表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※異世界ロブスター※  作者: Negimono
第一章 海域
21/84

第二十話 海龍クーイク

 お久しぶりです、Negiです。テストが一段落したということで、投稿を再開します。今月から新作も投稿予定なので、ぜひそちらもよろしくお願いします。エタるのがいやだったら評価ボタンを押せ

 横列に並んだアストライア族の軍に向かって、明らかに先程よりも身体能力の向上したメルビレイの群れが突撃してくる。

 彼らの巨大さも相まって、その迫力は凄まじいものだ。


 対するは一体の海龍。父アグロムニーが呼び出した召喚獣だ。大昔に父が撃破した者であり、龍断刃の語源にもなっている。

 まあありていに言うと、父はあれの首を切断し、その死骸から眷属として召喚する魔法を作り出したのだ。


 サイズは通常のメルビレイの三倍ほどもあり、たった一体であっても彼ら全てを相手できそうな頼もしさがある。

 翼はなく、東洋風の蛇を主軸とした龍の姿をしている。


「父の召喚獣クーイク。初めて見ましたが、威圧感がすごいですね。味方だから良いですけど、あの牙をひとたびこちらに向けたらと思うと気が気ではないです」


「そうだな。私も共に戦ったことがあるが、まるでアグが二人いるかのような強さだぞ」


 大英雄アグロムニーが二人。全タイタンロブスターの中でも随一の実力を持つ彼が二人いれば、まさに向かうところ敵なしだろう。


「しかし遺魂の導きか。これまた面倒くさい魔法を使ってくる」


「知っているんですか師匠。てっきりメルビレイ特有の魔法かと」


「ああ、ニーがそう思うのも無理はない。群体魔法を使えるタイタンロブスターはかなり少ないからな。群体魔法はそもそも、魔法的にかなり近しい性質を持つ者同士でなければ使えない。その点、タイタンロブスターは個々人によって魔法的性質が大きく異なる。だから誰も使おうとはしないのだ」


 なるほど、群体魔法か。未だに俺が知らない魔法は多い。

 アストライア族の戦士は基本的に水や土などの、いわゆる属性魔法しか使わない。父のような召喚系魔法もあまり使われないのだ。


 そういった特殊な魔法は俺も良く分かっていない。強いて言うなら、最近出番が全然ない空間系魔法くらいか。


「群体魔法、遺魂の導きは、群れの大部分の壊滅と術師の死亡を条件として発動する。残った群れ全員の身体能力を飛躍的に向上させ、さらに継続的な再生魔法を付与する。しかも個人同士の意志疎通を簡便化し、集団行動を円滑にできる。言語を用いるよりも遥かに効率的な意志疎通が可能だそうだ」


