人間界では良くあることなのだという。彼らの助言により、ムドラストは今、ほぼ無双状態である。どんな提案も、彼女に言い伏せられている。


「議決! 400歳未満に関する共食い規制の解放は認められない。ただし、400歳を超えていようとも知能を獲得していない者は多く、これに関しては積極的に試験を実施。知能の有無や程度を今まで以上に明確にする制度を新設するということを対策とし、今回の議会は閉廷とする。皆、長時間の議論ご苦労であった!」


 結局、アグロムニーは最初の発言以降傍観に徹しており、そのまま議会は終わってしまった。そしてこの後の展開は、誰もが覚悟するところである。もう、後戻りすることなどできはしない。

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