月街 瀬季
いつも(?)より少し多めです!
洗脳とは、強制力を用いて、ある人の思想や主義を、根本的に変えさせることである。
洗脳する方をAさん、洗脳される方をBさんとしよう。
まず、Bさんが信じている物が少ない方が圧倒的に洗脳しやすい。それに、怖がりの方が良いのだ。
その理由は、嘘によって恐怖心を植えつけ、相手をコントロールしていくからだ。
そしてAさん。Aさんは、嘘をついたりするのが上手い方が良い。そして圧をかけられる人が有利だ。
だが、メリー・サイコワネットはそんな事を気にしてはいない。メリー・サイコワネットはどんな人でも、どんな状況でも、洗脳することが出来る。
実際、瀬季も洗脳された。
「なぁ、殺すったって、どうやって殺すんだよ?」
俺が聞くと、メリーが少し悩みつつ答える。
「そうね…一番私が好きな殺し方は、ナイフで滅多刺しにする事なんだけど…初心者には無理だから、今回は睡眠薬を使いましょうか」
「睡眠薬?普通使うんじゃないのか?」
「はぁ?なに言ってるのよ。普通睡眠薬なんて使わないわよ」
メリーが呆れながら答える。
「え、でも睡眠薬使わないと逆に殺されたりしないか?」
「プロをなめないでほしいわ。もっと強いわよ。それに、睡眠薬なんてあんまり売ってないんだから、一発で殺しなさいよ?」
「あ…はい…」
俺がメリーの超高速早口に戸惑いながら答えると、メリーはまた話し始める。
「睡眠薬をお茶かなんかの飲み物に入れて、眠ったところをナイフで滅多刺しにする。いいわね?」
俺がコクリと頷くと、メリーがボソッと言った。
「拳銃は嫌なんでしょうから…」
「っ…」
俺だって、なんで拳銃が嫌なのかなんて分からない。水鉄砲で遊んだりもよくしたし、よくある形なのに、なぜかメリーの拳銃は怖かった。
「じゃあ、はい。これ」
そう言いながら、メリーは睡眠薬と思われるカプセルを取り出し、カバーが着いているナイフと一緒に俺に渡した。
「じゃあ、いってくる」
「えぇ、いってらっしゃい…あ、大事な事を言い忘れてたわ。絶対誰にも見つからないようにしなさいよ」
メリーの声に立ち止まり、小さく頷き、また俺は歩き出す。
月街邸ーー
「ただいま…」
「おー!おかえり瀬季!」
「うん…父さん、お茶でも淹れようか?」
「あぁ!頼む!」
(瀬季がお茶を…)
クソ親父は『瀬季がお茶を…』とか思ってんだろーなぁ。
そんな事を考えながらお茶を淹れ、そこに睡眠薬をポトンと落とす。
そして棚からクッキーの入った袋を取り出し、お皿にドササッと盛り付ける。
二つをソファーに座っているクソ親父へと持って行く。
「はい、お茶。それとクッキー」
「お、おぉ。ありがとな」
(瀬季がクッキーを持ってきた…!食べたかっただけなのか…?いや、これは父親である私のため…!嬉しい…!)
「頂きまーす」
言いながら俺はクッキーを口に運ぶ。クソ親父もクッキーを食べる。
(チッ。早く茶ぁ飲め!)
心の中で舌打ちをした途端、クソ親父はクッキーを飲み込み、お茶を飲む。
すると、ティーカップから手を離し、ドサッとその場に倒れ込む。
「え、もう?早っ!」
ボソボソ独り言を言う。
懐からナイフを取り出し、クソ親父を刺す。
が、
「っ…!?刃が…通らない…!」
のだ。
皮膚に少し刺さり、血がスゥッと流れる。
刃が通らない理由は明白だった。クソ親父の筋肉の付き方が特殊だったからだ。
クソ親父は毎日十回は筋トレをしていた。それ故に、筋肉が硬い。
今俺が刺した場所は、(多分)脇腹。他の所は力ずくで肉に刃を通していく。
ある程刺し終えた後、声が聞こえてきた。
「旦那様ー?御夕食のお時間ですー」
メイドの声だった。
こんなクソ野郎でも、一応高校の校長だ。
それなりの金は持っている。当然、メイドや執事、お手伝いさんなんかもいる。
『絶対誰にも見つからないように』
ふと、そんなメリーの言葉が脳内に蘇る。
今のこの状況をメイドに見られたらどうなる?そんなの分かりきっている事だ。
捕まる。
ヤバいヤバいヤバい。早く早く逃げなければ。早く…!早く!
俺は自分の部屋に包丁を持って駆け込んだ。と同時にメイドの、
「きっ、きゃあああああああああぁぁぁ!!!!!だっ、旦那様!?旦那様!?どうなさいましたか!?旦那様ああぁ!」
という悲鳴が聞こえてくる。
その後、バタバタバタッと沢山の足音がクソ親父とメイドの元へ向かっているのが分かる。
「旦那様…!?どうしてこんな…とっ、とにかく、救急車を呼べ」
「はっ、はい…!」
そんなやりとりが聞こえてくる。
それから約十分後、
ピーポーピーポー
という音と共に、救急車がやってきた。
俺は、救急車が病院へ出発した後、執事と一緒に病院へ行った。行きたくもない病院へ。
病院に行くと、なぜかメリーがいた。
執事と離れてメリーの元へ行く。
「あら、遅かったわね」
「しょうがないだろ」
「というか、クソ親父死んだ?」
「いや、まだ息があるそうよ?」
「チッ…アイツ筋肉付け過ぎなんだよ…」
「ま、助かる可能性は低いけどね」
「!」
メリーと話していると、少女の声が響いてきた。
「ちょっと!離してよっ!やめて!誰があんなクソ野郎に血なんて分けると思ってんの!?あたしは絶対分けないから!っていい加減に手ェ離しなさいよ!」