 ……なんて強力な魔法なんだ。条件はかなり厳しいが、軍としてこれ以上の効果を持つ魔法は存在しないだろう。

 遺魂という名の通り、死者の魂を込めた魔法と言える。


「そして最も厄介なのが、その持続性だ。遺魂の導きは死した同族の魔力を再配分できる。ここにメルビレイの魔力が満ちている限り、奴らが止まることは絶対にないんだ」


 厄介すぎるだろ、遺魂の導き。こんなに強力な魔法が存在していたとは。


 この場所には今、死したメルビレイの魔力が満ちている。儚焔ではなく魔力であり、特殊な魔法を用いれば、魂臓を通さず直接体内に取り込むことができるのだ。


 本来なら放出した魔法は微生物や小さな甲殻類に分解され儚焔と化す。これを魂臓で自分たちが得意な属性の魔力に変換し、魔法を行使するのだ。


 しかしここに満ちているのは彼らの同族メルビレイの魔力であり、直接体内に取り込んでも問題なく魔法を行使できる。

 俺たちタイタンロブスターには絶対に不可能な魔法である。


 つまりこの場にメルビレイの魔力が満ちている限り奴らは無限に回復し続け、そして疲れを知らない身体能力を獲得する。

 一体ずつ撃破したところで海中の魔力が増えるだけ。むしろ奴らを強力にしてしまうのだ。


 本当に海龍クーイクだけに任せて大丈夫だろうか。父やムドラストが信頼を置く彼の実力を疑ってはいないが、これだけの物量差を覆せるものなのか。


「安心しろ、息子よ。奴は強い。我の欠点全てを補うのが、我が相棒クーイクの力。お前はそこで見ていると良い。そしてよく考えろ、お前ならどうするのか」


 なら、ここは父の言葉を信じて見守っておこう。


 そして改めて海龍クーイクを見てみる。

 これほど巨大で強力な召喚獣は他にいないだろう。しかしそれでもまだ大英雄アグロムニーには敵わない。


 全てのタイタンロブスターが目指すべき俺の父は、絶対的な強者をも掌握する真の強者なのだ。では俺が彼と同じ領域に至るにはどうすれば良いのか。

 それをこの戦いで見出さなければならない。ただ脱皮を繰り返しているだけでは、彼を超えることは絶対に出来ないのである。


 俺たちには聞こえない魔法的な力でコミュニケーションを取るメルビレイの群れ。彼らは先程のような単純な突撃とは明らかに異なる、見事な泳ぎで距離を詰めてきた。


 向上したのは身体能力だけだが、魔力が尽きないのは他の魔法にも当てはまるはず。

 彼らメルビレイはもともと強力な魔法を持つ。それらを十全に活用するため、広範囲に拡散する者と、海龍と直接戦闘するために狭い範囲に集合する者に分かれている。


 なるほどこれが遺魂の導き、意志疎通の力か。全員が自分の役割を理解し、全体に伝え合っているのが良くわかる。

 最適な役割分担をごくわずかな時間で行える、かなり強力な魔法だ。


 魔法で意志疎通を測っているのなら外部から解析が可能かと思ったが、どうにも今の俺では群体魔法に干渉できないらしい。彼らが何を伝えているのか全く読み取ることが出来なかった。


 先頭のメルビレイが海龍クーイクに到達するよりも先に、無数の水槍が彼を襲う。

 魔力に制限がなくなり出し惜しみしなくて良くなった分、先程よりもさらに魔法の密度が上昇していた。


 針の先も通さないほど密集した水槍。それらはお互いに触れあって干渉することもなく、面的な制圧力でクーイクを襲おうとしていた。まさに彼らの連携が成せる至上の魔法である。


 しかしその攻撃は、むなしくも全てが不発に終わった。

 海龍クーイクの水系対抗魔法だ。彼は水系魔法において最上位の存在であり、物量だけを揃えた半端な魔法では、対抗魔法で全て掻き消されてしまう。


 聞いていたよりも遥かに強力な召喚獣だな、海龍クーイクは。


 たとえどれほどの実力を持とうとも、あれだけ大量の魔法を一度に掻き消すのは並大抵のことではない。

 恐らくムドラストにも不可能だろう。それが可能なら、圧力砲を封じた時点で勝ちが確定していた。


 そして今度はクーイクが反撃する番。

 彼の眼中には後方の魔術師が映っていないらしく、集団で密集して近接攻撃を試みていたメルビレイに焦点を合わせる。


 硬骨を持ち、圧倒的な重量を備えたメルビレイの突進。高い知性を感じさせる連携のとれた突撃に、海龍クーイクは渾身の魔法で応えた。


 超常的なまでの圧力の嵐。原理はただの水流操作だが、加わるパワーは全くの別物である。メルビレイは前列から順に押しつぶされるか、切断されていく。


 彼らの攻撃はただの一発も海龍に到達することはなく、作業的に処理されるばかりだ。


「我は一対一の戦いならば絶対に負けないが、何分攻撃範囲が狭い。奴らが我を無視して後方まで攻め入ったとしても、即座に助けに入るのは難しいのだ。しかし奴は違う。瞬間的な攻撃力こそ我に劣るが、多対一の戦闘でアレ以上に強い者はそうおるまいて」


 父の言葉通り、彼の戦闘力は多勢を相手するのに特化している。

 確かにメルビレイの魔法を打ち消せるほど高い魔法制御能力を持っているが、彼の攻撃はとても大味で範囲が広い。魔法制御は彼の本分ではないのだ。


 圧倒的な物量を持つメルビレイに対し、クーイクは敵を殺し続けることで向こうの動きを拘束している。

 本来ならこの場にある魔力が続く限り無限に動き続けられるメルビレイだが、激しい動きを抑制されていた。


 完封。まさにその言葉がふさわしく、メルビレイたちは何もできずに殲滅されていく。魔力差も物量差も最初からなかったかのような戦い。彼には数量なんてあってないようなものなのだろう。


 ここまで圧倒的な力の差があると、誰が予想できただろう。俺が必死こいて考えていた作戦がバカみたいじゃないか。

 これほどの力を、たった一個人が持っているというのが凄まじいな。


 龍の頭も切断する大英雄アグロムニー。

 強化されたメルビレイの群れをも完封する海龍クーイク。


 この二つを、父はそのたくましい身に宿しているのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