校長の子ども
教室中は転校生がこの教室に来るという噂で持ちきりだった。
俺の名前は月街 瀬季。
転校生というのはさっきあのクソ親父に紹介されたメリーとかいう子の事だろう。どーせあのクソ親父が俺と仲良くするようにって仕込んだんだろーな。
そんな事をボヤ〜っと考えていると、先生が来た。多分メリーも一緒だ。
「はーい、席に着けー。転校生を紹介するぞー」
先生の声に教室がざわざわと騒ぎ始める。
「やっぱりここに来るんだ〜!」
「女の子かな?男子ならカッコいい人がいいな〜」
「絶対可愛い女子だろ!」
「静かにー。入って来ていいぞ」
先生の声とほぼ同時に教室に、金髪のロングヘアーにリボンが着いていて、その下を三つ編みにしたメリーが入って来た。
(はあ…やっぱりか…)
俺は心の中でため息をついた。
「よろしくお願いします。滅裏夜魔 叉遺娘です」
はっ?
メリーがニコッと笑いながら挨拶すると、またしても教室中から声が湧き上がる。
「めりやま??めーちゃんって呼んで良いかなっ?めりやまさんの方がいいかなっ?どっちがいいかなっ!?」
「いやそこは『めりめり』でしょ!?」
「やっぱり可愛い女子だったーーーーーー!」
「ハーフじゃん(見た目が)!?」
「かわいっすぎだろ!?」
いや、は?なに滅裏夜魔 叉遺娘って。は?お前名前メリーだろーが。
多分俺が漫画の世界の人間なら、余裕で顔面崩壊してる。顔面崩壊しすぎて違う人になってるかも。
「はい!静かに!め、めりやまの席は…月街の隣が空いてるな!」
「え"」
先生の言葉に俺は絶句する。
「いや…ちょ…」
「よろしくね」
「はぁ…」
俺はもう諦めた。もうコイツの事は出来るだけ視界に入れないようにする。
ーーそう思っていたけど、そう上手くは行かない。世の中甘くない。
なんとメリー(今はめりやまだけど)に校内案内をしろと言うのだ。先生はなんて気の利かない先生なんだろうか。
「別に案内しなくてもいいわよ」
メリーが言うが、俺は慌てて否定する。
「え、ダメだろ。案内するよ」
「そう。じゃあ行きたい場所があるんだけど、案内してくれるかしら?」
「ん?どこ?」
「第三体育館倉庫裏」
「え、あそこに行くのか?」
「連れてってくれるんでしょう?」
俺より背が大分低いメリーがにやぁと笑う。
「う、まぁ…」
「さぁ、連れてって♪」
第三体育館倉庫裏ーー
「着いたよ。ここでいいんだろ」
「えぇ、ありがとう。じゃあ本題に入るわ」
「本題?」
「えぇ、貴方には私のある目的に協力してほしいの」
「その目的の内容によるんだけど」
「……貴方、憎い奴がいるでしょう?殺してやりたいくらい憎い奴が。それは…まぁ、校長ってところかしら」
「…それを聞いてどうすんだよ」
俺は声のトーンを一、二トーン落として言う。
「殺すのよ」
「こっ、殺すって…」
「人を殺した時のあの快感、一度味わっておいた方がいいわ」
「じょ、冗談だよな…?お前そんな事してないよな…?」
「本気よ。私は今まで何十人と人を殺して来たわ。」
「嘘だろ…?なぁ、嘘って言えよ…」
俺は、胸が張り裂けるように痛かった。転校してきた女の子が人殺し?しかも何十人も殺してる…?信じる方がおかしい。
「そうね…じゃあこれで分かるかしら…?」
そう言い、メリーは血の付いたナイフ、斧、拳銃、色々な凶器を次々と服から取り出し始めた。
『拳銃』
なんの変哲もない、ドラマや漫画などで見る、普通の拳銃。のはずなのに、その拳銃をみた瞬間、俺はとてつもない恐怖に襲われた。
「っ…!」
「私に身を委ねれば、あなたは楽になれるわ。あの快感を味わって、憎き者を殺せば、貴方はもう元には戻れないし、あなたがあなたでなくなってしまうかもしれない」
「でも…それでも…」
「ふふっ」
「俺は(クソ)親父を殺したい…!」
「いい覚悟だわ。私について来なさい?」
そう言い、俺の手の甲にナイフで十字の切れ目を入れる
「これは…?」
「契約の印よ。あなたはもう迷わなくていいのよ!さあ、一緒に新たな世界へ行きましょう!!」
「あぁ!」
メリーのこれは、洗脳に近い。
説得ではなく、洗脳。
メリーが言う事全て、正しい事のように感じてしまう。メリーの言う事がこの世のような、そんな不思議な感覚に襲われる。
その理由として考えられるのは二つ。
一つ目は、メリーの声。メリーの声は圧倒的な存在感を持っていた。
二つ目は、メリーの言葉にかかる圧。命の重さ。
メリーは殺しの全てを教えてくれるようなきがした。