10『小さな駆け引き』
前話『おちゃめな贈り物』と微妙にリンクするエピソードです。なのでやっぱり「ほんのり汚い」話です。苦手な方はスキップしてくださいませ……。
――はは、ひどい話だったでしょう? そんなもの読ませて、ごめんなさい!
……今の話はあなたのような可愛らしいお嬢さんには、ちょっと微妙なジャンルでしたね。「その話は飛ばした方が良いですよ」と注意しておくべきでしたね!
「あら、あたしのこと舐めないで! 真のレディーは、こういうお話も平気で読んで、品良く微笑えるものなのよ!」
……そ、そうなんですか? どうも私の想像する「レディー」とは、だいぶ開きがあるようですが……まあそれなら良かったです、ちょっと安心しましたよ。
「……ねぇねぇ! ちょっと手を出して……!」
手をですか? はい、どうぞ……おや? 私の手のひらをくんくんかいで、いったいどういうことでしょう?
「……あらら? なんだか甘い香りがするわ! 何かのお花みたいな、ほんのり良い香りがする! もしかして香玉の残り香かしら?」
はは、いえいえ、このにおいは……、
いや、今は言わないでおきましょう。この本を読み進めていけば、じきに理由が分かるでしょうから……。
「それにしても、やっぱり真名は大事なのね! 本の中にあなたの名前が出て来ないのは、そういう理由があるからなのね!」
ええ、そうなんです……それに「ファンゴ」という妖精の名も、実は真名じゃあないんです。彼の身に思わぬ危険が及ばぬよう、ちょっといじってあるんですよ。もちろん彼の本当の名は、今でも頭にありますけどね!
「ふぅん……それはそれとして、ねぇ吟遊詩人のお兄さん? あたしも最初にフルネームで、自分の名前を教えたわよね!」
……ええ、そうですよね。ミモザ・ミンク・ミルク……。可愛らしいお名前を、ちゃんと教えていただきましたね。
「でもねぇ、お兄さん! あなた、あたしには真名を教えてくれてないわよね? 今の話の流れじゃあ、宿帳につけたお名前もきっとデタラメなんでしょう?」
……ふふ。ばれてしまいましたか……!
「そうよ、そのくらい分かるわよ! そんでもって、ねぇお兄さん? あなた最初にあたしのこと『人外か、魔物か』ってさんざからかってくれたけど……この本を読む限り、あなた自身が……!」
いやいや! その質問はこの本をひととおり読んでからにしてください……! そうすれば、そのうちきっと、私の真名も明かしますから。あ、もちろんとちゅうで眠たくなったら、ご自分のお部屋に戻ってお休みいただいて構いませんよ!
それはともかく、さあミモザ。そろそろ次のお話を読んでお口直しを……!
今度は綺麗で甘いお話です、少し茶色くなってしまった頭の中を甘みでお掃除してくださいね。
ほら、タイトルからきらきらしくて素敵でしょう……?




